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1人でも多く

 

 北條は一度金城と戦った経緯をミズキに話した所、幾つかの助言を貰った。

 1つ、金属類を使用しないこと。

 E002型重装戦闘衣から発せられる磁力によって金属の類を操ることが出来る。銃弾が金城を避けて通ったように見えたのもその影響によるものだ。

 これには北條は、武器の種類を変えることで対応した。

 ミズキから貸して貰ったのは警備隊でも使われている制圧用の銃とゴム弾。戦闘衣の上から撃ちこんでも意味がないが、金城は頭を丸出しにしている。そこを狙えば勝機はあった。


 2つ、近づかないこと。

 E002型重装戦闘衣のもう1つの性能としてあるのがプラズマシールドとも呼ばれるもの。その名の通り、電撃の盾だ。

 激しく雷を放電するだけで人など簡単に焼くことが出来る。それを360度展開し、突っ込めば後ろには雷が通ったかのような痕しか残らない。

 北條が最初に見た光景がそれである。

 近接戦を行ったが最後、まる焼けになるのが目に見えていた。


 だからこそ、北條は距離を取って戦う。

 E002型重装戦闘衣は、小回りが利いていないのか周囲を動き回る北條に突いていくことが出来ていなかった。

 忌々しそうに金城が舌を打つ。


「ラァッ‼」


 横に転がり、突撃を回避した北條がゴム弾を発射する。だが、狙う位置が絞られるのなら、防御など簡単だった。

 間に入り込んだ腕にゴム弾が防がれる。

 それを悲観する暇などなかった。速度では圧倒的に金城が有利。北條が勝っているのは小回りぐらいだ。一瞬でも足を止めてしまったら、終わりだった。

 金城からすれば、表情が見えないので慌てずに対処しているように見えるが、北條からしてみれば冷や汗がドバドバ出る状況だ。

 まるで綱渡り。

 離れれば圧倒的速度で圧殺され、近づけば雷撃にやられる。絶妙な距離間を取って対処し続けなければならなかった。


「(ミズキの奴ッ。コイツの弱点の1つにエネルギーの消耗が激しいって言ってたけど、後どれぐらいで切れるんだ⁉ こんなの続けてたら、こっちが先にやられるッ)」

『どうなんだろうな。余は機械については知らんが、あの男の表情から察するにまだまだかかりそうだ』


 悲鳴を上げて逃げ続ける。

 金城がManeaterを掲げようとするのを目にし、牽制としてゴム弾を叩き込んだ。


「うざってぇな。そんな玩具でここに来るなんて舐めてんのか?」

「至って真面目だよ。普通の銃弾じゃあ無理だった。だから、これを持って来たんだ」


 銃を掲げて見せる北條に金城は表情を浮かべた。

 通じなかったから武器を変えるのは分かる。戦術としては正しい。だが、何故よりにもよってそれ(ゴム弾)を選んだのか。

 北條が殺し合いの最中に巻き込まれた者も助けようとしたのを目にしたこともあって、まるでこちらを殺さないつもりだと示しているようで、舐められていると感じたのだ。


「ここは戦場だぞ。何でそれしか持ってねぇ。テメェ、人を殺すつもりがねぇのか?」

「…………」

「馬鹿馬鹿しい。この間の事と言い、テメェはクソだ。銃持って戦場に出てる癖に自分だけは聖人君子でいるつもりか‼ 上から目線で説教でもしてぇのか? 気持ち悪いんだよぉ‼」


 Maneaterが火を噴く。

 殺し合いの場に相応しくない者を殺すために。異物を排除するために。


「聖人君子じゃない。俺も、人を殺したことはある」

「なら、猶更たちが悪いなぁ‼」


 Maneaterが火を噴く度に、E002型重装戦闘衣のエネルギーが急速に減っていく。

 Maneaterは銃弾を放つ度に熱を持つ。それの冷却にもエネルギーを使用するため、連発はご法度だった。

 これ以上、連発すれば遠距離への対処を失う。それでも金城は銃撃を止めない。


「何で人を殺してんのに、人を助けようとする。生かせようとする。まさか、被害を最小限に留めたいとでも言いてぇのか?」

「そうだ」


 銃撃が続く中、互いの声は何故か届いていた。

 瓦礫が崩れ、地面が抉れ、爆撃が響いても。何時しか二人は互いの声しか聞こえていなかった。


「俺達は命を懸けて生きている。この街じゃ物資も場所も限られている。生きていける道は自分の前に数本しかねぇ‼ それを奪うのなら命も奪え。余計な手心を加えんじゃねぇよ‼ テメェがやってるのはただの自己満足だ‼」


 自己満足。その言葉が北條に突き刺さる。

 目の前で助けても、その後にどうなるかは分からない。この戦場で北條が見逃した者達も、後から見つけられて殺されたかもしれない。

 最悪、命が助かっても金も装備も失い、真面な生活すら送れなくなるかもしれない。それがずっと続くと言うのならば、戦場で殺してやるのも1つの救いなのかもしれない。


「この街の連中はそうやって生きてる。そうやって狂っていってる‼」


 Maneaterから銃弾が出なくなる。遂に、金城は遠距離への攻撃手段を失った。

 金城はManeaterを投げ出すと雷撃を纏って突進する。狙いは北條ではない。北條が足場にしている瓦礫の山だ。

 山が噴火したかのように、足場が吹き飛ぶ。北條も宙に投げ出された。

 足場を失い、北條の態勢が崩れる。それを見逃す金城ではなかった。


「なのに——————テメェ1人だけ何も背負わずに生きようとしてんじゃねぇぞぉおッッ!!!!」

「————ッ」


 雷撃を纏い、迫る金城。

 空中では動けない。既にゴム弾は見切られている。

 だが、こんな所で諦める北條ではない。手を伸ばしても届かない位置にある瓦礫も、銃を使えば届いた。

 銃の取っ手を瓦礫に引っ掛け、引き寄せる。そして、それを足場にして、ほんの少し金城の軌道からズレた。

 だが、ほんの少しだ。直撃は避けられてもその体には雷撃が叩き込まれた。


 北條の体が地面に落ちる。上から降ってくるのは瓦礫の山だ。

 直ぐに動かなければ押し潰される。しかし、雷撃を叩き込まれて、自由を失った体は意思に反して北條をその場に縫い付けた。

 このような時には常にルスヴンが動いていた。

 彼女にとっても北條は大事な宿先であり、協力者であったから。命の危機からいつも北條を救ってきた。しかし、この時ばかりは彼女は動かなかった。

 大量の瓦礫が北條を覆いつくした。





 岩やパイプが地面に転がり、音を立てる。

 その音に金城が反応した。

 大量のエネルギーを使用し、重く感じ始めた戦闘衣。本来ならば戦闘を避けることを優先するべきだった。

 しかし、その男を見た瞬間。金城は今まで進めていた準備を放り出した。

 瓦礫の中から、()()の北條一馬が這い出て来る。


「それがアンタの言い訳か」

「テメェ——」


 静かに、北條が口を開く。


「殺すことが救いになるはずがねぇだろうがッ。それこそお前の自己満足だ‼」

「テメェ——」


 北條の言葉に金城が怒りを滾らせる。

 バチバチと雷を発生させ、纏い始める。E002型重装戦闘衣が金城の感情によって反応しているのだ。

 この距離は金城が得意とする距離。金城の気分次第で生きるも殺すも自由にできる。

 しかし、恐れない。


 自己満足?だから何だ。

 命を奪うことが救い?クソ喰らえだ。

 既に北條は答えを出している。それでも欲しい夢がある。

 こんな所で折れる様な人間ではないのだ。


「誰かがやってるなんて理由を付けやがって。ふざけてんのか。それこそ、背負っていない証拠だろうが。1人で戦える力はあっても、お前は1人が怖いのか」

「ッ——」


 弾けたように金城が動いた。

 その行動は肯定でもあった。

 力はあっても、他の者に示せるものがない。挫折を味わい、誰かに合わせ、流れて生きて来た金城は今更1人で立つことは出来ない。

 出来るのは精々お山の大将を着飾ることだけ。

 今更ながらに理解する。何故、これほどまで自分が苛立つのか。

 その苛立ちを掻き消すために、金城はエネルギー消費も無視して雷撃を纏った。

 磁力による加速。速すぎるために自分では真面にコントロールできない欠点を持ったE002型重装戦闘衣。

 それでもその速度だけで脅威だ。


「死にやがれクソ野郎が‼」


 真っ直ぐに、フェイントなど掛けず金城は北條へと襲い掛かる。対して北條は、何もしなかった。


「——⁉」


 金城の目が驚愕によって見開かれる。

 北條は本当に何もしていなかった。構えもせずに、ただ突っ立つだけ。身に着けている戦闘衣も金城が身に着けているものより性能は落ちるものだ。

 なのに、金城の目の前から突如として姿を消した。

 岩を、壁を、パイプを、鉄骨を焼き斬ってようやく金城の動きが止まる。それは、完全な隙だった。


「他人がやってるから何て理由で戦うな。殺しが救いだからって切り捨てるな」


 横から声がする。

 視線をやれば、そこには頭から血を流した満身創痍の北條が立っていた。手に持っているのは警備隊が持っている制圧専用の銃器。

 狙ったのは、E002型重装戦闘衣のエネルギーパック。数発のゴム弾が、エネルギーパックを破損させた。

 体に纏っていた雷がなくなる。金城が体を動かそうとしても、エネルギーを失ったE002型重装戦闘衣はピクリとも動かなくなる。


「それこそ何も背負ってないのと同じだろうが‼」


 この街が解放された瞬間。それを常に夢見る。

 太陽の光が冷たい鉄の街に降り注ぎ、光を浴びる瞬間。その世界で人は笑っていた。閉ざされたこの世界を広くする。それが救いになると北條は頑なに信じていた。

 その時まで——1人でも多く生きていて欲しいのだ。

 だからこそ、殺しが救いなんてものを認める訳にはいかなかった。

 北條が地を蹴る。そして、固く握り締められた拳が金城の頬に突き刺さった。

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