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偶然の出会い

 

 常夜街のとある長椅子で北條一馬は項垂れていた。

 時刻は昼過ぎ。

 度重なる飯抜き地獄で北條の腹の中は空っぽ。現在進行中で何かを入れてくれと腹が訴え続けているが、それを無視して北條は手元にあるチラシに目を落とす。

 幾つかのチラシをクシャッと丸めて近くにあったゴミ箱に放り投げる。放り投げたのは既に募集が終わったバイトだ。


「はぁ~」


 大きく溜息をつく。

 これまで走り回ってバイトを探したが全てに落ちた。1つ1つチラシに✕印が付いていく様子を見て気を落とすなというのが無理な話だ。


「せめてもうちょっと考えてくれても良かったんじゃないかなぁ」


 これまでバイトを受けた所は早い者勝ちという所が多かった。だが、その中では北條がまだ子供だと見た目で判断して侮る者もいた。


 ——君子供でしょ? 無理無理。


 等と言って隣にいた金髪の男が受かっていった様子は正直北條の心に傷を付けた。同時にその金髪の男が北條に向かって優越感に満ちた表情をしていたのでダブルの意味で凹んだ。

 ルスヴンも北條が侮られたことに怒っていたが、最近碌なものを食べておらず、空になった腹では喋る気持ちがないのか、今では大人しくしている。


「はぁ~」


 思い出し、より一層深い溜息をつく。

 見た目的にはそれほど歳は離れているようには見えなかった。何が違ったのか。やはり、筋肉で見た目が厳つそうだったから選ばれたのか。だが、受けに入ったのは清掃会社のバイトだ。厳つさなど関係あるはずがない。

 手元にある残り2枚となったチラシに視線を降ろす。

 この2つは北條も受かる可能性が低いと判断して残していたものだ。募集要項の欄には年齢問わずと記入されているが、その下に専門的知識が必要等と記入されている。


「——よし。頑張れ俺!!」


 絶賛下降気味な気分を無理やり上げて北條は立ち上がる。

 このまま金欠をしていたら死ぬのは北條である。この状況を打開するためにバイトをすると決めたのだ。受かる可能性が低いからと言って引き下がれるはずがない。


「専門知識が何だ!! 学歴がどうした!! 俺の中には熱い(ソウル)がある!!」

『中にいるのは氷結の吸血鬼だ』

「シャラップ!!」


 静かにしていたルスヴンがボソリと告げるが北條は気にしない。

 ズンズンと大股でチラシに記入されている住所まで足を進めていく。


「(何事も進まなければ始まらない。可能性に囚われ、足を止めることこそ最も愚かな所業である。By北條一馬)」


 等と意味の分からないことを心の中で呟き、心を強く持つ。

 目の前には目的地である建物。魔王城のように禍々しい雰囲気を持つその城を前に勇者は拳を強く握る。

 目線は力強く、口元は愛想よく、髪型は清潔に、唾で喉を潤し、いざ尋常に——


「うん、無理だね」


 一刀両断された。


「————」

宿主(マスター)。大丈夫か? 何か食うか?』


 再びベンチに座りこみ、北條は肩を落とす。

 先程のチラシは既にクシャリと握り潰され、ゴミ箱に力強くダンクシュートされた。恨みつらみをそれで張らせても、何をしても無駄なのではという無力感が残り、北條は再び気を落としてしまう。

 その有様を見てルスヴンが思わず声を掛ける程、今の北條は酷かった。


『そう気を落とすな。まだ1つ残っているではないか』

「うん」

『受からなかったものは背負うがない。先程の人間共は見る目がなかっただけ。なんせ、碌にお前に目を向けなかったからな‼ だから、お前が悪い訳ではない』

「うん」

『反省するべき点もない。相手が悪かっただけ。ならば、相性の良い奴を探すだけだ。仕事等いくらでもある。なんなら異能を使っても良いぞ‼ 氷の彫像でも作って金持ち共に売り払っても良し‼』

「あ、そういうのはNGで」

『ム——う、うむ。そうか……』


 良い考えだと思っていたルスヴンが否定されたことで言葉に詰まる。

 その戸惑った様子に北條はクスリと笑った。


「ありがと。ルスヴン。励ましてくれて」

『——別に大したことではあるまい』

「そっか」

『そうだ。お主の腹が減れば、余の腹も減るのだからな』


 姿は見えずともどんな態度を取っているか想像が出来た北條は再び笑う。もう死にそうになった表情はそこにはない。

 椅子から立ち上がり、次こそはと意気込む。


「——おっと。忘れる所だった」


 椅子から立ち上がり、数歩歩いた所で北條は思い出し、引き返す。

 座っていた椅子にはチラシが置きっぱなしだった。それを手に取ろうと手を伸ばすが、その時、丁度北條の傍を一台の車が高速で横切った。


「うわぁッ!?」


 その次にやってくるのは装甲車。それも屋根には機関銃を装備した明らかに街中では走らないもの。それも高速で北條の横を走っていく。

 歩道にいたため、轢かれることはなかったものの、蛇行運転のようにグラグラとしていたため、恐怖するには十分だった。


「強盗でも起こったのか?」

『そうだろうな。まぁ、装甲車が相手では犯人は殺されるのがオチだろうがな。宿主よ。犯人のように馬鹿な行動は取ってくれるなよ?』

「そうだな。努力するよ」


 前を走っていた車の中は一体どういう人物なのか。

 職にあぶれずに仕方がなくか。それとも元々そういうことに手を染めているのか。


「(いや、違うな。元々なんて可笑しいんだ。誰だって必要なければ犯罪に手を染めたりはしない)」


 職が十分にあれば、人があぶれることはなく。十分に経済を回せる歯車の一部になれる。

 この街は閉鎖空間だ。大地も少なく、企業の数もそれだけ少なくなっている。だが、その空間の中で人間だけが増えていく。

 どうしようもないことだ。労働力は十分ある。だから、人を探す理由など企業の方にはなく、手の空いた働き手だけが余っていく。

 生きるために彼らは何かをしなくてはいけない。だが、それは何だ? そう問われると北條には答えは1つしか導き出せない。

 誰かから奪うこと。犯罪行為に手を染めることだけだ。


 それは間違っていると咎めるのは簡単だ。では、その状況に陥った時にそれを前に指を指し、偉そうに胸を張ってお前は間違っていると言えるのか?

 今正に北條はその瀬戸際に立とうとしているかもしれないのに。


『宿主、時間に遅れるぞ?』

「あぁ、そうだな」


 車が走っていった方向から視線を外す。

 この街にも犯罪者は多くいる。ジャックもその内の1人だった。

 ジャックを殺そうとした時、自分はジャックの行動を間違いだと思っていた。ジャックについていこうとした者達も同じだ。騙されたとはいえ、何故そんなことをしたのかと思っていた。間違いだと誰も咎めなかったのかと思った。

 でも、今になって思う。

 誰も咎められなかったのではないのかと。力で押さえ付けられていたからではない。それもあっただろうが、彼らはもしかして、そうせざる負えない状況にまで生活が追い込まれていたのではないのか。そんな考えが出てくる。

 その考えは半分当たっていた。ジャックに協力していた大半の若者達には詰らない非日常に憧れた者達だ。だが、ジャックのばら撒いた物資を頼りに集まってきた者達もいたのだ。

 どうしようもない状況を打開するために。少しでもマシな生活を整えるために動く。善と悪の判断基準はともかく、そういったことのために動くのは今の北條と彼らと何の違いもない。


「あの外はどうなっているんだろうな」


 黒く、暗い、街を覆っている帳を見る。

 あの外には何が広がっているのか。ほんの少し、それを夢見て北條は歩き出した。


「あれ? アナタ、確か前に店に来た人?」

「——ん?」


 のだが、後ろから声がして思わず振り返る。

 そこには、背丈に似合わない大きなリュックを背負い、茶髪を揺らした快活そうな見覚えのある少女がいた。


「確か、地下の——」

「それは言わないで。どこに耳があるか分からない」

「ご、ごめん」


 目つきが鋭くなった少女を見て北條は反射的に謝罪を口にする。

 それを見た少女はニカッと笑った。


「別にいいさ。それよりも、自己紹介をしなくちゃね」

「自己紹介って——あ、そうだ」


 少女に言われて北條も思い出す。

 あの時、武器に気を取られて名前も言っていなかった。失礼だったかと反省する北條を余所に少女は腰に手を当てて胸を逸らし、顎をクッと少し上げた。


「アタシの名前はミズキ——『アナタの望みを全て叶える』をモットーに商売やってる天才美少女よ!!」

『……此奴。自分で美少女と言い負った。それほど美しくもない癖に』

「(ルスヴンやめなさい)」


 ルスヴンを咎めつつ、北條はミズキと名乗った少女を見る。

 ミズキは腰に手を当てたまま北條を見ている。どうやら北條が名乗り出るのを待っているようだった。

 これも何かの縁かと思い、北條も名乗る。


「俺の名前は北條一馬。まぁ、何の取柄もない普通の美少年です」

「ブー!!!? 美少年ってwww」

「ぶっ飛ばすぞ。美少女(仮)」

「誰が(仮)よ!?」


 ウガーと猫が威嚇するように怒り出すミズキ。

 北條も笑われたが、自分でも美少年などとは思っていないので特に気にした様子もなく、ミズキの怒りを受け流す。


「それで、こんな所で何をしてたんだよ。珍しいんじゃないか? 外に出る何て」

「ふん、アタシがずっと籠っているとでも? これだから駄目なのよアナタ達は。商売のために外に出るのも仕事の内よ」

「へぇ~大変だな」


 まるで他人事のように言う北條にミズキがムッとした表情を作る。だが、直ぐにあくどい笑みを浮かべると北條に詰め寄った。


「知ってるのよ。アナタ、今日だけでどれだけのバイトに落ちたのか」

「ハッ——そうだった。こんなことをしてる場合では!!」

「——ってちょっと待ちなさいって!? アタシの話を聞きなさいよ!!」


 弾かれたように動き出す北條。そんな北條に飛び掛かり、急ブレーキをかけるミズキ。

 首根っこを引っ張られ、首が閉まりかけた北條はミズキに抗議する。


「離せって!? 俺はこんなことをしている暇はないんだ!! 生活が懸かってんの!!」

「それはアタシもよ!! だから話を聞けっての!!」

「離して!? 伸びちゃう。伸びてダラダラになっちゃう!!」

「そんなダサい服がヨレヨレになってもそんなに変わらないからッ。アタシの話を聞けっての!!」


 体格では北條が勝っており、ミズキはズルズルと引き摺られているが、それでも北條の服から手を離す気はないようだった。

 その様子から大切なことでも頼みたいのかと考えて北條も足を止める。


「……俺に何をさせたいんだ?」


 北條がそう尋ねるとミズキはニカッと笑って1枚のチラシを見せる。そのチラシは北條も持っていた清掃会社のバイト募集のチラシだ。

 それを北條の顔の目の前に掲げて、チラシの横から顔を出したミズキは口を開いた。


「簡単よ。ちょっとバイトするつもりはない? これの邪魔をして欲しいの」

「はい解散~」

「ちょっと待ちなさいよぉ!?」


 ミズキの怒声が暗い路地に響き渡った。

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