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少女の胸の内

 

 結城えりという少女は人を2つに別けている。

 守るべき弱者と指示を乞うべき強者。

 守るべき弱者とは民間人。そして、異能を持たないレジスタンスのメンバー。北條一馬や加賀信也も含まれていた。


 何故共に戦うべきレジスタンスの仲間も守るべき対象とするのか。

 決して2人の人柄が好きだからという感情で決めた訳ではない。これは結城えりという少女の歪みだ。

 結城えりが弱者と強者を別ける基準は異能があるかないか。

 異能があれば強者と認定し、異能がなければ弱者と認定する。

 無論、これは結城が意識してやっていることではない。無意識下で行っていることだ。もし、意識してやっているのならば、彼女の性格はもっと捻くれたものになっていたに違いない。

 結城には共に戦うという選択肢を出すことが出来なかった。

 それは研究所で言われた言葉が未だに結城に焼き付いていたからだ。


『人類の未来は君達に掛かっている』『君達だけが頼りだ』


 幼い頃からずっと聞かされてきた言葉が常識として刷り込まれていた。

 異能持ちではない者は役には立たない。むしろ守らなければならない。だから前に出してはいけない。

 誰かの指示ならばそれが強者ならば素直に従い、弱者ならば理由付けをして先に行かせる。ずっと彼女はそうしてきた。


 自分が前に出なければならない。

 異能持ちではない者達を下級の吸血鬼を相手にするならばまだしも、中級以上を相手を任せることは出来ない。

 戦えば敗北は確実。真面に足止めもできずにやられるだけだ。

 ならば自分が足止めした方が良い。自分が戦った方が良い。そう彼女は考えていた。

 言うなれば、結城は周囲の者と自分を区別していたのだ。無意識で役に立たないと切り捨てていた。例外は自分よりも強い異能持ちの面々のみ。


 だが今回、北條が力を示した。

 それは失敗作と言われ続けてきた結城よりも強力だが、制限があるものだった。

 制限がある異能などは耳にしたことはない。

 勿論疑った。失意の中にあったことで、どう言い訳しようが結城の眼には北條が吸血鬼を圧倒したようにしか見えなかった。

 何故異能なんかを隠していたのだと。馬鹿にしていたのかと。嫉妬し、怒りが湧いた。

 だが、冷静になり、異能を隠していた理由がふと頭に浮かんだ。


 北條一馬が異能を持っていたことはレジスタンス内でも聞いたことがない。それに自分とは違い、力があるならば支部ではなく、本部所属になるはずだ。

 では、何故北條は支部にいるのか。恐らくレジスタンスも北條が異能を持っていることを知らない。北條の様子からして隠れて任務をこなしている様子もない。

 制限がある。ということは定かではない。しかし、北條が人前で異能を使ったことは本意ではないことが理解できた。


 異能持ちはレジスタンスでも優遇されている。それなのに隠す理由がある。結城は自分の中で情報を結び付け、北條の出自を予想する。

 自分と同じだと。あの実験の被害者なのだと。もしかしたら脱走していた生き残りなのかもしれないと。

 そうならば異能を隠す理由が分かった。あの実験は忌むべきものだった。あそこで子供の命は取り換えが出来るものでしかなかった。

 もし、あの実験に関わっていると思われたら、どうなるのか。そう思って隠しているのかもしれない。そう結城は考えた。


 実際には北條はルスヴンによって異能を一時的に借りているだけで、自分の異能を持っている訳ではない。だが、そこまで結城は分からない。北條に都合よく、自分の情報を集めて結城は勘違いを積み重ねる。

 同じ実験を受けた被害者。失敗作と脱走者。過去を共有できる者として信頼でき、本来の異能持ちとは違うという点で距離が縮んだ。


 だが、それだけでは結城の中で北條の位置づけが守るべき者から指示を乞うべき強者に変わるだけだ。

 例え制限があったとしても結城は北條が自分よりも強い者と判断する。

 考える余裕がなかったが、冷静になった状態ならば分かった。幻覚を見せる吸血鬼と戦った際、術中に嵌った人間と対吸血鬼用装備を着込んだだけの人間。手が伸ばせば殺せる距離にいる相手を殺さずに撤退するのは可笑しいのだ。


 しかし、その位置づけは北條の言葉によって変わる。

 ——異能は強力でも俺が強い訳じゃない。それは異能で人を別けていた結城にとって理解できないものだった。新しい価値観だった。


 そのおかげで、北條一馬は結城の中で守るべき者から仲間へと位置づけされた。

 上を見上げるか、下を見下ろすかしなかった結城に横を向かせた。

 初めて彼女は同じ位置に立つ者を見つけることができた。

 それは頼れる人とはちょっと違うもの。

 手を貸さなければいけない。けれど、一方的に引き上げるのではない関係。

 これは仲間。というものではない。そもそも仲間であるならばとっくになっている。ならば、これは何というものなのか。

 そう考えて、暫く考えて結城は結論を出す。仲間の中でも更に特別な関係。


 ——友達。


「(そうか。これは、そういうものか)」


 自分で出した結論に恥ずかしくなり、転げまわりたくなる。

 けれど、それを北條の前でしてしまったら更に恥ずかしくなる。と思い、表情を硬く引き締めた。


 一緒に戦おうという言葉を嬉しく思う。

 認めている人がこの言葉を言ってくれるのを心待ちにしていた。理想とは違い、その言葉を口にしたのは北條だが、これも悪くはないと思った。

 伸ばされた手を掴む。

 考えれば、いつも任務では真面に顔など見ていなかったかもしれない。

 支部に配属されてからずっといたのに今更だなと苦笑した。





 その下で動き出すものがあった。

 ——ガコンッと音が鳴る。

 2人は気付かなかった。この円柱は2層から4層までは吹き抜けになっていること。石上が囚われている層は5層であることを。この下の1層の部分に当たる円柱にはある怪物が閉じ込めているということを。

 そして、その怪物を抑えるための扉が開いているということを。

 円柱の内部に入ってから感じる生温かな風はその怪物の息。その怪物は北條達が入ってからずっと2人を捕捉し続けていた。

 いつもならば落ちて来るから待っていた。動けば仕置きをされるから待っていた。けれど、怪物は知っていた。自分を飼っている怪物が、時折気まぐれを起こすと言うことを。


 蟲毒の王が動き出した。

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