表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
165/193

新しいメンバー

 北條一馬は走る。

 息が切れても、脇腹が痛くなっても足を前に動かし続ける。途中、体力の限界に近づき、嘔吐しても関係ない。必死に足を前にして前に進むことだけを考える。

 今の彼はルスヴンの力も借りてはいないし、戦闘衣(バトルスーツ)を身に着けてはいない。ルスヴンの力や戦闘衣を身に着けていれば一足で詰められる距離も今の彼にとっては遠すぎる距離だ。

 それでも走る。

 走って、走って走り続けて、止まりそうになる足に喝を入れてまた走る。

 何故、こんなにも走り続けるのか。

 それは——。


「フハハハハ‼ 走れ走れぇ‼」

「お前マジで覚えてろよ加賀ぁ‼」


 後ろで戦闘衣を身に纏った加賀がいるせいである。

 いや、詳しく理由を語るのならば北條の自業自得であろう。なんせ、今は地獄壺跡地や鮮血病院の騒ぎに首を突っ込んだことへの罰、と言う名のしごきなのだから。


 地獄壺跡地の騒ぎは兎も角、鮮血病院の方は巻き込まれたと言うのが正しいんだけどなぁッと北條は声を大にして言いたいが、残念ながらそんな言い訳は朝霧のひと睨みで封殺された。というよりも恐怖のあまり口が開かなかった。

 走りながらも顔を合わせた際の朝霧と表情を思い出し、北條は身震いする。


 光りが消えた目でただずっと見つめられる。怒声を浴びせられる訳でも拳が飛んでくる訳でもない。

 ただ、ずっと静かに見つめられる。次に何をされるか分からない恐怖でその時の北條はずっと震えていた。

 あの後、赤羽が来てくれなかったらどうなっていたか。北條は考えたくもない想像をしてしまう。


「ヒャッハー隙アリィ‼」

「あっぶねぇ⁉ おい、加賀今の本気だっただろ⁉」

「いやぁ、楽しいな。一方的に殴れるって素晴らしい。やっぱり力ってのはこういうのを言うんだろうね」

「ドクズ過ぎんだろ⁉」


 考え事をしている最中に飛んできた拳を北條が紙一重で避ける。

 肩越しに振り替えれば、視界に入ったのはそれはもう愉しそうに笑う加賀がいた。後で必ず殴る。そんな決意を胸に北條は必死に走り続けた。


「ハァッハァッ——オェ」


 ようやくしごきが終わり、休むことを許された北條はパイプ椅子に全身を預けていた。

 だらしなく両手両足を投げ出している姿を見れば朝霧の拳が唸ることになるが、今はその朝霧もいないため、遠慮なく北條はだらけていた。


「はいこれ」

「冷たッありがと」


 北條が休んでいると頬に冷たい感触が当てられる。驚いて振り向くとそこにはボトルを持った結城がいた。

 キンキンに冷えたボトルを有難く受け取ると一気に渇きを覚える喉に流し込む。

 火照った体に冷えた水はとても心地よく北條は一気に救われた気分になった。


「あ"あ"~ギンギンに冷えてやがるッッ」

「何で飲んでもないお前が言うんだよ」

「鉄板ネタを知らないと思って」

「確かに知らないな」

「それはそうとギンギンってなんかエロいよね」

「それを聞かせて俺に何を言わせたいんだよッ」


 机を挟んだ向かい側に座っている加賀が茶々を入れてくるが、残念ながら今の北條に加賀に付き合うだけの体力も気力もない。

 無論、結城もそんなことに付き合うつもりもなく会議をする際の定位置に座り、本を開いて無視を決め込んだ。


「ぴえん、俺の冗談に付き合う人間が減って悲しい。死んじゃうよん」

「勝手に悲しんで勝手に死んでろ」

「勘弁してくれ、付き合う体力がないんだ」


 わざとらしく涙を拭う仕草をする加賀。残念ながらおふざけに付き合ってくれる者はこの場にはいなかった。

 加賀が拗ねたように唇を尖らせる。


「ちぇ~。何だよぉ。2人だけ仲良くなってよぉ。俺も仲間に入れろよぉ」

「黙れ潰すぞ」

「ひっでぇ」


 結城の鋭い視線を受けて加賀は肩を竦める。

 一度、口を閉ざすがそれでもお喋りな性格である加賀はずっと黙っていることなど出来ない。北條の呼吸がある程度整ったのを確認して問いかける。


「それにしても散々だな。前回の罰も終わってなかったのに。まぁ、お前の自業自得何だけど」

「……うるさい。金が無かったんだよ」

「それでも関わるべきじゃなかっただろ。少し考えれば滅茶苦茶面倒なことだって分かるじゃないか」

「加賀と同じ意見なのは癪に障るけど、確かに関わるべきじゃなかった。関わるんだとしても赤羽さんに声をかけるべきだったわね」

「うぐっ。はい。それは赤羽さんと朝霧さんにも言われました」


 ド正論を2人に真正面からぶつけられ、北條は肩を落とす。

 そんな北條を見て、加賀がニヤニヤとした笑みを浮かべた。


「いやぁ聞かせて欲しいな~。普通は避けるべき面倒事に首を突っ込んでいくなんて。それほど依頼して来た女の子が魅力的だったんだろうなぁ~。どさくさに紛れて抱きしめたり、距離縮めるために依頼受けたんだろうなぁ~」

「んな訳あるか」

「え、そんな下心あったの?」

「あるぞあるぞ。北條は常に女に下心満載で接する奴だ。なんせ、俺の知る限り北條が引っ掛けようとした女は100人はいるからな」

「そんなにいる訳ねぇだろッ⁉」

「はい言質取らせて頂きました‼ えりちゃん聞いた? そんなにいる訳ないってことは逆に言えば少人数はいるってことだよ」

「確かにそう捉えることも出来るわね。それと加賀、次馴れ馴れしくえりちゃん何て言ったら足の指先全部逆に曲げるわよ」

「いやん、そんなこと言うなんてえりちゃん怖いぃ——ぃいいったいいぃ⁉」


 鈍い音が響き、加賀の足から崩れ落ちる。

 何が起きたのかは言うまでもない。


「曲げるって言ったわよね」


 靴の中がどうなっているのか。音を聞いて想像してしまった北條は思わず声を引き攣らせた。

 自業自得とは言え、鬱陶しかった加賀を哀れに思ってしまう。


「よ、容赦ねぇ」

「懲りないこいつが悪いのよ」


 1人の少年をガチ泣きさせた少女は顔色変えずに溜息を1つつく。

 黒く澄んだ瞳が北條に向けられる。


「それで?」

「え?」

「え? じゃなくて、どうなの。本当に女引っ掛けてんの?」

「…………んな訳ないじゃん」


 暫し考え込み北條はそう口にする。

 これまで人助けをすることはあった。その中で女性を助けることもあったが、関係を持つことなどない。むしろ、北條よりも加賀の方が好みの女性を見つけると口説きに言っていたため、関係の数で言えば加賀の方が断然に多いと言えるだろう。


「何、さっきの間」

「いや、そう言うんじゃないんだよ」


 結城にジト目で睨みつけられた北條が頬を掻く。

 頭の中に共に苦難を乗り越えたミズキの存在が浮かび上がる。


「(でも、俺は加賀みたいに口説くとかやってないしなぁ)」


 自分の行動を振り返り、あからさまな行動をしていないと確認する。


「ん、よし。何でもない」

「何か引っかかる部分があるように思えるんだけど」

「そんなことはないって。というか何でそんなこと聞くの?」

「……そうね。確かに、誰と付き合おうが私には関係ないものね」


 今気づいた。とばかりに結城は目を丸くする。


「まぁ、一応気を付けなさいよ。レジスタンスに迷惑かけないように」

「だから、そんなことないって。加賀のでまかせだからな?」

「北條が気付いてないだけかもしれないでしょ」

「まっさかぁ」


 ケラケラと笑いながらボトルに口を付ける。

 結城もそれ以上は興味がなくなったのか完全に意識を本へと移した。

 暫くして、外へと続く扉が開かれる。入ってきたのは赤羽と朝霧、そして、見知らぬ少年が1人。

 当然ながら、北條達3人の視線は見知らぬ少年へと集中する。一挙手一投足すらも見逃さないとばかりに。

 赤羽と朝霧が説明する態度を取ったことで北條と加賀が姿勢を正し、結城も本を閉まう。


「皆がいてくれてよかったよ。もしかしたらまだ罰を受けてる最中だったかなと思ったんだけどね」

「午前中までには終わらせろと言われたので、俺が北條の尻を引っ叩いて終わらせましたよ」

「引っ叩いたのは尻じゃなくて頭だろ」


 軽く笑いながら報告する加賀を北條が横目で睨む。


「仲が良くて何よりだよ。それはそうと、今回は君達に紹介したい子がいる。入ってきた時から気になってはいただろうけど、この子は第21支部の新しい仲間——アリマ君だ」


 北條と加賀のやり取りを流し、赤羽が優しい笑みを浮かべながら少年を紹介する。

 紹介された少年が一歩前に出る。


「紹介に与ったアリマだ。本部からこの第21支部に配属になった。お前達、俺の足を引っ張るなよ」


 紹介早々棘のある言葉を吐き出すアリマ。

 突然増えた仲間。本部からの異動。疑問はあれど、一番最初に3人が思ったことは同じだった。


「「「(((何だこのクソ生意気な野郎は)))」」」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ