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命令違反

 

 常夜街で犯罪が起きた場合、犯人は2つのパターンに別れる。その場で殺されるか。地獄壺に収容されるかだ。常夜街での犯罪、それは勿論レジスタンスの活動も犯罪行為に入っている。

 これまで作戦を失敗したメンバーも、レジスタンスに手を貸したことのある民間人もここには収容されている。

 そこに入った者は2度と出てくることはなく、入れば間違いなく死しかない場所。それが、この地獄壺だ。


「…………」

「————っ」

「超怖い。行くのやっぱりやめない?」


 誰もがあそこには近づくなと口を揃える建物。周囲には外界を拒絶するかのように大きな堀があり、刀の林がギラリと光る。少なくない数の死体が突き刺さっている。

 遠巻きに見ても不気味な不運息を放つ壺の形をした異様な建物。恐怖を覚えた加賀が踵を返そうとするが、北條に首根っこを捕まえられ阻止される。


「ねぇ、やめよう? マジで、本当に……レジスタンスにも情報は届いてたんだろ。なら、本部にいる奴らが動いてるって!! 俺らが出る幕じゃないって!!」

「って言ってるけど。本当に行く気か?」


 北條が結城に問いかける。

 近づけば死ぬ。という触れ込みが付く程危険な場所。命令ならばまだしも、自主的に近づく所ではない。

 何よりこれは命令違反だ。規律を守る。言ってしまえばいい子ちゃんである結城らしくない行為だ。

 結城の行動に疑問を覚える北條を横にどうしても帰りたいのか加賀が泣き言を言い始める。


「俺ら支部待機だったじゃん!? これ命令違反だよ。こんな所にいちゃいけないんだよ!? 俺らよりも強い奴らが来てるだろうし、それにどうやって侵入するの!? 入口は開いてるけどこのまま馬鹿正直に突っ込んでも死ぬって!!」


 確かに加賀の言う通り、いつもは上げられている橋が降ろされ、いるはずの門兵はいない。まるで、何時でもかかって来いと言われているようだ。

 地獄壺の外壁は普通の外壁ではなく、衝撃を加えると硬化する瞬間衝撃吸収壁を使用している。衝撃を加えようものなら更に強固になる外壁だ。

 破壊するにはゆっくりと外壁を削っていく必要があるが、壁が厚すぎて時間がかかってしまう。

 そのため、今の北條達が侵入する一番の方法としては正面にある入口を使うこと以外にないのだ。

 その入り口が、開けられている。

 仲間を助けるための突破口が開いたと喜ぶべきなのか、それとも、地獄の蓋が開いていることを恐れるか。どう考えても後者だ。


「行くわよ」

「……行くんだ」

「待って、お願いします。本当に!! それって俺達がやらなきゃいけないことなの!? つーか、北條!! お前も止めろよ!?」


 物陰から物陰へと移動しようとする結城。それに続こうとする北條の腕を掴んで引っ張る。流石に2人分の体重を止めることはできずに引き摺られる形になったが、速度は落とすことができた。


「確かに命令違反にはなるけど、結城が踏み止まる雰囲気はないし」

「煩いわね。嫌なら来なければいいじゃない。ここに残ってなさいよ」

「ここに残る? 馬鹿じゃないの、こんな所で1人待つ何て寂しすぎるわ!! 死ぬわ!!」

「…………お前は兎か何かか」

「だったら、支部に戻ればいいでしょう」

「それも嫌だよ!! ふざけんな、俺を殺すつもりか!! 俺1人残ってお前ら行かせたってなったら、朝霧さんに俺が殺されるよ!! 生き残る道は全員が戻ることなんだよ!!」

「あの人を何だと思ってるんだ。お前……」


 苛立った表情を浮かべた結城が振り返る。

 流石にこのまま騒がれた状態で連れて行く訳にはいかない。

 元々強制するつもりもなかった。しかし、帰らない、行きたくないと駄々を捏ねるだけならば、ほんの少しだけ実力行使をするしかなくなる。具体的に言うと口を塞いで人気のない所に放置等だ。

 そんなことを考えているともう1人、地獄壺に入ることを反対する者が現れる。


宿主(マスター)。本当にその小娘に付いて行くつもりか? あそこがどういう場所か理解しているのだろうな?』

「(ルスヴン……あぁ、理解してるよ)」


 ルスヴンが試すように、そして心配するように北條へと語り掛ける。

 自分が向かっている場所。そこに渦巻く恐怖。狂気を理解して北條はしっかりと返事をする。


『…………そうか』

「(——ルスヴン?)」


 何か言われるかと思っていた北條は身構えていたものの、結局何も言われずにあっさり引き下がったルスヴンを不思議に思う。

 北條はルスヴンとの間に近寄りがたい空気を感じた。

 問い詰めるべきか考える——が加賀の声に引っ張られて意識を現実に戻してしまう。


「ねぇ、帰ろ? いきなり飛び出してきたからついてきたけど、本来なら俺達は動く必要ないと思うけど?」

「本部の奴らに任せておけってこと?」

「その通り。ハッキリ言って俺達は中級が1体出てきた瞬間に終わるぞ。それなのに行くのか? 罠だと分かっていて?」

「当たり前でしょ」


 間髪入れずに結城が答える。

 もし止められても1人で行ってやる。そんな決意が結城の目からは滲み出ている。その目を真正面から受け止めた加賀は一度北條に目を向けると肩を落とす。

 助けを求めるつもりで目線を移したのに、北條も行く気だ。仲間が完全にいなくなったことを感じ、肩を落とす。


「はぁ。まともなのは俺だけか」

「失礼だな」

「ホントのことだろ。自分から戦場に行く奴なんているか」


 何を言っているんだという表情を作る2人に加賀が頭を抱える。この2人と付き合い始めてから戦闘に出ることが多くなった気がするのは気のせいだろうか。真面目に異動を願い出ようかと考える。


「そう、なら置いていくわ」

「あ、ちょっと待てよ結城っ」

「…………」


 腕と足を組み、絶対動かないという意思を表す加賀。しかし、2人は気にせず、別の物陰へと移動していく。その姿に固まったのは加賀本人だ。

 加賀としては仲間なんだからもうちょっと『一緒に行こう!!』とか『お前がいなきゃダメなんだ!!』とか『助けておにいちゃーん』とか言ってくれるものだと思っていただが、置き去り放置プレイをされてしまって呆気に取られてしまう。

 呆気に取られる加賀を余所に北條と結城はどうやって入るのかを相談する。


「それで、どうやって侵入する?」

「それは考えてある。地獄壺は定期的に外から物資を乗せたトラックが出入りする。そこの下に張り付こう」

「それ、大丈夫なのか?」

「他に方法があるなら聞くわよ?」


 結城の鋭い視線を受けて北條が悩む様子を見せた。

 出した案よりも優れたものは思いつかないと判断した結城は直ぐに前を向いてしまった。

 何度も時間を確認している様子から今直ぐに突撃したいのを我慢しているのが分かる。それでも、そうしないのは真正面から突撃すれば返り討ちどころか死体の仲間入りをするだけだと分かっているからだろう。

 結城の珍しい態度を意外に思っていると後ろから再び加賀が声を掛ける。


「ねぇ、ホントに行くの? このまま行っても死ぬよホント」

「煩い、黙ってなさい」


 何度目かの制止を切り捨てられ、結城は絶対に引かないつもりだと分かると加賀は北條へと視線を向けた。


「おい、本当に良いのか?」

「結城が1人で突っ込むのを無視しろってか?」

「ちげぇよ。何とか止めてくれよ」

「口下手な俺が言葉で止められるとでも思ってんのかよ」

「……確かに。それは不可能だな」

「おい」


 自分でも分かっていたことだが、改めて人に言われると少しばかりイラっとしてしまう。

 自分でも止められない癖に俺のこと言えんのかと文句でも口にしようとした時、結城の張り詰めた空気に変化があった。


「——来た」


 短く紡がれた2文字。

 何が来たのか言うまでもない。それを察して北條は結城の後に続けるように結城の横へと移動する——が、襟を思いっきり引っ張られてしまい、思わず尻もちをついた。


「何をするッ」


 声を荒げたのは結城だ。

 顔を横に向ければそこにいたのは同じく尻もちをついた結城。同じように引っ張られたのだと分かると北條は襟を引っ張った犯人。加賀へと振り向く。


「何って、死にに行く奴らを止めただけだよ。物資が詰まったトラックに潜んでも見分されたら1発で終わりだろ」

「それでもそこしかないから行くのよ。邪魔しないでッ」

「落ち着けって。お前ってそんなに周りが見えなくなるタイプだったか? もう少し頭を使えって」


 死ぬと分かっても突進する。いつもの結城らしくない必死さに呆れて溜息をついた。

 邪魔をし続ける加賀を睨み付け、殺気まで話し始めた結城を宥めるためにも北條は加賀が口走ったことを尋ねた。


「な、なぁ。さっきのってどういうことだ。まるで他のやり方があるみたいな言い方だけど」


 頭を使え。もっと冷静になって考えろ。

 それはまるで自分達が他のやり方に気付いていないように聞こえる。加賀の言葉をそう捉え、尋ねると加賀は心底嫌そうに答えた。


「あぁ、あるよ。少なくとも中に入るだけなら問題ない」


 自信満々、という訳ではないが確信めいた言葉に北條と結城は目を見開く。


「本当に? 嘘だったらただじゃおかないわよ」

「疑り深いな。あそこに入りたくないのに、お前らのために入る方法を考えた俺に感謝の言葉はないのか?」

「アンタが命令違反を恐れて、私達を騙してここから遠ざけるつもりかもしれないでしょ」

「命令違反ってことは自覚してるのね」


 結城の言葉に加賀がげんなりとした表情を作る。

 それを見た北條は苦笑いを浮かべる。そして、表情を真面目なものに戻した。


「——それで、どういった策なんだ?」


 北條の問いかけに加賀は2本の指を立てて答える。


「簡単だ。地獄壺に入るのは2つ。自分で潜入するか。連れていかれるかだ」

「もしかして……」

「あぁ、多分お前の考えている通りだ。前者の方は見つかれば確実にその場で殺される。けど、連れていかれるのならば牢に入るまでは死ぬことはない。だから、俺達は今から犯罪者になりにいくぞ」


 地獄壺とは逆の方向へと指を向ける。そこにはネオンの光に照らされる市街地があった。

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