表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
160/193

解放

 血濡れの男を放り投げ、扉を閉めると北條はその簡易ドアを破壊する。

 それを見てミズキは北條に尋ねた。


「アナタは良かったの。行かなくて?」


 破壊した簡易ドアはかつて矢切が使っていたもの。その接続先は勿論吸血鬼から耳にしていた。

 ミズキが吸血鬼の首を掲げる。


「こいつの異能は扉を媒介にした空間接続。接続した空間は扉が破壊されない限り残り続ける。それを破壊するってことは——」

「大丈夫だよ」


 北條が笑顔を作ってミズキと向かい合う。


「ここで俺だけが行っても意味がない。行くのなら仲間と一緒が良いんだ」

「そう。アナタがそうならアタシは何も言わない」


 壊れた簡易扉から北條が視線を外す。

 血濡れの男は北條の手から離れた。どう選択するかはもう血濡れの男次第である。北條に出来るのはもう祈ることだけだ。

 軽く息を吐き、意識を切り替える。いつまでも血濡れの男を気にしてはいられない。


宿主(マスター)。直ぐに移動しろ』

「あぁ、分かった。行こうミズキ。まだ助ける人達がいる」

「言うと思った。ま、とことん付き合ってあげるわ」


 北條達が動き出す。上から来る者達と鉢合わせにならないように細心の注意を払いながら。





 建物全体に広がる振動が立て続けに起こり、氷で覆われた部屋の天井が破壊される。それと同時に3人の異能持ちが鮮血病院の一番下の階へと降り立つ。


「ありゃりゃ、遅かったかぁ~」


 降り立ち、開口一番に口を開いたのは大宮だ。

 軽く、後悔など欠片もないような口調で続ける。


「それにこの氷、またあの異能持ちがいたんだね。また仕事奪われちゃったよ。あ、朝霧ちゃんを責めてるんじゃないよ? 面倒な事引き受けてくれるからむしろ良いと思ってるぐらいだから」

「黙れ大宮」

「おっと、はいはいお口チャックマン」


 大宮を一睨みすると藤堂は息を吐く。

 氷によって冷たくなったせいで息が白くなる。


「氷の異能持ち。あいつもまさか捕まっていたとはね。お前の目で捉えることは出来なかったのか?」

「一度病院全体を見た時はいなかった。突然現れたんだよ」

「ふん、お前が抜けてただけじゃないの?」

「未知の場所だぞ。最大限の警戒はしていた。この病院内に人間はあの血濡れの男しかいなかった」


 鮮血病院内を進む前に必ず石上は魔眼の透視能力で病院全体を見通していた。敵の位置、罠の数、レジスタンスに関係ある設備の捜索のためである。

 人間と思わしき存在は血濡れの男1人しか見ることしか出来なかった。見落としなどなかったはずなのだ。


「え、何それじゃあ連れ去られた人もいないの? おじさん達無駄足?」

「救出対象は?」

「知らん。だが死体もなかった」

「死体がない? ふむ、それならあのスライムに溶かされちゃったりしてね。どうする? 見に行く?」

「それは最後だ。それよりも病院内の捜索が先だ」

「えぇ~。血濡れの男はいないんでしょ? だったらもう帰ろうよぉ。おじさん疲れちゃった」

「働け糞餓鬼」

「わぁ~怖い~」


 泣き言を口にする大宮に向けて石上は冷たい言葉を言い放つ。

 確かに血濡れの男はここにはもういない。だが、それで帰ることなどは許されない。元々、ここに来た第一の理由は矢切が何をしていたかを知ることなのだ。

 それに、本当に血濡れの男が消えたのか。口にはしなかったが全員が疑問に思っていた。

 石上が氷の異能持ちを感知出来なかった理由が本当に見抜けなかったのならば、氷の異能持ちは石上の感知を掻い潜る術を持っている可能性がある。もし、そうならば正体不明の存在が息を殺して潜んでいることになる。見つけるには異能を使わずに確実な手段で確認をしていくしかない。

 あの状況で氷の異能持ちは追い詰めていた血濡れの男を逃がした。過去に吸血鬼を退治していようが、レジスタンスの味方ではない可能性が高い。だからこそ、大宮もそれ以上の泣き言は言わずに捜索に当たる。


 結果として——鮮血病院内に残った敵勢力は下級吸血鬼のみだった。

 血濡れの男とそして彼を助けた氷の異能持ち。彼等の姿は捉えることが出来ず、捕らえていたはずの赤黒いスライムにも逃げられる失態を犯し、レジスタンスの鮮血病院での活動は終わった。





「クソッここは何処だ」


 暗い、ごつごつとした場所で血濡れの男が手を付いて起き上がる。

 戦いによる消耗はあれど怪我を負ってはいない。しかし、血濡れの男の足はおぼつかない。

 その原因は、目の前にある強烈な光だった。


 暗闇に慣れていた目が強烈な光によって血濡れの男は視界を失う。

 針を刺されるような痛みが眼球だけではなく脳にまで達する。レジスタンスの新兵器なのかと血濡れの男は身構えた。


 一歩一歩、警戒しながら血濡れの男は前へと進む。

 そして、光に目が慣れ、視力が元に戻ると全ての考えが吹き飛んだ。

 レジスタンスへの警戒、憎悪、仲間の安否すらも目の前の光景に全てを持っていかれた。

 ——この時、初めて血濡れの男は心を穏やかにした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ