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噂に翻弄される者、翻弄する者


 北條達が最初に遺物を回収した地点。そこは既にカモダの装備で身を固めた者達がいた。

 合計8人。全員が傭兵として十分な経歴を持ち、十分な戦闘能力を持っている。それに加えてカモダの装備である。

 無人機やら改造人間やらが襲ってきても難なく撃退していた。その中で最も活躍していたのが金城である。

 大抵の者達は金城が突進をするだけで消し飛んでいくのだ。そのおかげもあって部隊全体の消耗は抑えられていた。


「ハァ~」


 ドガッと瓦礫を倒し、そこに腰を下ろしたのは金城だ。

 今回の依頼で身に着けているカモダの装備は全て試作品だ。その中でも金城の装備は燃費が悪く、エネルギーを少なくなると装備の重さが体に圧し掛かってくるのである。

 エネルギーの消費を抑えるために、金城の役目は戦闘一辺倒に割り振られていた。

 金城の目の前では遺物を回収する隊員達の姿がある。

 北條達は遺物を隠したが、残念ながら彼らの目を欺くことができなかった。


「なかなかいい場所だ。遺物もだいぶ残っている。これならノルマもクリアできそうだ」


 隊長がトラックに積み込まれていく遺物を見て気分を良くする。

 これまで中々手に入らなかった遺物が一気に手に入ったのだ。頬が緩むのも無理がなかった。

 隠していたつもりでも、一度掘り返せば違和感は残るもの。前回、此処を使っていた者達はこちらの戦力を見て泣く泣く撤退したのだろうとほくそ笑む。

 思わず笑い出したくなる所を寸での所で我慢する。

 このままいけば、ノルマは簡単にクリアできる。それどころか周辺を掘り起こせばまだあるかもしれない。そうなったらボーナスも付いてくるだろう。

 ウハウハな未来にニヤケが止まらない隊長。

 しかし、残念ながらそう上手くは行かない。というよりも、ミズキがそんなことを許さなかった。


 まず最初に、それを目にしたのは遺物を回収している隊員だった。

 瓦礫の中に埋もれる赤い点滅。地獄壺で使われていた機材がまだ生きているのかと思い、上にある瓦礫を退かす。

 だが、隊員は直ぐに後悔することになる。


「な——」


 息を飲む。

 そこにあったのは時限式の爆弾。既にタイマーは動いており、爆破まで3秒もなかった。

 男が動く。だが、間に合わない。離れている者達にも警告を飛ばす。だが、間に合わない。機械に慈悲はなかった。

 タイマーが0になった瞬間、爆発が上がった。


「な、何が起こった⁉」


 その爆発の範囲は狭かったこともあり、隊長である男と金城は爆風を受けただけで済んだ。だが、予期もしなかったことが起きて冷静さを欠いていた。

 8名の内、1名が死亡。彼らの装備は金城のように爆発を至近距離で受けても耐えられる耐久性はなかった。


「クソッ。おい、もう一度周囲を捜索しろ‼ まだ爆発物が仕掛けられているかもしれん‼」

「隊長‼」

「何だ⁉」


 警戒を強める隊長に感知担当である部下が真っ青になって駆け寄って来る。

 表情を見る限り、碌でもないことが起こっていると予感する。そして、その予感は当たっていた。

 真っ青になった部下が報告する。


「周囲から接近してくる部隊あり‼ 手を組んでいるのかこちらを包囲しながら接近してきます‼」

「な、何だとぉ⁉」


 爆発で死傷者が出た所を見計らうようなタイミング。完全にやられた。そう隊長は思った。

 ここを占拠していた者達は逃げたのではない。時を見計らってこちらを殺す算段を付けるために一時撤退をしたのだ。


「へ、面白れぇじゃねぇか」

「お、おい‼ 何処に行くつもりだ‼」


 ここを捨てるには勿体ないと言う感情が邪魔をし、防衛に意識を切り替えていた隊長だったが、金城が猛獣のような笑みを浮かべて歩いていく姿を見て、急いで声をかける。


「ちょっくら行って来るよ。時間稼ぎをして欲しいんだろ? なら、邪魔するんじゃねぇよ」

「ま、待て——」


 まるで散歩でも行って来るかのような口調。隊長の制止する声を振り切って金城は走り出す。

 その後ろ姿に隊長は頭に血を上らせた。


「あのックソガキがァッ。もういい、こちらはこちらで防衛の準備を始めるぞ‼ 瓦礫でも何でも使って遮蔽物を作れ‼ 今すぐに‼」


 隊長の命令に少なくなった部下達が返事を返し、走り去る。

 敵が到着するまで後数分。強者で喰らうはずの立場にいた者が、逆に喰われる立場になる。この街では珍しくもない光景がそこにはあった。





「ハッハッハッハ‼ 我大勝利‼」

「一人称変わってるぞ」


 金城達を嵌めた張本人であるミズキが、ゲラゲラと腰に手を当てて笑い声を上げる。周囲を警戒している北條は呆れ顔だ。

 夜の間に噂を流す準備をしていたが、その効果がこうも現れるとは思わなかった。


「ああも噂で人は動くものなのか?」


 ミズキが流した噂。それは凍り付いている遺物があるということ。その遺物があるであろう場所。そして、それを独占しているであろう部隊。その部隊がある者達と抗争しているということである。

 殆どが作り話であり、あやふやだ。

 そんなもので人が動くか半信半疑だった北條だが、実際にそうなっているので認めるしかない。


「人はね。信じたいものしか信じないのよ」


 笑顔を張り付け、これから起こることを予想しながらミズキは語る。


「遺物がない。でも何処かにあるはずだ。自分の近くにあるはずだ。もしかしたら隣のアイツ等が独占しているかも——そんなことを手にしてない奴らは考えてた」


 掌の上でリモコンがクルクルと回る。それは先程時限式の爆弾を起動させたリモコンだ。何時の間にそんなものを仕掛けていたのか。知らなかった初めて聞いた時に驚いていた。


「千載一遇のチャンス。巡って来た力で金を手に入れられる機会。誰だって逃したくない。ずっと変わらない底辺の日常を味わっている奴等、そこにいることを燻っている奴等ほどその思いは強い。だから、簡単に引き寄せられる」

「……でも、まだ争いは起こってない」


 ヘルメットのピントを合わせ、遠くにある遺物を回収していた地点を見ながら、北條は呟く。


「そうね。利益は欲しい。だけど、被害を被るのは御免。そう思ってるんでしょうね。今は様子見ってところかな?」


 周囲に展開している部隊。彼らは互いに互いを牽制し合いながら、カモダに雇われた部隊の様子を窺っている。

 噂の1つが本当だった以上、そこに遺物があることも信憑性が増した。この場から何もせずに退散するということはもうないだろう。

 後は、誰が火蓋を切るかである。


「えい♡」


 その火蓋を切ったのは、その場にいるどの部隊でもなかった。

 火蓋を切ったのは、北條の横で可愛らしい言葉でリモコンのボタンを押したミズキである。数秒、時間をおいてカモダに雇われた部隊の陣地が爆発した。

 一度目よりも小規模。しかし、確実に人を殺せる威力のものだった。隊員の1人が宙に舞っているのが分かった。

 戦力が減った。爆発で混乱に陥った。今なら勝てる。

 争いが始まる。銃弾が飛び交い、爆炎が音を立てて上がった。全てミズキの予想通りに。


「…………」

「さて、私は少し地下に隠れてくるわ。争いも直ぐには終わらないだろうし」

「そうか。地下なら護衛はいらないよな」

「そうねって——どこ行くつもり?」


 護衛がいらないことを確かめた北條が歩き出す。それを見てミズキは声をかけた。

 肩越しに北條が振り返る。


「金城が陣地を抜けて敵に向かっていった。アイツが帰ってきたら面倒だから、行って来るよ」

「……そう。別にそれに対する準備もあるけど、まぁ良いわ。行ってらっしゃい」


 ミズキから正式に許しを貰い、北條が飛び出していく。

 それを見届けて、ミズキは呟く。


「戦いで犠牲を抑えようなんて。甘い人——」


 北條が飛び出したのは、金城にやられる犠牲を抑えるためである。ということをミズキは直ぐに理解した。金城が確かに他の部隊を制圧して戻ってきたら厄介だ。確かに筋は通っている。だが、金城を襲撃するのなら、金城が部隊を制圧し終わった後でも良いのだ。

 目の前で無関係な人の殺し合いをジッと見続けられる程、人間性を捨ててはいないのだろう。珍しい人間だ。そう思う。

 この街でああやって飛び出していける人間がどれほどいるか。正面に立って戦える奴はどれほどいるか。


「——死なないでよ。北條」


 そんな珍しい人間が生き残ることを願い。ミズキは地下通路の入口へと足を向けた。

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