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驚愕の事実

 

 アリマの自己紹介は終わると北條達はアリマと食事を共にしていた。

 これから任務を共にしていくからこそ、交流が必要だと判断した赤羽の提案である。


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 だが、その空気は当然ながら最悪だった。


「取り合えず、自己紹介でもする?」

「ふん、必要ないな。お前達の名前も戦闘スタイルも把握している。俺がこの場にいるのだって、赤羽の顔を立ててやっているだけだ」


 空気に耐えられず、何とか会話をしようと北條が口を開くが、アリマに斬り捨てられる。

 取り付く島もない様子に北條はげんなりとした表情を作る。

 第21支部を出た時から同じような空気が続いている。しかし、それも仕方がないだろう。自己紹介の時と同じように3人を見下す態度を取るアリマに好印象など覚えるはずもない。それは人とよく接する加賀も同じようでアリマと話す様子が全くない。


「赤羽? さんを付けなさいよツンツンヘアー」

「下らん。何故そんなことをしなければいけないんだ。この街は実力主義。俺より実力の低い奴を敬う理由などないな」

「お前が赤羽さんよりも上? ありえないんだけど」

「あ?」

「(食事楽しむこともなくなってんなぁ)」


 フォークで目の前のステーキを突きながら目の前のやり取りを北條は見つめる。

 北條達がいるのは赤羽が親睦を深めるため、と予約した高級料理店だ。

 出される料理もこれまで北條達には食べたことのないものばかり、いつもならば涙を流して料理を堪能していたはずだ。だが、残念ながら今はそんな気分にはなれなかった。


「この落ちこぼれ共め。本部に迷惑ばかりかける癖に口だけは一丁前だな」

「迷惑? かけた覚えはないわね」

「ふん、自覚すらないとは……度し難いな。本部が俺を異動させる訳だ」


 アリマの言葉に結城が目を吊り上げる。


「自分が優秀だと思ってるの? そんな風には見えないわね」

「やれやれ、観察眼もお粗末か。いや、それも当たり前か」

「随分と自信があるのね。実力主義と言ったわね。なら、試してみる?」


 結城が持っていたフォークを一瞬にして手の中で捻じ曲げて見せる。

 怪力、で曲げたのではない。結城にそれ程の力があるはずがない。身体能力だけで言うならば結城は北條と加賀よりも劣る。

 ならば、どうやってフォークを捻じ曲げて見せたか。第21支部に所属している者達ならば誰もが知っている。結城の異能——念力(サイキック)だ。


「ふん、子供だな。こんな場所で喧嘩するのか」

「お前が喧嘩を売って来たんだろ」

「俺が? 馬鹿を言うな。俺は事実を言っただけだ。お前が怒りを覚えたと言うのならば、それは当てはまることがあったということだ」


 やれやれ、とばかりにアリマが額に手を当てて首を軽く横に振る。

 気取った態度に結城が苛立ちを高める。


「ナルシスト野郎が、調子に乗ってんじゃねぇぞ」

「やれやれ、なまじ能力が高いとお前達のような落ちこぼれに嫉妬されてしまうのだから、嫌になるよ」


 結城の腰が椅子から浮きかける。それでもアリマの表情から余裕は消えない。

 一発触発とは正にこのことを言うのだろう。

 ハラハラとしながら成り行きを見守る北條だったが、その横から空気の読めない男がやってくる。


「なぁなぁ北條、俺野菜苦手だからそのステーキとトレードしてくれよ」

「おい、今の状況理解して言ってんのかお前」


 北條の隣にやってきたのは空いている更に野菜をこんもりと盛った加賀だ。しかも図々しくも貴重なステーキとの交換を要求している。

 空気の読めなさも相まって北條の額に青筋が出来た。


「そんなことするよりも目の前で起こっていることを止めてくれよ」

「いやだよ。あそこに入ったらどうなるかぐらい俺でも分かるぜ。今度は足の指だけじゃ済まなくなる」

「そんなことは——」


 ——ない。と言いかける北條だったが、支部での出来事を思い出し、口を閉ざす。

 加賀に冷たい態度を取る結城。全員を見下しているアリマ。2人の間に加賀が入ったらどうなるか。

 結城だけの状態でも酷い目にあったのだ。より惨憺(さんたん)たる結末になってしまう可能性は高い。

 口を閉ざした北條に加賀が顔を寄せて耳打ちする。


「つーか、お前が行って来いよ。最近の結城お前に妙に甘いし」

「えぇ~」

「えぇ~。じゃねぇよ。さっきだって疲れたお前に水とか渡してたりしたじゃん。マジのツンデレになってんじゃん。地獄壺の一件が終わってからだけど、一体何をしたの?」

「修羅場を潜ったから距離が縮まっただけだろ」

「それ言うなら毎回任務で修羅場潜ってるし、俺にもデレてくれなきゃ可笑しいだろ」

「お前の場合、プラスを上回るマイナス発言をしてるからじゃないか? というか、さり気なく野菜の皿とステーキの皿をすり替えるな」

「チッ気付きやがったか」


 体を寄せると同時に野菜とステーキの皿をすり替えようとしていた加賀の手を止めて野菜の皿を押し返す。

 北條としては野菜は別に嫌いではないが、好きでもない部類に入る。他の皿となら好感しても良いと言うだろう。だが、肉だけは駄目だった。

 北條は成長期である。食欲旺盛な時期である。加えてこの街では肉類などは滅多に手に入らない。分厚いステーキなど今回初めて見たくらいだ。絶対に譲ることは出来なかった。

 尤も、楽しんで食べる余裕など今はないのだが——。


「何ですって?」

「何度も言ってやるよ。足手纏いの落ちこぼれ集団が」


 ガチャンッと食器がぶつかる音が響く。

 結城は立ち上がり、アリマを睨みつけ、アリマは不敵な笑みを浮かべて椅子にふんぞり返っていた。


「喧嘩、にならないよな?」

「ならねぇだろ。結城も苛立ってはいるが、こんな所で騒動起こすデメリットはきっちり理解してる。というかやるつもりなら既に指の1本でも曲げてるよ」

「説得力が違うな」


 常に結城に折檻を受けている加賀の言葉に思わず北條は感心する。

 確かに、いつもの結城ならば既にアリマに暴力を振るっているだろうと納得してしまった。


「(いつもふざけてるんだけど、何を言えば怒るかとかどういった行動取るとか理解してるんだよな。理解していてもやるのにはドン引きだけど……)」


 友人の長所に感心すると同時に奇行に頬を引き攣らせる。

 本当に、何故地雷があると分かっている場所を踏みに行くことだけは理解出来なかった。


「それにしてもよ。あいつ俺達のこと落ちこぼれ落ちこぼれって言い過ぎじゃないか?」


 出会った時から落ちこぼれと言い続けてくるアリマに北條が眉を顰める。

 初めて顔を合わせた人物に何故ここまでこき下ろされなければならないのか。それが北條には分からなかった。

 そんな北條に対し、加賀が目を丸くした。


「ん? あれ? もしかして北條さんご存じない?」

「何が?」

「俺達の所属している第21支部——レジスタンスの中で問題を抱えた人物が集まる場所だって噂なんだよ」

「——は?」


 北條の目が点になる。

 今日初めて食べた肉厚のステーキの味を超える一番の驚愕が北條を襲った。

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