第9話 誰にも渡さない。誰にも
なんやかんやでしばらく経ち、今は俺、エリオラ、ミケは並んで湖に向かって釣り糸を垂らしていた。
「へぇ、エオリアちゃんは、三〇〇〇年前の魔族なのね」
「ん。タナトに助けてもらった」
「……魚、アイテム、装備だけじゃなく、女の子まで釣り上げるなんて……タナトの【釣り】スキルも極まったわね……」
そんなジトッとした目で見ないでくれ。俺だって釣りたくて釣ったんじゃないんだ。
「……あ、極まったと言えば、スキルレベルがマックスになったぞ」
よっ。おお、プラチナフィッシュ。また珍しい魚が釣れたな。
「…………ねぇ、タナト」
「何だ?」
「……私の言いたいこと、分かる?」
「ああ、小便ならそこの木の影で……」
「ちっがうわよ! でもありがとう後で行くわ!」
何をそんなに怒ってるんだ、こいつは?
ミケは立ち上がると、俺の肩を鷲掴みにした。
「スキルレベルマックスですって!? そんな超重要なことを、世間話の延長でサラッと言ってんじゃないわよ、ぶっ飛ばすわよ!?」
「ななな何をそんな怒ってんだだだだだだっ」
ややややめろ揺らすな!
『こらミケ! タナトの釣りの邪魔をするでない! スキルレベルがマックスなのがどうしたのじゃ!』
「どうもこうもないわよ!? スキルレベルマックスなんて本当なの!?」
「お、おう。嘘じゃないぞ」
何をそんなに驚いてんだ……たかがスキルレベルが上限に達しただけだろ?
「……信じられない……まさか、スキルレベルマックスの人間が現れるなんて……」
「……そんなに凄いことなのか?」
「凄いなんてもんじゃないわよ!?」
のわっ!? そんなでっかい声出すなっ、びっくりするだろ!
「いいっ、今までの歴史上、スキルレベルを九九八まで上げた偉人はかなりの数いるわ。でもね、スキルレベル九九九……マックスまで上げることの出来た生物は、極々僅かなのよ!」
……人間という括りじゃなくて、生物って括りにする当たり、スキルレベルマックスまで上げられた人は本当に少ないんだろうな……。
「……? ルーシー、昔はいっぱいいた、よね?」
『うむ。難しくはあるが、人間にも亜人にも魔族にも、かなりの数がいたぞ』
「三〇〇〇年前の話は掘り下げないで! とにかく、現在生きている中でスキルレベルマックスなのは、タナトを含めて十一人。それまでは十人いて、十極天と呼ばれている組織に所属しているわ。世界のバランスを保つために」
ああ、それなら俺も聞いたことがある。各スキルを極めた十人の人、だったか。確か人間に三人、亜人に五人、魔族に二人いるらしいな。
「いい? このことは絶対外に広めちゃダメよ。スキルを極めた人は、その人が存在するだけでパワーバランスを崩すからね。あんたの事を知った組織が、あんたを狙ってわんさかやってくるわよ」
「……俺のスキル、【釣り】なんだが……パワーバランスを崩す程の力はないぞ?」
むしろ、【釣り】でどうやってパワーバランスを崩せと……?
『タナト、忘れておらぬか、あの宝の山を』
宝の山?
ルーシーがふよふよと浮かんで、ガラクタの山と魚の山を見る。
『最強装備、伝説のアイテム、幻の魚の数々……あれが手に入れば、世界のバランスなんてあっという間に崩せる。そうなればお主は囚われ、趣味の釣りは出来なくなるぞ』
「それは困る!!!!」
俺は趣味で釣りを楽しみたいだけだ! そんなつまらん人生真っ平だぞ!
「分かってくれたみたいね、事の重大さが」
「おう。このことは誰にも言わん」
趣味の釣りが出来なくなる。それはつまり、死ねと言われているようなものだ。そんなの絶対嫌だ。
「……私も、タナトとずっと釣りしたい。誰にも渡さない。誰にも」
「……ふーん……」
……何でミケと睨み合ってるのかは分からないが……流石、頼もしいな。確かにエリオラは魔族。しかも天雷の魔女と呼ばれてたくらいだから、戦闘力も高いだろう。
「頼りにしてるぞ、エリオラ」
頭撫でり、撫でり。
「んっ♪」
「んなっ……! う、ううっ……!」
どことなく、ミケが悔しそうな顔をしてるように見える。何故だ。
「ああ、そうだ。この一ヶ月くらいで、また装備やアイテムが増えたぞ。好きなの持ってってくれ」
「いただきまーす♪」
山に向かって走り出すミケ。さっきまでエリオラと睨み合ってたのに、元気な子だ。
すると、ピタッ……。ミケの動きが止まった。
「…………こ、こここここここここっ、こっ、ここここここれ、は……?」
……何だよ、ニワトリみたいな声出して。
『《神器グングニル》じゃな』
「ああ、《神器》か。欲しいならやるぞ」
「……キューッ」
バタンッ。あ、気絶した。
「どうしたんだろうな?」
「……一般の人は、《神器》を見たらああなる。タナトが異常」
「ふーん」
エリオラとルーシーの反応が過剰だと思ってたんだが、本当に凄いものだったんだな、あれ。
「……あ、そういや、馬用の装備もあったな。レニーもそういうの欲しいだろ?」
「ヒヒーンッ」
レニーは余程嬉しいのか、尻尾をブンブン振って俺の周りを軽快に走る。可愛い奴め。
「エリオラ。悪いがレニーに装備を見繕ってくれ。俺はその辺が点で分からなくてな」
「任せて。装備も、全部仕分けしてある。ユニコーン用はこっち」
エリオラがレニーを連れて離れていく。
それを見送り、俺はまた湖の縁に腰を掛けた。
……あ、そういや、エリオラ達が近くにいて試せなかったやつがあったな。今ならそれも試せるかも。やってみよう。
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