問題児の理由
「え、それマジ? 俺達って問題児なの?」
第21支部はレジスタンスの中で問題を抱えた人物が集まる。加賀から衝撃の情報を伝えられた北條は目を点にして唖然とする。
「普通は支部への配属とか実力で決めるもんじゃないの?」
「馬鹿だな。実力で決められてるのなら異能持ちが2人も支部にいるはずないだろ」
「そうなのか?」
「そうなのかって。不思議に思ったことはないのかよ」
「いや、そういうものなのかなって思ってた」
北條がそう口にすると加賀から呆れた視線を向けられる。
いつもは呆れることをしている加賀に呆れられた北條は気まずそうに顔を逸らした。
他の支部の人員など知らない北條は第21支部の人員について考えたことがなかった。だが、加賀の発言からこれからは考えた方が良いかなと反省する。
「なぁ、俺とお前は兎も角、何で結城まで問題児されてるんだ?」
「さらっと俺を巻き込んだな」
「だったら普段の言動に気を遣え馬鹿野郎」
事件に巻き込まれることが多い北條や普段からふざけていることが多い加賀は別として異能持ちである結城まで問題児として扱われていることに疑問を抱いた北條が加賀に尋ねる。
加賀がほんの少し黙り込み、口を開く。
「そこらへんは俺も分かんねぇんだよな。でも噂じゃ本部の上層部に嫌われているからとか。あ、そう言えば赤羽さんと朝霧さんも嫌われてるって噂ある」
「問題児だからって理由何処言った。それに結城だけじゃなくて赤羽さん達もかよ。何で嫌われてるんだよ。どっちかって言うならアリマの方を嫌わねぇか?」
結城は冷たい所があるが、上司である赤羽や朝霧の命令に対しては忠実だった。赤羽と朝霧も命令違反をするようには北條には見えない。
どちらかと言うと口を開けば嫌味ばかりのアリマの方が嫌われるのではないかと北條が考えていると加賀も同じ思いなのか首を傾げていた。
「そうなんだよな。あんな調子に乗って喋る奴見たことねぇ。赤羽さんと朝霧さんにもタメ口してたし。よく朝霧さんが拳振るわなかったな。いや、ホント何で拳振るわなかったんだろ? 俺には初対面の時に落としたのに」
「お前がセクハラ発言したからだろ」
「ばっかおま——あれは朝霧さんも悪いだろ。普段の軍服姿で胸抑え付けられてなかったら俺もあんなこと言わなかったよ」
朝霧との初対面、その時朝霧はいつもの黒の軍服姿ではなくトレーニング後だったのか上は白のシャツで下は黒のスウェットパンツという体のラインが出る格好だった。
言葉に表すのならば、ズドンキュッボンである。
加賀の言葉に確かに、と思わず納得しかけ、朝霧の般若の形相を思い出して思考を外へと追い出す。
水を口に含み、視線を一瞬だけ結城へと向ける。未だに結城はアリマと静かに、しかし強い怒りを込めて口喧嘩をしている。
「(結城が嫌われている理由ねぇ。問題児には見えないんだけどなぁ)」
戦闘でも日常生活でも問題はない結城が嫌われている理由が分からずに首を傾げる。
性格で嫌われている可能性はあるが、その可能性は小さい。ならば、どんな理由で嫌われているのか。
暫く考え込むと地獄壺での結城の言葉をふと思い出す。
——何処の研究所にいたかは分からないけど、私達は似たようなものでしょ。
大変な出来事が続いたせいで今の今まで忘れてしまっていた言葉。だが、その言葉だけで結城には人には言えない秘密があるのだと分かる言葉。
「(もしかしたら、それが結城の嫌われている理由なのかな)」
「ん? どうした黙り込んで」
「いや、今更だけど人が嫌われてる理由を探るのやめようかなって思っただけ」
「本当に今更だな」
何故3人が嫌われているのか、気にするなというのが無理な話。
しかし、もし嫌われている理由が誰にも言えないようなことならば、それを軽率に暴こうとするのは悪だ。
何より、北條自身も秘密がない訳ではない。というかレジスタンスに命を狙われかねない秘密を腹の中に隠している。
だからこそ、これ以上秘密について探るのをやめようと心に誓った。
「ま、別に良いけどな。俺もこれ以上は洒落にならねぇと思ってたし」
加賀もこれ以上は踏み込んではいけないと思ったようで、北條と同じく嫌われている理由について探る思考を断ち切る。
「それに、あの3人より気になることがあるしな」
「気になること?」
加賀が目を細め、深刻そうな表情をする。重い話をするような雰囲気を漂わせた加賀に北條はごくりと唾を飲んだ。
「あぁ、赤羽さんと朝霧さん。そんでもって結城。あの3人が第21支部に配属された理由が嫌われているからだとしたら——俺達は一体どういう理由で嫌われているんだ?」
赤羽と朝霧、結城の3人はレジスタンスの上層部が嫌っているから第21支部への配属が決まった。ならば、北條と加賀はどういう理由で第21支部への配属が決まったのか。
そう真剣な表情で問いかける加賀に、北條はあっけからんとした態度で答えた。
「それは——俺達が問題児って烙印を押されたからじゃね?」
「マジレスやめい」
「いや、そうだろ。無駄に真剣な表情してたから何事かと思ったじゃねぇか」
「オイ待てよ。何で俺達が問題児でこっちに配属になったことが確定してんだよ。超優秀で監視するために配属させた可能性だって10%ぐらいあるだろ⁉」
「10%かよ。桁間違ってない?」
「え、それじゃあ100%」
「自意識過剰か」
「冗談だよ……おいおい何だその顔? 俺をあいつみたいに根拠のない自信がある野郎だと思ってんの? コミュニケーションに失敗したこともなかったし、自分の能力を冷静に分析した結果だよ」
「間接的にディスるなっての」
北條が机に肘をつき、体重を預ける。その表情は呆れ顔だ。
加賀の態度はコロコロと変わる。真剣なのか、それともふざけているのかが掴めない。
今回もどこまでが真剣で、どこまでが冗談なのか。問題児として扱われていることに不満を抱いているのか。それともこの現状に満足しているのかが分からない。
問題児としての理由を掘り下げない所を考えると恐らくはふざけているのだろうと北條は予想し、視線を外した。
「(全員が問題児として扱われている、か。俺はどういった理由で問題児のレッテルを張られたんだろうな)」
赤羽、朝霧、結城、加賀。
4人は一体どういった理由で第21支部へと配属になったのか。
その理由を探ることはしないが、それでも自分自身が第21支部に配属になった理由は把握しておいた方が良いと決断する。
能力が足りない。意欲が足りない。それならばまだ良い。肝心なのはルスヴンの存在がレジスタンスの者達にバレていないかどうかである。
ルスヴンについて話したことがあるのはミズキのみ。他の者達に話したことはない。
それでも異能で何かしら感づいている可能性はある。
「(はぁ、どうやって探ろうかなぁ)」
情報収集などの経験は北條には殆どない。
一歩間違えれば、怪しい動きをしていたと判断されて処断されるかもしれない。
「(危険を冒すよりも、依頼するってのもありかもしれないな)」
脳裏に思い浮かべるのはいつも大きなリュックを背負った茶髪の少女。
「(ミズキなら上手く出来るかな。唯一事情を知ってるし。もしくは——)」
視線を結城と口喧嘩をするアリマに向ける。
今日から第21支部へと配属が決まった少年。北條達を問題児と呼ぶからには少なからず事情を知っている可能性がある。
「(上手く出来るか分からないけど、やってみるか)」
北條が抱えているのは北條の命だけではない。
ルスヴンのためにもやってやると決意を固め、すっかり冷めてしまったステーキにフォークを指して口に運んだ。