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それぞれの思惑1

「「「おかえりなさいませ。お嬢様」」」


 自身の家へと帰ってきた鴨田とディアナを出迎えたのは大勢の黒服に身を包んだ男達だ。

 一糸乱れぬ動き、整った服装は軍隊を思わせる。

 常人では恐縮してしまう状況でも2人は男達に声を掛けず、それが当たり前のように奥へと歩いていく。

 関係者でも入ることが困難な奥の部屋へと入る。中にいたのは1人の家政婦だ。


「おかえりなさいませ。お嬢様」

「ん、今帰った」


 そう答えたのは鴨田ではない。鮮血病院では常に鴨田に護られるようにいつも後ろにいたディアナだ。

 白髪頭の妙齢の女性も鴨田には頭を下げず、ディアナのみに頭を下げている。

 鴨田もそれを指摘することはない。

 ディアナが当たり前のように部屋の奥へと進み、誰もが一目見ても分かる高級な椅子に深く腰を下ろした。


「何か変わったことあった?」


 そう口にしたディアナからはこれまでのおどおどした様子は消えていた。


「お嬢様の姿が執務室から消えてしまい、騒ぎにはなりましたが、幸い影武者はいくらでもいましたのでそれほど大きな騒ぎにはなりませんでした」


 ディアナの問いに答えたのは白髪頭の妙齢の女性だ。

 白髪頭の妙齢の女性の視線が壁際に立つ鴨田に向けられる。


「お嬢様の本当の姿を知っている者達はそれでは落ち着くことはなかったのですが、そこの機体からメッセージが届いたことで収束しました」


 機体——そう呼ばれた鴨田。いや、鴨田の影武者として生まれた存在は2人の視線に気付いてニコリと笑みを見せる。

 体は小刻みに震え、顔色はビルに入ってきた時よりも大分悪くなっている。何が原因なのかは語るまでもない。

 直後、鴨田の影武者の体内から木の根が生えてくる。


「ヴェ、が……あっ」


 肉を突き破り、抉り、口から目から、耳から木の根や植物が生え、命を奪う。

 血濡れの男が裏切らないように植え付けられた植物の種子が開花したのだ。

 突如起こった現象に白髪頭の妙齢の女性が驚く。


「こ、これは——⁉」

「気にしないで良いわよ。取引を破ったからこうなっただけ」


 気にするなとばかりに手を軽く振る。白髪頭の妙齢の女性も取引自体をしていたことを予め知っていたため、納得の言った表情を作った。

 元は1人の人間から造られた鴨田の影武者が命を落とす。だが、部屋にいる2人はその死に様を見届けようともしない。


「あ、そうそう。そう言えばこの機体、私の他にも子会社の連中を助けようとしてたんだけどどういうこと? 肉壁にする様子もなかったし、違う方向に逃げた2人に向けて警告も飛ばすし。ウジウジしてる奴にアドバイスしに行くし。これエラーでも起こってるんじゃないの?」

「え? そ、そうなのですか? そのようなエラーはメッセージでは来ていませんでしたが」

「何それ。まさか元の人格が残ってるとか言わないわよね。怖ッ」

「念のため、全ての機体のプログラムを見直すように伝えておきます」


 2人が会話をしている最中、鴨田の影武者の機能が完全に停止する。

 ディアナが完全に機能を停止した影武者を見て、面倒事がようやく済んだとばかりに椅子の上で体を伸ばした。


「あ、そういえば父様は?」

「御父上は——お変わりなく」

「ふーん」


 白髪頭の妙齢の女性の言葉にディアナはそっけない返事をする。


「しかし、本当にお怪我がなくて良かった。お嬢様に何かあったらと思うと私は夜も眠れず」

「はいはいそうね」

「お嬢様、これを機にもう身勝手な行動をおやめください。この街には我々の技術力でも太刀打ち出来ない存在がいくらでもいるのです。こんな所よりももっと安全な場所を用意しています。そこで経営について勉強して下さい」

「太刀打ち出来ないなら何処にいたって同じでしょ」

「ならばせめてもっと強力な護衛を——」

「だから、そんなの用意しても同じでしょうが。それにこいつがいるでしょ」

「許容出来ません。そもそも今回お嬢様が姿を消したのだってこの機体の失態によるものです。アップデートされたとしてもお嬢様の身に降りかかる危険を防ぐことなど無理があります」

「はぁ、ああ言えばこう言う。もう滅茶苦茶じゃない」


 面倒くさいとばかりにディアナが溜息をつく。

 今回、鮮血病院に囚われた原因は常に纏わりつく護衛が鬱陶しいと感じたことが原因だった。

 狭い部屋に大量の護衛がこれまではいた。だが、白髪頭の妙齢の女性の様子からしてこれまで以上に護衛の数も増え、監獄のような場所に押し込められかねないとディアナが自分の未来を危惧する。


「(経営の勉強は良い。会社を継がないなんて言うつもりはない。だけど閉じ込められるなんて絶対嫌)」


 影武者を立てるのは良い。この街は何が起こっても可笑しくはないから。だが、狭い小部屋に押し込められるのは我慢ならない。

 溢れてくる不満を表情に出さずに、秘かに決意する。


「(必要ね。私だけの駒が)」


 影武者でも、父親の息がかかった護衛や鴨田家に仕えている人間でもない。

 ここからいつでも抜けられるように、それでいて今回のような事件に巻き込まれても問題なく守ってくれる駒が必要だ。例えそれが父親が毛嫌いしているレジスタンスだとしても手に入れる。

 ディアナは——いや、鴨田家の正当な後継者である鴨田明日香は握り拳を作り、強く決意した。

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