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友との再会

 三木の通信機はレジスタンスの隊員全員に届いていた。

 命令に忠実な隊員が、吸血鬼を憎む復讐者が、賞金稼ぎが、異能持ちが、天邪鬼が——吸血鬼に組した裏切り者を目掛けて動き出す。

 北條は三木を殺すことは出来ずとも気を失わせるぐらいはしておくべきだった。そうすれば多少時間は稼げたはずだ。

 これは、北條の甘さが招いたこと。

 だが、まだ北條は幸運だった。


宿主(マスター)……』

「分かってる。俺にも見えてるよ」


 隠す気もなく堂々と姿を見せる一人の少女。

 文系少女をモチーフにした格好で群衆に紛れている。

 少女の目に映っているのは怒りだ。

 彼女を前にして逃げることは出来なかった。


「昨日ぶりだな。また話せるとは思わなかったよ。結城」

「そうね。本当に、私もそう思うわ」


 幸運だったのは、一番最初に結城えりに出会えたこと。

 他の者が北條の元に来ていれば、間違いなく戦闘が起こり、北條は破れ、そしてルスヴンが北條を助けるためにレジスタンスに甚大な被害を齎しただろう。


「こっちに来て、話して貰いたいことがある」


 結城が顎をしゃくって路地裏へと歩き出す。

 北條もそれに続いて路地裏へと入って行った。


 結城が通信機で連絡を取る。

 内容は、北條がここにはいないという簡潔な報告だ。


「これで時間は稼げる」

「ありがとう、助けてくれて」

「勘違いしないで、助けたつもりはない。私は知りたいことがあるから時間を稼いだだけ」


 布で上空が覆われた人気の少ない露店が立ち並ぶ道を2人は進む。


「ここから少し行った所に開けた場所がある。そこに行くまでに私を納得させて」

「納得させて、か……」

「何? 文句あるの?」

『宿主、付き合う必要はないぞ。このまま気を失わせて逃げてしまえ』


 ルスヴンの言葉に北條は首を横に振る。

 第21支部の仲間であり、数少ない友人である結城がわざわざ危険を冒して作った時間。それを無駄にすることは北條には出来ない。

 もし、それをしてしまったらもう友人ではなくなる。そんな予感が北條にはあった。


「さてと、何から話そうか」

「全部に決まってるでしょ」

「まぁ、そうだよな……取り合えず、俺は吸血鬼じゃないし、結城と同じような境遇でもない。ただの吸血鬼の魂を持ってる人間だ」

「はぁ?」

「彼女とは幼い頃から一緒にいたんだ。喧嘩もしたし、体を乗っ取られかけたこともあったけど、今は仲良くやってるよ」

「はぁ⁉」


 北條から告げられる事実に結城は目を見開く。

 吸血鬼を敵とする組織に所属している身としては驚くことばかりだろう。そう考えて北條は苦笑いしながら自分の境遇を話していく。

 共存している吸血鬼の名前がルスヴンであること、自分の夢を叶えるためにルスヴンが協力していること、レジスタンスで噂になっていた氷結の異能使いが自分であること。

 包み隠すことなく話す。結城に対する誠意だと考えて。


「なるほど。取り合えず、貴方が吸血鬼じゃないってことは分かったわ」


 全てを話し終えた後、結城は疲れた表情をしていた。


「俺を吸血鬼じゃないって認めるのか?」

「貴方が人間だって自分で言ったじゃない。それとも何? 実は吸血鬼に操られたり、本当に吸血鬼だったりするの?」

「そんな訳ないだろ」

「なら、良いでしょ。で、貴方はこれからどうするつもりなの?」


 結城の問いに暫く考え、北條は口を開く。


「結城が分かってくれても、他の人が分かってくれるとは思っていないからな。どこかで身を隠そうと思ってる」

「……意外、無実を証明してやるって意気込むのかと思ってた」

「いや、それは無理だろ」

「そっか。そこまで無謀じゃないか。でも、確認したいことがある」

「ん? 何だ?」

「貴方の中にいる吸血鬼は今の状況に納得してるの?」

「……どういう意味だ?」

「吸血鬼何て傲慢で自分勝手な連中でしょ。それに話を聞いてる限り、北條が死ねば吸血鬼も死ぬんでしょ? 弱い人間に追い詰められて、殺されそうになってる。そんな状況に吸血鬼が我慢出来ずにレジスタンスを壊滅させるんじゃないの?」

「ルスヴンはそんなことはしないと思うが……」

「どうかしらね。吸血鬼何て信用出来ないし、貴方に協力してるって言うけど、何かしらの条件があるんでしょ。それにその条件はまだ聞いてない」

「あぁ」

「それは本当に大丈夫なの? 私からすれば騙す気満々の相手にしか見えないんだけど」

『あぁん?』


 ルスヴンが額に青筋を浮かべて結城を睨みつける。


「確かに、条件は分からない」

「なら、何でそんなに信用してるのよ。必ず何処かで嚙み合わない時は来るわ。後悔しても遅いのよ」

「…………」


 結城の問いに答えずに北條は上を見上げる。

 噛み合わない時は稀にだがあった。地獄壺跡地で名も知らない少年が死んだ時もそうだった。

 もしかしたら、これからも同じようなことが起こるかもしれない。

 だが——。


「俺は、あいつのおかげで進めたんだ」


 北條の手を最初に取ったのはルスヴンだった。

 そのおかげで北條は力を手に入れた。絶望の淵から這い上がれた。ルスヴンが手を差し伸べてくれなければ、鮮血病院にいた血濡れの男と同じ復讐の鬼となり、悲惨な最後を迎えていただろう。

 だから、感謝しているのだ。


「それに、あいつには俺しかいないから」

「そう」


 北條の表情を見て結城は何を言っても無駄だと判断する。

 目的の場所へと近づくと結城は北條の前に出た。


「さっきまでは、貴方を殺そうと思ってた」

「え、マジ?」

「まぁね。せめて友人として最後を看取ろうと思ってね。捕らえられたりしたら苦しまされるだろうし」

「俺が吸血鬼だって言われても友人だと思ってくれたのは嬉しいよ。でも、さっきまでってそんなに俺信用なかったの?」

「貴方じゃない。貴方の中にいる吸血鬼が信用出来ないの。かなり力を持っているみたいだし、不完全な間に殺す方が良いでしょ」

「その考えは理解出来るけど……」

「安心しなさいよ。今は思ってない」

「それは信用してくれたってことか?」


 誰を、と言わずに北條は問いかける。


「それは有り得ないわよ。生涯有り得ない」

「それじゃあ、何で?」

「……貴方は私と境遇が違うと言ったけど、やっぱり似てるのよ。危険があって、でも意識は正常で、殺されるかもしれないって言う境遇がね」

「…………」

「貴方を生かす理由何てないのかもしれない。殺す方が安全なのかもしれない。だけど、ここで貴方が死んだら、私は何で生きたんだろうって思ったの」


 開けた場所へと入り、ドラム缶が積まれた場所へと足を向ける。

 ドラム缶の1つを退けると地下へと続く隠し扉が現れる。


「だから——生きて欲しい。あの時生かされたのにはちゃんとした意味があったんだって知りたいから」

「結城……」

「ふ——結局自分のためなのよ。見損なって良いわよ」

「見損なうはずないだろ」


 見損なうはずがない。

 自分自身の大切なもののために危険を冒す。それをやろうと思っても実際に行動に移せる者は少ない。

 強い意思を見せた結城を北條は尊敬する。


「ありがとう。結城」

「お礼を言うなら生き残ってからにしなさい。それに1人じゃ多分生き残れないんだから、ミズキでも頼りなさい」

「それは——」

「迷うんじゃないわよ。地下のことなら間違いなく右に出る者はいないんだから」

「……考えとくよ」

「真剣に考えなさい。生き残るためには必要なんだから」

「あぁ、分かったよ」


 渋々といった様子で北條は承諾する。

 積極的に頼ることはしないが、生き残るためには協力が必要なのは事実だ。

 一応連絡は取ってみようと思い直す。


「それじゃあ、そろそろ行くよ」

「えぇ、気を付けなさいよ」


 別れを告げる。

 2人は何事もなく別れる。


『宿主、敵だ。見られているぞ』


 ——はずだった。

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