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2度目の激突

 

 地獄壺跡地での陣取り合戦は2日目にして本格的に激しさを増していく。

 誰もが遺物の中身が駄目になっていることに初日で気付き、中身が無事であるものを探し始める。

 最初の拠点を捨て、探し、戦い、占拠する。その繰り返しだ。そんな中、凍り付いた遺物があるという噂が広がり始める。

 2日目の朝に広がったにも拘わらず、その情報は全ての者に行き渡り、知らない者などいなくなった。


「おい、速く詰め込め‼」


 大型のトラックに遺物を積み込む部下に向かって隊長である男が叫ぶ。

 次から次に引っ切り無しに現れる敵の部隊。減る様子のない敵に冷や汗を流していた。装備で勝っている。1つの部隊とぶつかっても勝利できる。2つ同時でも勝利は揺るがない。だが、この数——。

 性能差を覆す程の物量差に今、押し潰れそうになっていた。


「やってるよ‼」


 それに対して部下がやけくそ気味に叫ぶ。

 普段なら上下関係を意識した口調なのだが、この状況に部下も焦りのせいで口調を忘れていた。

 部下を見て、このままでは時間が掛かりすぎると判断した隊長は自分と同じく防衛に配置している部下2人に命令を下す。


(じん)、テメェもあっちに加われ‼ こっちは何とかする‼」

「宜しいんですか⁉ 2人だけじゃ‼」

「うるせぇッ。さっさと行け‼」


 隊長の命令に部下が動く。

 1人いなくなったことで、その場に残った者達の2人にかかる負担は増えた。感覚の話ではない。その場の防衛が少なくなったことを敵も見抜き、その場を突破しようと企みているのだ。


「うぉお⁉」

「ひ——」


 弾幕の激しさに喉の奥から引き攣った声が出る。それでも引く訳にはいかない。


「手榴弾用意‼」


 大声で命令を上げ、取り出した手榴弾を放り投げる。大きな爆音と同時に悲鳴と土煙が上がった。

 一瞬弾幕が緩んだ瞬間を隊長は逃さない。すぐさま銃を持ち直し、命令を下す。


「ギャアア‼」

「クソッ。アイツ等好きかってやりやがってッ」

「装備だけが取り柄の癖しやがって。テメエらそんな装備が買える金があるなら、ここじゃなくて1区で寛いでやがれ‼」


 粉塵の向こうから怒りの籠もった声が響く。

 ふざけるな。と思い切り返したくなった。さっきからずっとこちらが金持ちで第1区の住人だとかありもしない噂が流れている。

 当然。そんな金などありはしない。第1区に住むことなど出来はしない身分だ。しかし、関係ない。

 今攻め込んでいる者達は自分の考えたいようにしか考えない者達だからだ。

 遺物を独占していること。強い装備を持っていること。金持ちになる道を閉ざす邪魔者。これだけ揃えば怒りを持つ十分な理由になった。

 その怒りのせいで、被害が拡大しても撤退せずに前進を選ぶ。どれだけ自分の部隊が傷ついても、アイツ等に独占させてなるものかと引き金を引く。

 いつしか、彼らは目的と手段が入れ替わっていた。


「オラァ‼」


 そして、それはもう一方の戦場でも同じだった。

 金城が腕を振るうと数人が吹き飛び、電撃を飛ばせば、数10人がまとめて感電する。それでも敵が止まらない。

 あまりのしぶとさに舌打ちをしてしまう。

 だが、金城には余裕があった。それは装備の違いだろう。今回、貸し出された中でも破格の性能を誇る試作品。E002型重装戦闘衣。エネルギーの補充をしたおかげもあって暴れ回るだけの時間はまだまだあった。


 金城は部隊から離れた地点で戦闘をしていた。陣地に敵が迫って来ると知った金城はあの後飛び出し、自分から奇襲を仕掛けたのだ。それは幸か不幸か、敵の約半分の足止めに成功していた。


「死ねぇ‼」

「テメェがな‼」


 戦闘衣(バトルスーツ)を身に着けた男が飛び掛かって来るが、雷撃で叩き落す。焼けた匂いが周囲に漂った。

 続けてManeaterが火を噴く。

 銃弾を防ごうと盾を展開していた者も含めて、後ろにいた者達を一気に吹き飛ばした。


「ハッ——馬鹿共が。これで分かったか。テメェ等じゃあ俺には敵わねぇ」

「ち、ちくしょう」

「テメェもそれを脱げば対して強かねぇ癖にッ」

「クソガキがァ」


 力を示す金城に嫉妬と憎しみの視線が突き刺さる。

 戦意は衰える処か膨れ上がっていく一方だ。最早、金城の中に楽しみはなかった。


「チッ。どうやら、まだやられなきゃ分からねぇようだな」


 返答とばかりに銃弾が襲い掛かる。だが、金城には届かない。

 全てが銃弾の方から金城を避けて行く。お返しとばかりに銃口を向けた。

 人間が次々に吹き飛んでいく。金城は狙いなど付けなかった。適当に向けて撃つだけ。そのおかげで標準はバラバラだ。それでも余波だけで人が飛んでいく。

 戦闘衣を着ていても、着ていなくとも同じだった。

 そして、立ち上がる者がいなくなったのを確認すると、銃を下げた。これでようやく終わった。と唾を返す。


「畜生……待ちやがれ」


 金城の耳に消え入りそうな声が聞こえた。

 振り返ると、まだ息をしている者達が確認できる。その中の1人。戦意を衰えさせていない男が銃を構えようとしていた。

 まだそんなものが通じると思っているのか。と呆れを込めて視線を投げかけ——ふと、何処かで見たような風貌に見覚えを感じる。


「お前……もしかして、あの時の」


 その男は金城が北條に向けてManeaterを撃った時、巻き込まれたはずの男だった。忌々しそうに男は金城を睨み付ける。


「今の今まで忘れてたってかッ。糞生意気な餓鬼だ」

「そうかよ。どうやって生き残ったかは知らねぇが、今度こそ止めを刺してやる」


 獣を蹴り飛ばし、男の後頭部に銃口を添える。

 引き金は金城の頭の中。撃てと命令を出せば銃口が火を噴く。男は銃を掲げるだけで精一杯だった。振り払う余裕はない。

 しかし、1つの銃弾がそれを阻止した。


 金城には銃弾は効かない。それは相手も自分自身にも共通の認識だった。だからこそ、完全に油断をしていた。

 例え、不意打ちをされても傷など付けられるはずがない。そう高を括っていた。


「————」


 顎に銃弾がヒットする。それは顎から振動を脳に伝え、金城の視界を歪ませた。金城の意識が飛びかける。それは身に着けている戦闘衣の機能停止を意味していた。

 歪む視界の中で目に入ったのは、足元に転がるゴム製の銃弾。警備隊が制圧によく使用するものだ。

 それが自分の顎を捉えたのだと理解する。誰だ。こんな——殺傷能力の欠片もないもので攻撃してきたのは誰だと苛立ちを感じる。

 そして、次の瞬間——金城の視界には、あの時の黒尽くめのヘルメットが移っていた。


 拳が振るわれる。

 戦闘衣の能力は金城の意識が朧気であったため、効果を無くしていた。

 ————今なら、殴れる。

 地面に亀裂が入る程力強く足を踏み込み、大きく振りかぶってたっぷりと遠心力を上乗せする。

 真っ直ぐに拳が金城の頬に叩き込まれた。

 鉄と地面がぶつかり合い、けたたましい音を立てた。


「金城神谷。リベンジをさせて貰う」

「——あの時の甘ったれ野郎か。良いだろう。今度こそグチャグチャにしてやるッ」


 口元から血が流れた金城が起き上がる。口元に治療薬でも仕込んでいたのか、短時間で受けた傷が無くなっており、脳震盪も回復していた。

 北條が地を蹴り、金城が跳ね起きる。

 北條一馬と金城神谷。再び2人が激突する。

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