表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/193

女王


 常夜街の中心地、吸血鬼と極一部の人間しか入ることのない第1区。そこは他の区画と比べて少し特殊だ。

 第1区は大雑把に言えば2つに分かれているのだ。コンクリートや鉄、電気機器が街を覆う区画である外——そして、石畳が敷き詰められ、木造の建築物が立ち並ぶ内の2つだ。第1区の壁の内側に更に壁があり、そこから街並みも風景も様変わりする。初めて来た者はタイムスリップしたのではと思ってしまうだろう。

 そんな木造建築が立ち並ぶ第1区の内の中央にあるのは、石垣の上に高く聳える天守閣だ。名を赤城。そこがこの街の頂点に立つ吸血鬼、その更に上に立つ怪物の住処だ。


「はぁあ~~……今日も平和やわぁ、平和すぎて退屈や」


 眼下に広がる街並みを見降ろした妖艶な美女。狐を思わす鋭い目つき、和服を着こなすその姿は、城の姫君を思わせる。だが、彼女こそがこの街の支配者にして君臨者。最強の上級吸血鬼の一人である飛縁魔(ひえんま)だ。

 口元を扇子で覆い隠した飛縁魔は退屈そうに欠伸をする。


「それでは、退屈しのぎに昨日やられたお遊戯などはいかかでしょうか?」

「昨日やったコマ遊びはもう嫌や。もっと面白いのはないん?」


 傍に控えた配下の女性の吸血鬼の声に振り返りながら飛縁魔は首を横に振る。

 彼女が言っているコマ遊びとは、普通のコマ遊びのことではない。人間の子供がやるようにどちらが長く回転させるかなどを競い合ったり、外に弾き飛ばしたりなどの可愛いお遊びなどではない。弾くのはコマではなく、人間。巨大な鉄のコマに人間がどれだけ生き延びられるかを競ったものだ。


「では、蹴鞠などいかがでしょう? 先日の蹴鞠大会でのご活躍は大変素晴らしいものでした。もう一度、人数を集めて」

「面倒くさいから嫌や」

「では、カルタなどはいかがでしょう? 一昨日、興味を示されていましたから、直ぐに準備はできますが……」

「う~ん。今はそんな気分やないからなぁ」

「それでは、石投げはいかがでしょうか? 今は、手頃で丈夫な的があるので、そちらを使えば楽しめるかと」

「うん? 的?」

「はい、的にございます」


 あれは嫌、これは気分じゃない。我儘を捏ねるものの具体的なことを一言も口にした飛縁魔が初めて興味を示す。


「丈夫な的って……そんなんおったっけ? 記憶にないんやけど」

「はい。人間の反逆があった際に、捕虜にした者の中で一際強い——失礼、人間にしては強い個体が1人おりました」

「ふぅん……ちょっと興味湧いたわぁ。連れてきてくれる?」

「——え、こ、ここにですか?」

「うん、そうやでぇ」

「し、しかし……ここは御身の」


 配下である吸血鬼が信じられないとばかりの表情を飛縁魔に向ける。

 人間は奴隷であり、替えの利く駒でしかない。いくら珍しい個体だからと言っても価値は変わりはしないのだ。そんな存在を自分の住む空間に入れるというのは我慢ならない。あってはならない。まして、それをやろうとしているのはこの街の頂点に立つ御方。

 何とか止めようと抗議を口にしようとして——止まった。


「何? 文句あるん?」


 三日月のように細く開けられた瞼の奥にある紅い瞳。同じ女性でも見惚れてしまうかのような笑みを浮かべた飛縁魔に、腰元の吸血鬼は寒気を覚えた。

 笑ってはいない。同じことを言わせるたという表情。確信した。これ以上口を出せば、殺されるのは自分だと。


「————い、いえ。直ぐに連れて参りますっ」


 だからこそ、次の行動は速かった。

 直ぐに言葉を取り消し、頭を下げて、話題にあった男を連れてくる。本来ならばもっと下の吸血鬼に連れてこさせる所だが、あの怒りを自分に向けられたくないという思いが、彼女を動かした。

 そして、5分も経たずに吸血鬼は人間を連れてくると連れてきた人間を小脇に抱えて、飛縁魔に臣下の礼を取った。


「お、お待たせしてしまい、申し訳ございませんでした。只今連れて参りました!!」

「お~待っとったよ」


 大の大人を抱えて走っても息切れすらしないのは流石吸血鬼なだけはある。

 連れてこられた男を飛縁魔の前に跪かせると、いつでも取り押さえられるようにその男の後ろに立つ。

 男は苦痛に顔を歪ませるがそれも一瞬のこと。敵の首魁を前に怯えを見せず、逆に睨み付ける。飛縁魔はその様子を見て楽しそうに鋭い歯を見せて笑った。


「そんで、アンタが例の頑丈な人?」

「確かに俺は人並み以上に頑丈にできているが、お前らの話を聞いていないから分からないな」

「ふふふっ。強気な人間は嫌いやないで」


 連れてこられた茶髪の男——石上恭也(いしがみきょうや)は物怖じせずに答える。

 気分屋の吸血鬼を前にて太々しい態度を改める気はない。後ろに立つ吸血鬼の威圧が大きくなるが、構わずに飛縁魔に向けて口を開く。


「何の用だ。今更お前らが俺達に興味を示す何て珍しいじゃないか」

「別に、単なる気まぐれやで。退屈しのぎにはなるかなぁ思うて」

「ハッ——そうかよ」


 うんざりとした表情で悪態をつく石上。何をされるのかは分からない。しかし、碌なことではないだろうと飛縁魔の顔を見て確信する。

 用は自分が楽しみたいだけなのだ。だから連れてきた。自分達が倒そうとしている吸血鬼に退屈しのぎのために接触することになるとは思っておらず、呆れそうになる。


 後ろに立つ吸血鬼がただの人間ならば泣いて逃げだすレベルの威圧を放つ。家畜が主人に太々しい態度を取っているのだ。配下として、支配者としてこれは許されないと男の殺害を決定する。

 しかし、飛縁魔はそんな吸血鬼とは逆に石上のことを益々気に入っていた。


「それで、何ができるん?」

「…………」

「異能のことやで? アンタ等、吸血鬼から力奪って自分のもんにしとったんやろ? ウチは混ざりもんを嫌うことなんてせんから、気楽に話してくれてもええんやで」

「俺の異能を話して何になる。それで、お前は楽しめるのかよ」


 飛縁魔が1歩石上へと近づき、顔を覗き込む。

 ニコニコと笑みを浮かべる表情は吸血鬼には珍しく友好的なものだ。


「別にぃ。ウチらの遊びには人間やと付いてこれへんやろ? でも、異能者は他の人間よりも頑丈やん。それに異能によっては更に頑丈の子もおるからなぁ。だから把握しとけばいい遊びができるやろ?」


 石上の目に鋭さが増す。

 異能を聞くのはより長く、壊れないように遊ぶため。そう飛縁魔は口にした。

 まるで子供。それが飛縁魔に抱いた感想だった。純粋に一緒に遊ぼうとこの吸血鬼は言っている。そして、その中で壊れても仕方がないと本気で思っている。

 それが分かった石上は顔を顰め、嫌味をチクリと言い放つ。


「子供でも玩具を壊せば反省ぐらいはするぞ」

「むぅ、嫌やわぁ。玩具や何て……ウチは遊びたいだけやのに」

「だったら、何で人間に拘る。俺の後ろにいる吸血鬼でもいいだろう」


 肩越しに後ろを見て睨み付けてくる吸血鬼を指す。鋭い視線が更に鋭くなり、空気が軋む。それは流石の石上でも動じさせるものだった。この吸血鬼も雑魚ではない。そう判断して冷や汗を流す。


「吸血鬼はウチの遊びが性に合わんらしいからなぁ。ウチと遊んでくれるのは、その娘だけなんよ」

「随分と寂しいことで」

「そやで~。ウチ、暇なんよ。それで、どうするん?」


 これ以上の会話は終わり、だと言うように切り上げ答えを求める飛縁魔。後ろでも僅かに動く気配を感じ取る。恐らく、次に口にする言葉で死ぬか、少し時間が伸びて死ぬかが決まる。時間はかけられない。時間をかければ返事はノーと同じだと捉えられる。


 僅か数秒。石上は自分の目的を達成するためにどうするべきか考える。

 逃げることはできない。ならば、遊びの中で活路を見出すしかないだろう。異能を聞いたことから、こちらのことを把握している訳ではない。だが、相手のことも分からない。特に後ろに控える吸血鬼。飛縁魔の傍に仕える吸血鬼の情報はなかったので、情報もなく戦いに挑むのは無謀だ。しかし、やらなければ無駄死にするだけだ。

 意を決して、石上は切り出す。


「分かった。やろう」

「そっかぁ。嬉しいわぁっ」

「ただし!! 遊びは、俺が決める」


 石上の返事に飛縁魔が嬉しそうに手を叩く。そんな飛縁魔に、石上は条件を突きつける。

 ピクリ——と後ろに立つ吸血鬼の眉が不愉快そうに動く。背中に刺さる殺意も増え、背筋が凍るような感覚が石上を襲った。


「別にええでぇ。で、何をするん?」


 だが、そんなことを飛縁魔は気にしていない。むしろ、どんな遊びが出てくるのだろうと期待して目を輝かせている。

 第一関門は突破した。後は、自分の目が頼りだ。冷や汗を頬に垂らし、石上は口を開く。


「簡単な賭けをしよう。サイコロを使った簡単な賭け事だ。チップはお互いそのものでどうだ?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ