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行動開始


 ミズキの言葉を聞き、ゆっくりと背凭れに体重を預ける。

 殺すか殺さないかは自由。選択肢があるならば、北條が選ぶのは1つ。殺さない、だ。問題はその後に2週間拘束しなければいけないこと。


「1つの場所に閉じ込めて、食料だけ与えとけば大丈夫かな?」


 ガルドという人物を閉じ込めた後、北條はミズキに手を貸して地獄壺跡地に行かなければならない。そうなれば面倒も見ることも出来ないだろう。なら、自分で生き抜いて貰うしかない。

 北條がボソリと呟いた言葉にミズキが反応する。


「殺すつもりはないってこと?」

「あぁ」

「そう。それならアタシしか知らない地下空洞を教えるから、そこに放り込んでおいて」

「良いのか?」


 殺した方が面倒は少ないのは確実だ。どっちでも良いとは言っていたが、ミズキも商売敵が減った方が安心はするだろうと思っていた北條は思わず聞き返していた。


「確かに殺した方が確実なんだろうけど、アナタにやりたくもないことを強制してモチベーション崩されたら面倒だからね。ある程度は譲歩するわよ」


 片手をピラピラと振って返答するミズキ。

 それを聞いて北條はほっと胸を撫で下ろした。


「その代わり、ガルド達を捕まえるのも彼らが捕まっている時に死なないように環境を作るのもアナタの仕事だからね?」

「分かった」


 すんなりと方向性は決まる。

 頭の中でどれだけ食料や水があれば2週間生き延びられるか考え、ある程度計算し、金額を導き出す。


「これ、貰っても?」


 指を指したのは机の上にある札束。

 北條では真面に働いても、滅多にお目に掛かれない金額。それをミズキは惜しむ様子もなく笑顔で北條の方に押し出す。

 あまりの大金にドギマギしながらも北條はそれを受け取った。

 慣れない金額を扱う北條をニヤニヤとした笑みで見ていたミズキだが、北條が札束の一部を懐に仕舞い、残りをバックの中に入れたのを見て問いかける。


「もしかしてスリ対策?」

「いや、それもあるけど買い物をしたいと思ってさ。ここに食糧店とかある?」

「あるにはあるけど……あ、もしかしてガルド達の食糧。アナタが買うつもり?」

「そうだけど」


 当然と言った様子の北條に、ミズキが目を丸くする。そして、視線を外して顎に手をやり、小声でつぶやく。


「やっぱ自分から損を引き受けるタイプ? 予防線張る必要もなかったか」

「どうした?」

「何でもない♪」


 その小声は北條には聞こえなかった。なにやら真顔になったミズキに北條が問いかけるが、何でもないと笑顔を振りまいた。


「そっか。なら、確認しておきたいことがある。ガルドが何処にいるかは分かってるんだよな?」

「勿論。アイツの情報はいつでも掴んでる」

「警戒とかは?」

「問題ない。アイツはアタシのことを下に見て油断してる。地獄壺に行くために護衛を雇うつもりみたいだけど、まだその護衛の選定中だから、アイツは今1人よ」


 油断してる。その辺りからミズキの顔が憎々し気なものに変わった。どうやらガルドという人物に良い思いを抱いていない様子だった。


「何か、あったのか?」

「……アタシが駆け出しのころにガッツリ借金を背負わされたのよ」

「借金⁉ いくら⁉」

「100万ぐらい。思い出しても忌々しいな。アイツ、アタシにもっと借金を背負わせようと裏で色々動いていたのよ? アタシがそれに気づいていなかったら今頃もっと——」


 1000万をあっさりと出すミズキが表情を歪ませる金額。一体どんな金額なんだと勝手に高く見積もっていた北條は、予想していたよりも低い借金の額にある意味唖然するが、ミズキにとっては無視できないものなのだろう。

 ムスッとした表情を浮かべて、眉間には皺がより、近寄りがたい雰囲気を放っていた。


「そ、そっか。大変だったんだな」

「そうよ。だから、今回はアタシが勝ってアイツに辛酸を飲ませるのよ‼ コップ一杯分ね‼ 舐めさせるなんて甘いことはしないわ‼」


 ウガー‼と吠えるミズキの様子を見て北條は、アレ? もしかして、ちょっかい掛けたいだけでこんなことするの?などと考えるが、それを見透かされたのかミズキに鋭い視線で射抜かれる。


「アタシとアイツは因縁の敵同士‼ アナタもアタシの顧客なんだから、アイツに靡くなんてことあったらただじゃ済まさないからね‼」

「分かったよ」


 指をビシッと突き付けてきたミズキに北條が首を縦に振った。何だか拘束力が強いなぁと感じてしまう。


「分かれば良し。それじゃ、最後の準備をしてからガルドの所に行きましょうか」

「もう行くのか?」

「そうよ。早い方が良いもの。地下で万屋やってるのはガルドだけじゃないし、動き出しているのはもっといるはずよ」

「マジかよ。他の奴等の対策は?」

「問題なし。他の奴等はガルドみたいに手古摺ったりしないから、放置でいいわ。正直、アイツ等に護衛とか雇う金があるかも怪しいし」


 椅子から立ち上がり、持って行くものを物色し始めるミズキ。既に準備を終えていた北條はそれを眺めながら口を開く。


「そうなのか?」

「そうよ。アタシ、これでも万屋では売り上げトップランカーだからね?」

「へぇ~」


 感心したような声を上げた北條にミズキは得意げな顔をする。


「だから、幸運なのよアナタは。なんせこのアタシに声を掛けられたんだからね。今身に着けている装備も本部から支給される武装よりも強力なものなのよ」

「それは身に着けた時に感じたよ。本当にすごいと思ってる」

「そうでしょ。そうでしょ。なんせ他の連中だって買いに来るもの。それだけの価値があるのよ」

「他の連中って。レジスタンスの人達のことか?」

「そうよ。特に支部の人達ね。性能の良いヤツはどうしても本部所属に回されるから、お金を集めて1人だけでも性能の良いヤツをって考える人が多いのよ。他と違って同じ物でも性能が良いって評判なのよね」

「……そうだったのか」


 レジスタンスが万屋を利用することは知っていたが、まさかミズキがそれほど評価を受けている人物だったとは思わなかった。

 僅かに胸を逸らし、自分の功績を口にするミズキ。その華奢な見た目では、北條が来ている装備の調整から手入れまで出来る人物には見えない。

 しかし、実際に北條もミズキが手入れした装備を身に着けたからこそ分かる。彼女の整備の腕は相当なものだと。


 誰にでも合うように製造されている戦闘衣(バトルスーツ)。だが、個人差で僅かなズレは感じてしまうもの。それを短時間で個人専用に調整し、性能を最大限に引き出させている。銃の方も手入れが行き届いている。

 部屋の騒音で瓦礫の中に放置されている者だとばかり思っていたが、実はそうではないのかもしれない。と銃を手に取ってそう考える。


「よいしょっと」


 そうしている間にもミズキは準備を終えていた。

 自分の体よりも大きなリュックを背負うと、北條へと顔を向ける。


「それじゃ、行こっか」


 その様子に北條は目を丸くした。


「ま、待て——もしかして、一緒に行くつもりか?」

「当然」


 てっきり自分1人でやるものだと思っていた北條は、驚いた様子でミズキを見る。しかし、ミズキは気にした様子もなかった。


「アタシがいなきゃ、地下通路とか分からないでしょ。ほら、行くわよ‼」


 そう言ってミズキは元気よく外へと出ていく。一瞬、北條は唖然としてしまうが、雇い主がそういうのであればと考え、その後に続いた。

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