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金城神谷

 

 金城神谷という男がいた。

 彼はこの街では珍しい優しい少年だった。

 父親に憧れ、父親と同じように警備隊に入り、この街に住む人々を守ろうと考える。優しい少年。

 それが変わり始めたのは警備隊に入ってから2年目の頃だ。

 金城は巡回中にある少年を助けた。

 自分よりも年下の武装した少年だ。彼はある事件で遭遇した。

 その少年は金城とは違い、やせ細り、不健康そうな顔色だった。その少年は、ある店舗で強盗を行い、その金で自由を掴み取ろうとしていた。

 それを阻止したのが金城だ。犯罪者はその場で射殺を許されているが、相手が少年だったこと。その少年が憐みさえ出てきてしまいそうなほど瘦せ細っていたこともあり、金城はその少年を見逃してしまった。

 少年は武装していたと言っても、持っているのは拳銃を1つだけ。全身を武装していた金城であれば、弾丸1つ使わずに制圧することが出来る。


 だが、その時の少年の逃げ出す表情が金城に焼き付いた。

 恐怖。死にたくないという願い。逃げ延びてやるという決意。

 少年を捕まえることは簡単だった。だが、その後は?地獄壺に送られるのか?——この触れれば折れてしまいそうな少年が?

 そう考えてしまったら、もう駄目だった。

 少年に逃げ道を教え、盗みをしないように言い含めて金も渡した。少年も純粋だったのか。金城の言葉に頷き、姿を消した。

 警備隊としては間違いだと分かっている。だが、金城は充実していた。少年の未来を救えたことに、命を救えたことに満足していた。


 そして、数日が過ぎて————それは間違いだと突き付けられた。

 いつもと同じように巡回中。事件は起きた。あの時とは違う店で、同じように強盗が起きたのだ。

 金城が現場に急行した時には既に犯人を追い詰めていた時だった。それでも犯人は逃亡を諦めていないようで、銃弾の音が響いていた。

 最新装備に身を包む警備隊が、包囲しているのに諦めが悪い犯人だ。そう考えていた金城だが、犯人の姿を見て目を見開いた。

 犯人はあの時の少年だったのだ。

 少年は、あの時よりも酷くボロボロで、痩せ細った姿をしていた。

 目を見開いている間に事件は解決する。警備隊の1人が少年を狙撃したのだ。1発の銃弾が少年の胸を貫き、命を奪う。


 訳も分からぬうちに解決した事件。

 金城はその後調べた。何があったのかを——。

 そして、判明する。

 一度目の強盗。金城が少年を見逃したあの後、少年は襲われたのだ。少年に目を付けていた大人達に。

 殴られ、蹴られ、金を奪われる。そして、その後にあったのは隷属の日々だった。一度強盗を成功させた手前、大人達は少年に再び強盗をさせようとしていたのだ。

 だが、少年は大人達には内緒で強盗以外の方法で金を集めていた。金城に助けられたから。恩人にもう強盗はするなと言われたから。純粋である少年は真摯にそれを守ろうとしていた。

 何度も何度も、仕事場を動き回る姿を見たと証言する者が何人もいたのだ。


 それが分かった時、金城は少年の最後を思い出す。

 何度も苦しい目に遭ったのだろうか。何度も大人達に責められたのだろうか。一度目は、生きることに必死に見えた少年の顔が——あの時、苦しみから解放されて嬉しそうに笑って見えたのだ。


 自分が間違っていた。あんな笑顔を浮かべるのなら、自分があの時にやるべきだった。

 その時、金城はそう思った。

 だからこそ、戦いでは命を必ず奪った。命乞いをされようが、その後に待っていることを考えれば、戸惑いはしなかった。

 北條とは全く違う救いの道だ。

 誰にも変えることは出来ない。間違いとは言わせない。

 例え、敗北してもそれは同じだった。

 自分とは全く違う道を辿っている男の姿を見て、相容れない存在だと、遠のく意識の中で理解した。





 巨大な鉄の体が倒れる。

 繰り出された渾身の拳は今度こそ金城の意識を刈り取った。周囲に敵の姿がないことをルスヴンに確認した北條は、足の力を抜いて地面に腰を下ろした。


『全く、傷を治さずにあれだけ動くなんて、無茶をするな』

「あぁ、デコイに相手が驚く内に動きたかったからな」


 デコイ。それは北條が金城の突進を躱すために利用したものだ。

 金城が突然北條を見失ったのは、金城の纏った雷によってデコイ映像を出していた機械が損害を受けたからである。

 金城が後ろを向いている間にデコイ映像を出し、それに気を取られている間に北條は瓦礫の中を掘り進み、裏へと回っていたのだ。

 時間も殆どなかったことで瓦礫に押し潰された時に出来た傷や骨折、打撲もそのままに無理やり体を動かしていたので、傷が酷くなっていた。

 やれやれ、と言ったようにルスヴンが口を開く。


『少し待っていろ。直ぐに傷を治す』

「頼む——ッ」


 ズキズキと痛む体では今後に影響が出る。そう考えた北條はルスヴンに治療を頼んだ。

 ジュクジュクと音を立てて傷が修復されていく。肉が盛り上がり、体の中で折れた骨も、傷ついた内臓すらも動いて傷が塞がる。


「ッ——こういう時は、ホント助かるな」

『治療薬では直ぐに傷は治らんからな』


 レジスタンスの任務では、周囲の目もあるためルスヴンに治療を頼むことは出来ないが、今は気にする必要はない。治療薬では時間のかかる傷もあっという間に治療して、北條は立ち上がった。


「…………」

『どうした宿主(マスター)


 ジッと気を失った金城に視線を送る北條。今の金城は無防備な状態だ。加えて大量の敵を作ってしまった。このまま放置していたら見つかり次第殺されるだろう。

 既に北條の心は決まっていた。


『連れて行くのか?』

「あぁ、拾えるものは拾うって決めてるから」


 E002型重装戦闘衣を身に着けた状態の金城を歯を食いしばって持ち上げる。

 拾えるものは拾う。そう考えて生きて来た。

 自分では全てを救えないことは分かりきっている。それでも我武者羅に進むと決めた。

 最後に辿り着きたい光景を見たくて。

 恨まれても、憎まれても、悲しまれても。そう生きると決めたのだ。

 それが間違っているのか。その答えはまだ出ない。だが、それが正しいと信じて北條は今日も一歩進む。

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