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立ちはだかる巨人

作者: 山田剛

彼の前にいつも立ちはだかる巨人。

山口浩志

 彼の人生にはいつも目の前に巨人が立ちはだかった。


 彼はなんでもない普通の家庭に生まれ育った。

何か自分の殻を破ろうと努力し始めるとその巨人は彼の目の前に必ず現れた。


 彼が小学生の時友達を作ろうとした時も、巨人が必ず現れ、


「お前には無理だよ。お前みたいな人間に友達なんかできないよ。所詮無駄な努力だな」


 そう言ってその巨人は高笑いに彼を蔑んだ。


 また彼が高校受験の時もその巨人は現れた。


「だからさ、お前には無理だって、何回言ったらわかるんだよ。お前はダメな人間なんだよ」


 またしてもその巨人が現れ高笑いに彼を蔑すんだ。


 大学を卒業し、彼が就職活動をしてた時も、彼女でも作りたいな、と思った時も、またまたその巨人が彼の前に立ちはだかった。


「その程度の努力で就職とか、彼女とか、お前は悠長なことばっかり言って情けなくないか。今結婚もしないし、子供はも作らない家庭も多い、就職もできない人達も何と何と多いことか。お前だけそんな甘っちょろい考えで負のスパイラルから抜け出せると思ってんのかよ」


 その巨人は今度は怒りにも似た何とも憎たらしく、しかしながら強い口調で彼にそう言った。


「またお前か、お前は一体何者なんだよ。もういい加減にしてくれよ。俺は必死なんだよ。お前の言ってるようなダメな人間なんかじゃない。俺だって人並みに努力してそれを掴むことだってできるさ。今に見てろよ。お前のことを見返してやるからな」


 彼は始めて立ちはだかる巨人に言葉で反論した。


 しかしながら、彼が何十社に履歴書を送っても就職の内定すらもらえなかった。どんなに彼が努力しようともこんな時代だからか、就職も出来ず当然の様にフリーターに落ち着いた。そんな感じだから当然彼女なんかできやしなかった。


「やはり所詮無駄な努力だったな」


 彼がフリーターになった日の夜、また巨人が現れ彼をあざ笑うようなふてぶてしい態度で彼にそう言ってふっと消えて行った。


 毎回大事なところで立ちはだかる巨人に彼の怒りも限界だった。


「刺してやる。殺してやる」


 彼は本気でそう思った。


 彼は次に巨人が自分の目の前に現れるチャンスを伺った。いつ巨人が登場するかはおおむねわかっていた。いつも自分が努力したり、向上心を持って何かに向かおうとするときに必ずと言っていい程その巨人は現れ自分の人生を邪魔する。また彼も現在のフリーターのままではいけないと思っていたので、自己啓発、一念発起で国家資格でもある行政書士の資格でも取ってやろうと思った。巨人を見返してやろうと思った。

 来る日も来る日も彼は勉強に明け暮れ、難関資格である行政書士の試験に無事合格した。


 勉強していたときにはおとなしかった巨人がここで現れた。


「まずは合格おめでとう。お前もそこそこ頑張れる人間なんだってことわかったし、少しは見直したよ」


 珍しくねぎらいの言葉も入れてしかしながらも不適な薄笑いを浮かべ彼にそう言った。


 「もういい加減にしろ!何が頑張れる人間だ、偉そうに。お前はいつもいつもこうやって俺の邪魔ばかりしやがって。俺は努力して難関資格も取ったじゃないか!俺はお前が言ってるようなクズじゃないんだよ」


 彼はこの際だから、全ての怒りを巨人にぶつけた。

一発思いっきり殴ってやろうと思い彼は拳を振り上げそれを巨人へとぶつけようとした。


 巨人はその拳を軽くかわし、不適な笑みを浮かべ彼にこう言い返した。


「お前も司法試験に合格した訳でもあるまいし、相変わらずダメ人間なんだよ。司法試験に合格し、裁判官や弁護士にでもなってみろよ。年収1000万円稼ぎ、結婚し子供を作り、そこで始めてお前を認め、そのときこそ、俺は負けを認め、お前の前には二度と現れ無いことを約束するよ。さぁやってみろよ。そこまでやらなけりゃお前の人生なんて何一つ変わらねぇからな。行政書士程度の試験に合格しただけで勘違いするかよ」


 彼は辟易し、茫然と立ちすくんだ。


 確かに巨人の言う通りだった。自分の手の届く目的に達したところでなんら自分の人生は変わらない。

巨人の言ってたことはまんざら間違ってもいない。


 じゃどうすれば良いのか。彼は路頭に迷った。


 彼の目の前に立ちはだかった巨人の正体が社会、世間体と言ったそのものである。


         完

その巨人の正体とは。

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