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『マー君鬼のかくれんぼ』Ⅱ

「ねぇねぇE-6の人たちさ、『マー君鬼のかくれんぼ』って知ってるっ?」


 その情報は『W-1』病棟のイデという男から、若干高めのテンションでもってもたらされた。


『E-6』というのは俺たちが属する病棟。

 表記からなんとなく察することができると思うが、病棟の表記分けは東西南北だ。Eは東。Wは西。


 北はない。

 不吉な方角という概念から抜かされていたんだろう。

 同じ理由で『4』もない。

 だからE棟だったら2、3、5、6の病棟があるということだ。

 ほかにも欠けてるナンバーがあるのに気づいたと思うが、これの理由は知らない。院内で統廃合でもあったのだろうか。


 イデ君の『W-1』は我らともっとも接触の多い親和派閥が属する病棟だ。

 かといって『W-1』は『W-1』でつるむのが原則なので、基本的には交わらない。外出中に街でニアミスしてもそのまま通りすぎるぐらいだ。


 しかしこの日のイデ君は最初から俺たちを目当てで公園に直行してきていたようだった。

 それが『マー君鬼のかくれんぼ』の話題を伝えるためだったのは明白であろう。

 常に娯楽に飢えている俺たちはさっそく食いついていた。


「あん? なにそれっ」


 とタバコの煙を地面に吹きつける定番のイキりモーションでノリノリのリュウさん。

 この時のメンバーは五人。名前だけでも出しておこう。


 俺、リュウさん、マイヅカ君、オトッチ、シバ君の五人。

 そこに手を振って走ってきて加わったイデ君という図だ。


「まーまずはタバコ吸えや(意訳:ゆっくり聞かせてもらおうか)」と言う感じで一本差し出すリュウさんに「あっ。ありがとうございます」とさっそく一服目を吐き出してイデ君が話し始めた。


「あの、ぶっちゃけるとホラー系のハナシなんだけど。肝試しっつーのか」


 イデ君が語る内容はこういうものだった。


『マー君鬼のかくれんぼ』

 そういう〝遊び〟が、いつしか病院内で流行り出していたのだという。


 昔、『マー君』という少年がM病院にいた。

 どこの病棟かは分からない。

『マー君』の家庭環境はすさまじく悪く、親が今で言う〝毒親〟だった。そんな毒親の育児放棄によって『マー君』はずっと病院に閉じ込められていた。


 今(今これを書いている俺や読んでいる諸兄にとってではなく、当時の俺たちにとっての今だ)とは違って昔の病院は倫理的な観念が薄く年齢制限というものもなかったので、『マー君』は外出許可も出されず、死ぬまで病院に閉じ込められる運命だったのだそうだ……。


 この時点で俺たちにとっては『ベタな』話である。

 親がどこかおかしいというのは訪問してくる家族たちを山ほど見たりお互いの事情を交換し合ってデータを集積している俺たちには馴染んだ認識だったし、そういう『大人の勝手に自由を奪われる』的な観念は広く浸透していたからだ。

 ド定番、ってやつだ。


 そんなド定番な不遇状態にあった『マー君』は、病院内が世界のすべてだった。

 友達も病院内だけで、『マー君』は友達にひどく固執した。

 だから友達の部屋に勝手に侵入してベッドに潜り込んだり、ベッドの下や用具入れの影に隠れたりして職員を脅かせるのが大好きだった。


 ちなみにこれは〝他室訪問〟といって、全病棟で禁止されている行為だ。窃盗や暴力沙汰等のトラブルを防止するためだろう。これをやると最悪〝外出禁止〟になるので俺たちも敏感になっている部分だ。


 それを平然とライフワークにしている時点で俺たちの中で『マー君』は『普通じゃない組』確定だった。

 病棟もおそらく『S-3』とかその辺だったろうな、と話を聞きながらの俺は思っていた。

 外出許可自体がないから怖いものなどなかったのかもしれないな。


 さて、事件が起こる。

 ある日『マー君』が行方不明になった。

 つまり〝脱走〟だ。


 行方不明になる直前『マー君』はひどく不安定だったという。仲のよい友達が外泊に出てしまうからだ。


 外泊というのは家に帰って一泊~二泊ほど親とすごすイベントのことだ。親との仲や日常生活を取り戻す、双方にとっての退院のためのリハビリや予行演習という意味合いがあるのだろう。

 たいていは週末の土日を使い、土曜日に親に迎えられて出かけ、日曜の夕前に帰ってくる。


 俺はこの時『マー君』の気持ちが痛いほどよく分かってしまった。

 このころの俺にはまだ外泊許可が出ていなかった。

 そしてほかのみんなはほとんど外泊する。

 週末、病棟には多くて四~五人ていどの患者しか残らない。仲のよいメンバーは全滅である。


 はっきり言っておこう。

 地獄だ。


 本物の地獄。

 娯楽はない。だれもいない。遠くからたまになにかの反響だけが響く、無音の世界。


 なんの興味もないTV番組はぼぅっと眺めていてもなんの救いにもならず、レクリエーションルームに置いてあるジャ〇プはとっくに何度も読み古して開かなくても内容を思い出せるレベル。だから手に取って開いても空虚さが増す。


 外出してもひとり。行って意味のある場所はない。

 それでも外出してだれも俺のことを知らない土地をフラフラとさまよい、慰めていどにひとりでタバコを吸い、ひとりで隠す。こんな行為ひとつも友達が隣にいるから意味のあることなのだと思い知らされる。


 いつもなら使い切る外出時間も使い切らず負け犬のように病棟に戻る。

 あとはもう、自分のベッドに戻って寝るしかない。

 当たり前だが眠るとそれ以上眠れなくなる。

 時間だけが、無常の質量を以てのしかかる。

 どれだけ祈っても時間は縮まらない。


 なにもなさすぎて、ベッドに寝転がりながら、一秒ずつ数え続けるのだ。


 一秒ずつ数えているとかならず一秒はすぎてゆくという事実が分かり、少しだけ救われた。


 だれもいない他室のドアを無意味に開けて眺めて回るなんてこともしていただろうか。

 そんな時間の牢獄だ。

 時間を数え続けて日曜日、みんなが帰ってくるころにはいつもソワソワしていたと思う。


 だから俺は『マー君』の話の中で、ここにだけはあり得ないぐらいの納得とリアリティを感じていた……。


 もしもいつもの一泊ではなく長めの二泊だったりした日には、絶望したんじゃないだろうか。

 

 さておきだ。

 まぁそんな話の流れなわけだから『マー君』はきっとそのお友達を追って脱走をしでかしたんだろう。職員が玄関の鍵をかけ忘れてしまったところ、抜け出したとのことだった。


 脱走は俺たちの時代でもよく起こる。いやよくではないかもしれないが、少なくとも俺にとっては珍しくない現象になり果てていた。なぜなら脱走常習犯が近くにいたせいだ。


 だから脱走が起こった時の空気はよく分かる。

 当時の病棟も物々しい空気になっていたことだろう。


 そして後日、『マー君』は遺体で発見された。


「バッカでぇーっ」


 脱走常習犯のオトッチが渾身の煽りを入れた。

 オトッチは茶ロンゲを中分けにしたヒョロのヤンキーだ。見た目や言動は完全にヤンキーだが、ヤンキーにもいろいろある。オトッチは華奢でビジュアル系というんだろうか。

 気質も基本的におとなしく従順で人懐こく、犬というイメージがある少年だ。髪型のせいもあったんだろうけど。


 だが行動がいろいろと突拍子もない。


 たとえばこんなことがあった。

 一時期俺たちの間でピアスを開けるというブームがあった。とある女子病棟の子が外泊の際に自宅からピアッサーを持ち帰ったのがきっかけ。


 親指サイズのプラスチック製で、ミシンの子供みたいな見た目のやつだ。本来は使い捨てのそれをアルコールティッシュで拭いて使い回したのだったか。耳のピアス穴から飛び出した糸くずを引っ張ったら実はそれは視神経の末端で失明した……なんていう怪談もこのころはよく話し合った。知ってる人にはなつかしい怪談だと思う。


 で、そうしてピアスデビューした俺たちはいつもよりちょっと遠くまで足を延ばしてピアス店なども訪れたりした。ピアス穴の〝拡張〟にも興味を持つ者がいた。それがオトッチだ。


 ピアス穴の拡張というのは本来少しずつ行なうものだ。最初に開けるのが18号、次に少し太くして16号、14号……と穴が安定するのを待ちながら広げていく。ピアスゲージの表記はGらしいけど、当時の俺たちは号と呼んでいた。当然、その解説を聞いたオトッチもセオリーに従って拡張するのだと思っていた。


 ある日、消灯後の夜中に俺は「イッソー、起きてる……?」と別室のオトッチから呼び出されて一緒にトイレに行った。見てもらいたいものがあるから……と。ひどく気落ちした様子のオトッチはその間ずっと左耳を隠していた。


「イッソーは馬鹿って言うかもしれないけど……」


 オトッチが手をどかすと、その左耳には鉛筆がブッ刺さっていた。

 耳たぶに鉛筆がブッ刺さっていた。

 バッカじゃねーの!? と俺は言った。振りには応えないと。


 というのは冗談で、割と本気で怒って俺はオトッチを叱っていた。オトッチは耳をたれた犬のようにうなだれていた。耳たぶは血がポタポタとたれて、すぐそばの洗面所は血まみれだった。ここでメリメリとブッ刺したらしい。


 はぁ、一気に拡張したかったと。俺はすぐ職員さんに言って治療してもらえと言ったがオトッチは拒否。せっかくがんばって開けたからできればそのままにしたいと。


 ただ常識的に考えて、強引に開けた穴がピッタリ商業用のピアスに符号するわけがない。鉛筆サイズの穴がただれてみっともない大穴になってどのピアスもつけられない可能性があるぞ、と脅し、ヤバそうなら絶対に言えと約束させてその夜は終わった。


 数日後、合流した公園でオトッチがさっそく化膿した耳を見せてきたので一緒にいくぞと言って耳をさらけ出させて職員に現状を伝えた。(それまでは髪の毛で耳を完全に隠していた)


 こういうこともあった。

 外出時、巡回中のパトカーに向かってフカしタバコで投げキッスをした。

 逃げる俺たちのうしろでヤツはパトカーの中に連れ去られていった。

 解放されたあと俺たちはヤツをボコボコにした。


 ……などなどである。

 こんなものは氷山の一角。脱走などその一部にすぎない。

 オトッチは本当に突然、突拍子もないことをする。


 ともかくそんな脱走プロであるオトッチにとっては脱走先で野垂れ死ぬ『マー君』はあざ笑ってしかるべきトーシローだったということだ。

 だから俺たちはオトッチの煽りに奇妙な納得を覚えていた。


「『マー君』もオトッチに弟子入りすればよかったのにな」


 と言う俺にオトッチは胸を逸らして応じていた。


「まァかせろ……ッ。俺が脱走のなんたるかを全部教えてやる……ッ」


 やめてやってほしい。職員が泣くと思う。

 オトッチの事情を知らないイデ君は「え。オートダ君って脱走のプロなの?」と若干引いていたが、軽く流して話は続く。


『マー君』は死んだ。

 脱走先の道端で倒れているのが発見されて。

 死因はよく分からないらしい。そこは作ってないんだなと俺は思っていた。


 しかしその後奇妙なことが病棟に起こる。

 まぁ、定番だな。

 お友達が病棟に帰ったあと、ベッド下などからごそごそ音がすると言うのだ。


 当然、職員が見て回るが、なにもない。

 精神病院という場所と患者の性質上すぐには問題にならなかった。『マー君』が亡くなってしまったこともあって全体がナーバスになり、一時的に不調が出ているのだろうと。


 ところが、それは友達の部屋だけに留まらず、瞬く間に病棟中の部屋の子供たちに広まっていった。


 面白いもの好きの子供たちによるはしかのようなものだ。子供にとって幽霊とか霊感とかはステイタスに近いものがある。友達が「俺幽霊見た!」と言ったら「俺も見たことあるよっ!」と言いたくなる。そんなムーブメントだろう。

 なんなら「俺なんて幽霊の友達いるもんね!」まで言い出しかねないし、これに現代の観念を加えるなら「ワイなんて幽霊やで」「成仏してクレメンス」なんてやり取りもあるだろうか。いやこれはちょっと違うか。

 ともかくだ、感化された他室の子供たちも「ウチの部屋でも音がした!」とはしゃぎ出したと……。

 当初はそう思われていたのだが……。


 ある日その病棟の職員は通りかかったレクリエーションルームの中から、パチーン、と箒でも倒れるような音を聞く。

 中に隠れて職員が鍵をかけるのをやりすごした子がいたのか、と職員は思った。これは『E-6』でもたまにあるイタズラだから分かる。


 が、鍵を開けて見ても、中にはだれもいなかった。

 音源と思しきものもなにも落ちていなかった。

 ひとまずその時は職員は訝りながらもスルーし鍵をかけ直して職務に戻った。しかし時期を同じくして患者の証言に変化があった。


 もぉいいかい――という〝声〟が聞こえてきたと。

 時を同じくして上記の不審音の事例が、病棟の複数個所で、体験する職員を変えて起こり始めた。

 マー君の声だと患者たちは言い始めた。


 そこから病棟はパニックのようだったとイデ君は語るが、実際を想像するならはしゃぐ患者を尻目に、対応をどうしようかと日々の業務の中で職員がザワつく感じだったんじゃないだろうか。

 ここから少し取っ散らかっているのではしょるが、この事件はある日あるできごとによって収束を迎える。


「捕らなかったからもぉ俺たちの勝ち! 次は〇〇病棟! マー君が鬼!」


 と、ある患者が叫んだのだそうだ。

 以降病棟で異音騒ぎは起こらなくなった。


 もう分かると思う。

『マー君』は、別の病棟にいったのだ。

 そしてそこでも異音騒ぎが起こりましたと……そこでも同様の解決法が使われ、『マー君』はまた別の病棟に……

 そういう話だった。


「『マー君』かわいそうじゃね?」


 とシバ君が言った。

 シバ君はガチ武闘派のヤンキーで、ケンカをしすぎて病院送りになった男だ。この精神病院に。シバ君本人もこれは予想外だったに違いない。

 芝刈り頭にぱっちり二重瞼のイケメン。ヤンキー。モテる。というか女の子慣れしている。


 ただし本物の喧嘩の駆け引きに慣れているので横暴ではないし、イキらない。『アタマを張る』ことに興味がないのもあるだろう。この時代の都会ヤンキーはすでに組織というより共同体だった。だれがボスとかではなく、対等同士をよしとする感じ。


 一応ヤンキー同士ということでリュウさんには先輩としての敬意は払うが恐れてはおらず苗字にクンづけで呼んだが、作品内では便宜上の理由から「リュウ君」呼びとしておこう。

 というかシバ君は俺たち全員を苗字で呼んだ。

 俺たちと決して仲は悪くなかったが、病院の環境自体つまらないと考えている節があったと思う。ほかにいないから仕方なくつき合っているみたいな。


「たらい回しだもんなぁ」


 と同意するにシバ君も「そうそうそう」とうなづいていた。


「……怖いな」


 と、唯一神妙な顔で話に聞き入っていたマイヅカ君が正直な心情を吐露する。

 マイヅカ君は中学三年生、おかっぱに近い頭に、黒縁メガネ。生粋の決〇者(デュエリスト)であり卓球戦士。基本的におとなしくて気弱な気質なのでリュウさんの舎弟という感じだが、その身の内には『魔鬼羅(マキラ)』という魔王の多重人格を抱えており、かつて守れなかった恋人を思い出すと封印が不安定になり魔鬼羅が出てきやすくなるという設定の男だ。


 以前に何度か魔鬼羅が出ている時の彼と話をしたことがあったが、間違いなくマイヅカ君だったと思う。


 ただし大好きな卓球で不調が続くと「魔王の力だけを引き出して今から本気を出す……ブーストワン、ゴゥ!」とかいう器用な芸も持っている。なのにこちらから魔鬼羅や魔王の話を持ち出すと、恥ずかしそうに「やめてよぉ!」「やぁーめーろぉーー!」とのたうち回るおもしろいヤツなんだ。もしかしたら俺は彼が一番好きだったかもしれない。


 そんなおもしろいマイヅカ君だが、実はM病院最強だ。

 冗談や茶化しなどではない。

 ガタイはよく、幼いころから極真流空手の道場に通っていたとのことで実際に力もものすごい。彼が本気で怒った時は大の大人の職員が二~三人がかりになっても押さえられない。


 ある日、将来は自衛隊員になるのが目標と言って力自慢や格闘技術のウンチクでイキりまくっていた新人患者とマイヅカ君がトラブったことがある。

 ふたりがにらみ合い、相手が「ほんとにやんのかよ。シロートは一発で沈むぞ」と言った瞬間に至近距離のマイヅカ君の拳がソイツの顎に当たる。構えもモーションもない棒立ちからバチンと無造作に当たっただけに見えたのに、大柄デブなソイツはがくんと糸が切れたみたいに倒れて立ち上がれなくなり、一瞬で勝負がついた。


 純粋な筋力で言うならリュウさんはもちろんシバ君でも到底勝てないだろう。メンタルだけがとことん喧嘩に向かない。そんなヤツ。


 なので彼はこの手の話も真面目に聞く。

 マイヅカ君は本気で恐れているようだった。


「その遊び、やらない方がいいと思う」と。


 ところがイデ君の話はそうではなかった。でなければこの話を披露するためだけに直で会いにくる理由もない。

 問題はすでに、もう一歩だけ踏み込んだ段階にきていたのだ。


「それが『S-3』のヤツらがさぁ。したんだって、ソレ(・・)。それで『次にマー君がいくのはE-6!』って言ったんだって。だから教えといた方がいいんじゃないかって」


 と、イデ君はことの本題を告げたのだった。

 つまり『マー君』のターゲットはすでに我らが『E-6』に移っているということだ。


「は? ケンカ売ってんの?」


 シバ君がナチュラルに言う。口癖のようなものでよく言うが、今回は割と意味通りな感じだ。


「っしゃ! ヤキ入れにいくべ」


「あ、じゃあ、ほんとにいく? イデ君、で、どいつがそれ言ったの? なんのつもりでやったかって言ってた?」


 拳をパシンと言わせたリュウさんに、まだそんなに本気でなかったシバ君も少し気が乗ったみたいで具体的な姿勢を見せている。


 この時点で『マー君』はどうでもよく、もはや『E-3が俺らにケンカを売った』という方向に話がシフトしていた。

 イデ君は若干引き気味で「いや、俺は分かんない! 今の話も同じ病棟のやつが『S-3』から聞いたってだけだから」と受け答えしている。


「じゃソイツ連れてきて」


 とリュウさん。うなづいているシバ君。


「よっしゃあ……ッ!」と、意図不明なイキり具合を見せているオトッチ。


「……」


 マイヅカ君は神妙な顔のまま黙り込んでいた。

 そこに俺は待ったをかけていた。


「直接『S-3』いった方が早くない?」


 と。

 それはたしかに。という空気だったと思う。


「そうだよね。その方が早いじゃん。呼び出して詰めればよくね?」


「さすがイッソ! 愛してるべ!」


 しごく普通に同意して段取りを組み替えるシバ君と謎の求愛を飛ばしてくるリュウさん。まぁリュウさんのノリはこんなのだ。


「今からいくの?」


 というオトッチの問いは、間もなく午前の外出時間が終わるため。昼食が迫っているからだった。


 昼食前に、終わらせる――


 そういう結論になり、立ち上がった俺たちはさっそく病院敷地内『S-3』病棟前を目指したのだった。


「……帰った方がいいんじゃないかな」


 マイヅカ君が無力な提案をしていたが、当然ながら自然に却下(スルー)されていた。


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