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第11話 余、本当に強いのに……

「もぐもぐ。美味しいのだわっ、もぐもぐ」


「うぐぅ……えぐっ……余の、余のチョコレートクッキーがぁ……!」


 美味そうにクッキーを頬張るイライザに、四つん這いになってさめざめと泣くイヴァロン。その横でトランプをシャッフルしてるミケ。


 こいつら、俺達が十極天会合の付き添いという面倒なことをしてる間にこんなことしてたのか……。


 ちょっとげんなりしてると、三人が一斉に俺達に気付いた。


「あっ、タナトおかえり! もう会合は終わったの?」


「タナトぉ! イライザが! イライザが余のクッキーを蹂躙するのだぁ!」


「イヴァ、人聞きが悪いのだわっ。おかえりお兄ちゃん。はい、クッキーあーん」


「余、余も! 余もあーんする!」


「あんたもうクッキーないでしょ。はい、おにーちゃん♡」


「ぬあああああ!? 鬼ぃ! 悪魔ぁ!」


 ……元気っすねぇ……。


『むお? 本当にイヴァロンがいるではないか。しかもちんちくりんな格好で』


「む? お、ルーシーではないか。起きたのだな。……というかちんちくりんとは何事だ! 貴様も余の本当の姿を知っているだろう!」


『…………』


「何とか言えー!」


 うがうがと怒るイヴァロン。それをミケが抱っこすると、鼻息が荒いながらも大人しくなった。何か若干胴体が伸びて、抱っこされてる猫感が凄い。


「でも早くない? 十極天会合って数日から一週間掛かると思ったけど」


「ああ、まだ終わってない。色々あって中断になったから様子を見に来たんだが……退屈はしてなさそうだな」


「ええ。イヴァちゃん、やることなすこと子供っぽいから可愛くてついつい遊んじゃうわ」


「子供っぽい言うなー!」


 ああ、確かに子供っぽい。


 イライザに貰ったクッキーを目の前に差し出すと、目を輝かせて頬張った。うーん、可愛い。


 ……こいつのために世界最高峰の十極天が動いて切羽詰まってるって思うと……何だか申し訳なくなってくるな。ごめんね、皆。


「それで、どんなこと話し合ってるの?」


「イヴァロン復活とその対策ってところだ。ま、今のところ有効作はないみたいだけど。予知夢天と確率天でも、いつ、どのタイミングで復活するか見通せないとかで」


「ふーん、大変ねぇ」


 超絶他人事ですね、ミケさん。まあ気持ちは分かるけど。


「ふふん、もう既に異界から出てきてると言うのに、呑気な奴らだ」


 俺達の話を聞いてたイヴァロンが、何故か得意げな顔をしていた。


「そもそも、余がこの世に戻って来てからそ奴らが余の前に現れていない。つまりその程度の探知力というわけだ。恐れるに足らず!」


「イヴァの力が感じ取れないほどちっぽけなだけ。威張らないで」


「エリオラ貴様ァ!? それはぁ! それは言わないお約束なのだぁ!」


 あ、気にしてたのね。


「ぐぬぬ……ならば、余の力を示すために外でフルパワーを……!」


「お前、そんなことしたら異界に放り込むからな」


「うぐっ……! くぅっ……本当なのに……余、本当に強いのに……」


 しょぼーん。あらぁ、落ち込んじゃった。


「イヴァちゃんは可愛いから、それでいいと思うんだけどなぁ。抱き心地もいいし、子供体温でポカポカだし」


「にゅおっ!? み、ミケっ、ほおじゅりしゅりゅなぁ……!」


 とか言いつつ満更でもなさそうなイヴァロン。こいつ、ミケに胃袋は掴まれるわ抱っこされて大人しくなるわ子供扱いされて喜ぶわ……めっちゃ懐柔されてるじゃん。


 ぐうぅ〜……。


 あ……久しぶりに皆の顔見たら、安心して腹減って来たな。


「ミケ、何か作ってくれるか?」


「いいわよ。皆もご飯にしましょうか」


「「「あーい」」」


 もう完全にお母さんだな、ミケ。


「イライザっ、もう一度ポーカーで勝負なのだ! 今度は負けないぞ!」


「私もやる」


「じゃ、私が審判をやるのだわ」


「勝ち逃げはズルいぞ!」


 わいわいがやがや。皆ポーカーやりに行ったし、俺も釣りをしてのんびりさせてもらおうかね。


 海域に入って、桟橋から釣り糸を垂らす。


 外の世界ももう夕方なのか海域の空は茜色に染まっている。 何度見ても、《虚空の生け簀》の景色は幻想的で惚れ惚れする。


 外の世界では、十極天が見つけられない手掛かりを探して走り回ってるんだろうなぁ。シャウナも、シャオン王子も、シャバルト国王も駆け回ってるに違いない。


 十極天はともかく王族……特にシャウナに黙ってるのは気が引けるな……。


 だけど、俺がイヴァロンを異界から連れ出して手懐けてるなんて、言えないよなぁ。エリオラとイライザもいるから絶対暴れさせないって言っても、信じてくれないだろうし。


 でもイヴァロンの性格のことだ。こんな所にずっと閉じ込めといたら、いつ癇癪を起こすか分かったもんじゃない。


 そうなったら、十極天の動きに注意しつつ外に連れ出して……。


 …………。


「考えんのやーめた。疲れる」


 俺、面倒なこと考えんの嫌なんだよねぇ。性にあわないと言うか、知恵熱出そう。


 やめやめ、釣りしてのんびりしよ。


   ◆◆◆


「ナニッ、魔王様が復活するだと!?」


 世界のどこかにある薄暗い洞窟。


 狂乱の魔女ロゥリエと共に行動をしていた黒いローブを纏った男が、一つの報告を受けて声を荒らげた。


 男の前に目の前に跪く影が、小さく頷く。


 暗すぎて顔も性別も分からない上に、男と同じ黒いローブを着ている。


「その情報、間違いないのか!?」


 男の問い掛けに、影は更に頷く。


「……そう、か……そうか……そうかそうかそうか! 魔王様が復活なさったか!」


 ローブの隙間から見える暴虐的な眼をギラつかせ、歓喜の雄叫びを上げる。


「破壊の魔王イヴァロン様が封印されて数千年……長かった……本当に長かった……! これで我らの悲願も達成される! 死んだ狂乱も浮かばれるというものだ!」


 男の感情の昂りに呼応するように、周囲の地面にヒビが入り、鍾乳石が粉々に砕け散る。


 感情が現実に影響を与える……相変わらず化け物だ。影はそう考えていた。


 そんな影の考えてることなど知らず、男はこの場にいる数十人の同志に命じる。


「誰よりも早く、必ずや魔王様を見つけ出すのだ。我らが悲願を成就させるために。行け!」


 次の瞬間、洞窟にいた数十人の同志は影も形もなくなり、男だけが残された。


「待っていてください、親愛なる魔王様……イライザの作った平和を壊し……今一度、混沌と破滅が跋扈する時代へと戻します……! ふふ、ふはははははははは!」


   ◆◆◆


「い、イライザ! 余のオムライスを取るでない!」


「私のカレーも一口あげるのだわ。はい、あーん」


「それなら許すのだっ。あーむっ。んーっ、美味なのだ〜♪」


「やっぱ仲良いな、お前ら」

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