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空気の悪い第21支部

 

 第21支部にアリマを迎えた次の日。

 北條達は今日もまた第21支部で過ごしていた。

 過ごす、と言っても和やかな時間が流れる訳ではない。

 問題が抱えられている人物が集められていても彼等はレジスタンスの一員なのだ。敵と遭遇した場合の訓練は欠かせない。

 走り込みで体力を作り、筋力トレーニングを行い、射撃訓練や組手を行いスキルを磨く。


 北條達が第21支部にいる時は殆どが訓練の時間に充てられる。尤も、仕事がない場合に限るが。

 今日は依頼が届くこともなく強制任務もなかったため、いつも通り訓練を熟していた。

 違うのは、北條達の訓練を指導するのが朝霧ではなく赤羽であること。そして、北條達と共にアリマも訓練に参加していることだろう。


「——ふぅ」


 タン、タン、タン。

 一定の感覚で引き金を引き、暫くして北條はスコープを覗き込むのを止める。

 同時に斜め横に設置された小さなディスプレイに射撃訓練の結果が映し出される。結果は悪くもなければ良くもないパッとしないもの。

 的の中央を撃ち抜いているものもあるが、的を大きく外しているものもある。


「ふん、集中力が足りんな」


 北條が自分の結果を見ていると右から声が掛かる。


「人の結果を横から見るなよ。アリマ」


 北條がうんざりとした表情を作るが、声をかけたアリマはどこ吹く風だった。


「ふん、何か悪いことでもあるのか? 足手纏いがどれだけ出来ないかぐらい把握していないと大変だろう」


 アリマは侮蔑を隠そうともしない。

 その態度に北條も流石にカチンとくる。


「そういうお前はどうなんだよ。人に自慢できる腕前があるのか? 見せてみろよ」

「断る。自分の能力をひけらかすのは嫌いなんだ。だが、安心しろ。お前より下ではない」

「何処に安心できる要素があるんだよ」

「ふん。優秀な男が1人いるんだ。頼もしいだろ凡人」

「こ、こいつッ」

「2人共、訓練中ですよ」

「……っうす」

「ふん」


 思わず拳を握りかけるが、赤羽に注意をされて、ゆっくりと拳を下ろす。

 そんな北條を見てアリマは嗤う。


「ククッ、あんな惰弱な男に言われて引き下がるのか。臆病者め」

「おい、惰弱な男ってのは赤羽さんのことかよ」

「その通りだ。あんな男が上司だなんて俺は我慢出来んよ。所詮は本部で上の地位に付けないから傷心の女に付け込んで今の地位に就いただけの腰抜けだろうに」


 ニヤニヤとしながら訓練を眺める赤羽をアリマは嗤う。

 その言葉に北條は眉を寄せた。

 赤羽も朝霧も本部から嫌われていると言うことは前日加賀から聞いていた。だが、北條からすればあの2人を嫌う理由が分からないのだ。

 何より普段の赤羽や朝霧を見ているからこそ思ってしまう。

 朝霧が傷つく? 赤羽が人の傷口に付け込む?

 ()()()()()()()()()()()()()。それが北條の感想だった。

 そして、北條と同じことを思った者がもう1人。


「もう一度、言ってみなさいよ」


 アリマの横にいた結城が拳銃を台に激しく叩きつけ、アリマに迫る。


「ふん、またお前か。何度も俺に突っかかってきやがって迷惑という言葉を知らないらしい」

「私も好き好んでお前に関わりたくないわよ。でも、胸糞悪い言葉を放っておけないのよ」

「胸糞悪い言葉?」

「チッ。心当たりないなんて顔してんじゃないわよ。赤羽さんと朝霧さんのこと侮辱してたでしょ」

「ふん、事実を口にしたまでだ」


 全く反省する様子のないアリマに北條と結城の目が吊り上がる。だが、アリマは止まらない。


「戦えもしない癖にあれこれ命令してくるあの男の何処が尊敬できるんだ? どうせあの笑顔だって人に媚びるためのものだろう。部下に媚びなければいけない男など情けなさ過ぎて笑えてくるわ。それに、朝霧だったか。あいつは今何処にいるんだ? あの女はたった1体の吸血鬼に負けた役立たずの異能持ちなんだぞ。役立たずこそ訓練をするべきだろう。それなのにいない。全く、訳が分からんよ。もしかして金策を講じているのかな。あの体だ。男には受けるだろうな」

「ッ——」

「何だ。何を怒っている。あぁ、そうか。同類だから庇おうとしているのか。お前も幹部に体を売って生き残ってきた人間だからな」

「殺すぞ。お前——」

「ちょっ結城⁉」


 本気の殺意を目に宿し、いつも敵を捩る時と同じ仕草をする結城を見て思わず北條は2人の間に体を滑り込ませた。


「そこどいて北條、そいつ分からせる」

「いやいや待てって。流石にそれはやりすぎだろ‼」


 北條自身もアリマには言いたいことは山ほどある。だが、流石に捩じ切られるのを止めない訳にはいかなかった。


「自分を抑えることも出来ないとは。やはりお前は問題児だな」

「お前も煽るな。いい加減にしろ‼」

「断る。何故俺がお前の指図に従わねばならないんだ?」

「気に食わなくても仲間なんだから少しは労われよ⁉」


 北條の言葉にアリマは不愉快とばかりに鼻を鳴らす。


「仲間だと? お前達のような足手纏いが仲間な訳あるか」

「……足手纏いだとか問題児だとか根拠のないことを。俺達はそんなに落ちぶれてはいないはずだけどな」

「ふん、口だけは達者だな」

「お前もそうだろ。というか北條さっさとどきなさいよ」

「だったらその手を下げろって」


 殺気立つ結城を止めつつ、北條は口を開く。


「お前もいい加減にしろよ。どれだけ優れているかは知らないが、お前も俺達がどれだけ出来るか何て知らないだろう」

「ふん、知っているさ。ここに来る前にお前達の情報は大方貰ったからな」

「俺達の情報?」

「あぁ、これまでどんな任務を熟してきたか。そして、どんな問題を起こしてきたか色々とな。ククッ。随分と粗末な依頼しかやってこなかったらしいな」


 人を小馬鹿にする態度を取るアリマにもう結城を嗾けてしまおうかと一瞬思ってしまう北條だが、ぐっと堪える。


「任務に粗末なものなんてないだろ。それに、問題だってそんなに起こしてはない」

「ふん、どの口が言うんだ。知っているんだぞ。お前が地獄壺に勝手に突入したのは」

「え?」

「自分の力量すら把握せず、場違いな場所に飛び出し、挙句の果てに地獄壺に突入した部隊を犠牲に生き延びたらしいな。ふん、生き汚い。俺ならもっと上手く出来たのにな」

「お前にそんなことできる訳——むぐっ」


 北條が結城の口を塞ぐ。

 口を塞がれた結城に睨みつけられた北條は乾いた笑みを浮かべる。


「ふん、この支部には碌な依頼が回ってこないから手柄を求めたんだろうな。だが、命の危険を感じて他の連中を犠牲にした。ふん、実力も覚悟もないくせに何でこんな所にいるんだ? 全く、今直ぐにここから出て行ったらどうだ? お前を止める奴なんて誰もいないぞ」

「手厳しいな」


 北條の言葉にアリマが鼻を鳴らす。


「事実だからな。おっと、第21支部の連中は違うかもな。なんせ全員が問題ばかり抱えた連中だ。アバズレにそれを利用するしか能のない男や忌み子——そして」

「はい。そこまで」


 アリマの視線が後ろにいる加賀、そして北條を捉え、口を開こうとした時、アリマの肩に赤羽の手が置かれた。


「色々と聞いていたけど、それを口にすることは許されていないはずだよ」

「ふん、腰抜けが俺に命令するのか」

「こんのッ——」

「結城さん。君も止まりなさい」


 怒りが頂点に達しようとしていた結城が北條の拘束を振りほどく——その直前に赤羽の言葉が結城を止めた。

 止められると思っていなかった結城は予想外の命令に驚く。


「貴方が出る幕ではありませんよ」

「……分かりました」

「ふん、軟弱者め」


 赤羽の命令で怒りを抑えた結城をアリマは嘲笑う。


「貴方も仲間をそれほど見下さないように」

「ハッ。お前もそんなことを言うのか。全く、勘違いしていないか。この街は弱肉強食だ。弱い奴は何をされても文句は言えないんだぜ」

「それを言うなら、人間全員が弱者に該当しますよ」

「ふん、敗北者達と一緒にするな。不愉快だ」


 赤羽の言葉にアリマが不愉快そうに顔を歪め、射撃場の出口に足を向ける。

 訓練は未だに終わってはいない。だが、抜け出そうとするアリマを加賀は止めようとしなかった。視線を外し、北條達に訓練を再開するように命令する。

 その対応にいざこざに気付いていながらも無視していた加賀は肩を竦めて銃を構え直し、結城は不満げな表情をしながらも命令に従った。

 そして、北條はアリマの姿が見えなくなるまでジッとその背中を見つめていた。

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