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フェイク

 現れたのは2人の男。

 その内の1人の姿を目にして、結城が息を呑む。


「恭也さん……」


 結城の恩人にして育ての親である石上恭也。そして——。


「よぉ、あの時はよくもやってくれたな」


「また、あんたかよっ」


 北條を常に追い続けて来た獅子郷蓮司が、北條と結城を睨みつけていた。

 結城が味方に向ける者ではない視線に狼狽える。


「何が起こっているのか説明してくれないか? 目の前にあることが俺には信じられなくてな」

「こ、これは——」


 石上が北條と結城を睨みつけながら問いかける。

 結城の視線が彷徨う。

 誰がどう見ても北條を逃がそうとしていたのは明らか。

 石上が分かっていない何てことはない。それはつまり、今ならまだこちらに返ってこられるぞと暗に告げているのだ。

 理性が冷たく判断する。

 北條を見捨てろと。

 今だけ、今だけだ。後からまた北條を助けに行けばいい。北條はあの氷結の異能使い。なら、この二人を相手にしても逃げに徹すれば生き延びられる。


「あ——わ、わたし……はっ」


 だが、声が出ない。それは間違っていると感情が叫ぶ。

 戦闘になれば真っ先に死ぬのは自分だと分かっていても、友人を切り捨てるという行為を躊躇った。


「おい、石上ぃ……もう良いか?」

「良くねぇよ。まだ結城の答えを聞いてねぇ」

「何が答えだ。元々そいつも死刑判決が出てた奴だろうが。それをお前が利用価値があるからって無理やり延期にしてただけに過ぎねぇ。でも、こいつは俺達に不利益を齎そうとしてる。それをお前は許すのかよ? それともなんだ。そんなに育てた子供は可愛いか?」

「…………」


 北條は口を挟めない。

 口を開こうとしてルスヴンに止められる。

 今この状況で北條が結城を庇っても意味がない。むしろ、悪化するからだ。


「私、は——」


 結城も決断が出来ない

 今この状況を動かせる人物であるのに、何も出来ないでいた。

 石上が動く。


「分かった。なら、後で事情は聞いてやる」

「は——甘めぇな」

「レジスタンスの戦力を落とすのも問題だろう」

「ふん、そういうことにしといてやるよ」

宿主(マスター)、来るぞ‼』


 獅子郷が地面を蹴り、肉薄する。

 狙われたのは当然北條だった。


「凍り付いてろ‼」


 生み出すのは巨大な氷壁。

 その中に獅子郷を閉じ込める。だが——。


「効かねぇよぉ‼」


 全身を金属にした獅子郷が纏わりつく氷をものともせずに氷壁の中を突き進み、北條に拳を振るう。

 小さな氷壁を重ねて防御するも北條は大きく後ろに吹き飛ばされる。

 獅子郷もそれを追って行き、残されたのは石上と結城のみになった。


「あ、う……」


 叱られた子供のように結城が肩を落とし、視線を彷徨わせる。

 そんな結城に石上は距離を詰め、思いっきり蹴りを放った。


 拳による一撃を受け止める度に北條は体は後ろに吹き飛ばされる。

 朝霧のような一撃で相手を仕留めるような拳ではなく、体力を削るような拳を何とか凌ごうとする。


「オラオラオラオラオラオラオラオラオラァ‼」


 氷漬けにしても肌が金属である獅子郷には効果が薄い。氷弾や氷槍をぶつけても同じだ。

 精々服を破く程度、その下の肉体には傷1つ付けることが出来ない。

 対して北條は吹き飛ばされ、態勢を整える度に体力を削られ、拳を防ぐ度に腕が痛み、重くなっていく。


「今回はよくもつじゃねぇか、やる気出したかぁ⁉」

「うるっせぇ、いつもいつも追いかけて来やがって。いい加減諦めろよっ」

「敵を逃がす馬鹿がいるかよ」

『宿主——組め』


 大きく振りかぶって来た所を、北條は獅子郷の腕を挟んで関節技を決める。獅子郷の肘が軋みを上げた。


「このままへし折るッ」

「へぇ、少しは学んだじゃねぇか。だが、体重差考えろよ」


 獅子郷は北條ごと腕を持ち上げ、地面へと叩き付ける。

 地面に陥没を作る威力で叩きつけられ、北條は呼吸を忘れた。


「ようやく動かなくなったな。石上の野郎、もう終わってるだろうな」

「終わらせるんじゃねぇよッ‼」


 巨大な氷を生み出し、獅子郷へとぶつける。

 傷はつけられないが、距離を開けることに成功する。


「ここまで効かないか。目も金属になってるし、弱点狙いも出来ないな」

「面倒だなぁ、おい」

「それはこっちの台詞だってのッ」


 獅子郷が廊下でも歩くように北條へと近づいていく。


「(氷漬けにしようとしても金属で全く凍らねぇ。重みで動きを封じても力で押し切られる)」


 出力も増えたと言うのに異能が通じない。

 思考を回すが、良い案は思い浮かばない。

 異能も通じず、体術も獅子郷が上。やられるのは時間の問題だった。


「おいおい、逃げるなよ」

「逃げたら結城を二人がかりで潰すのか?」

「あ? あぁ、あの小娘か。興味ねぇよ。あれは石上が片付けるべきだからなぁ。それにお前を潰すのなんざ1人で充分だ」

「…………」

「逃げても良いぞ。すぐに捕らえれるからな」


 獅子郷が一歩北條へと近づく。その度に北條は後ろへと下がる。


『宿主、ここは逃げろ。あの娘は大丈夫だ。あの魔眼の男がいる』

「あ、お前逃げようとしてるな? そら、何時でも良いぞ。どっちに逃げるんだ?」

「何度も逃げられてるのに自信満々だ——なッ⁉」


 ルスヴンの言葉に従い、北條が逃げようとするが、後ろから来たワイヤーに体を拘束された。

 続けて腕、足、口、頭、と拘束されていく。


「(伏兵⁉)」


 目の前にいた獅子郷は動いていない。

 伏兵を疑う北條に獅子郷が訂正する。


「俺が小細工なんざすると思ってるんだろうが、そんなことしねえぞ。言っただろ、お前を潰すなんざ1人で充分だってよ」

「まさか、異能か? でも、お前は体を金属に変える異能じゃ」

「誰がそんなこと言ったよ」


 獅子郷の異能は肉体の金属化ではないと知り、北條が驚愕する。

 では、一体何なのか。金属を操る異能か、それとも磁力の異能で鉄を操っているのか。しかし、それでは体を金属化の理由が分からない。


「さぁて……終わりにするか」


 拘束され、膝をついた北條を獅子郷は見下ろす。

 その手には太い鉄の棒が握られていた。


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