第2話 れろれろれろれろ
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「タナト様、エリオラ様。あと数分で王城へ到着致します」
え、もう着くのか。流石に早いな。
「エリオラ、もうすぐ着くってさ」
「むゅ……くあぁ〜……」
俺の膝を枕にしていたエリオラ寝ていたエリオラを起こすと、膝の上で猫のように伸びをした。
「むにゃ……まだ眠い……」
「ほら、しゃんとしろ」
改めて思うが、エリオラってすげーカッコイイ時とすげーだらけてる時のギャップが凄まじいよな……。
エリオラは本当に眠いのか、魔法で体を浮かばせると俺の背中にもたれかかってきた。
「……エリオラ?」
「運んで」
「え、いや、ここ王城だし……」
「運んで」
「さ、流石に国のトップのいる場所でそれは……」
「はーこーんーでー」
「あーもー分かった、分かったから暴れるなっ」
全く、この駄々っ子は……。
「よいしょっと」
「……くんかくんか。すーはーすーはー。れろれろれろれろ」
「おい馬鹿止めろ!」
そんなに首元の匂いを嗅ぐんじゃない! あと舐めるんじゃない! くすぐったいだろ……!
「はふぅ……もうちょい……♡」
っ……満足気な声色。
はぁ……しょうがねぇな。こんな声出されたら、甘やかしたくもなるわ……。
大人しくおんぶされてるエリオラを連れて扉まで歩くと、メイドさんが壁に刻まれている魔法陣を操作して扉が開く。
扉が扇のようにして開いてそのまま階段になると、その先にはシャウナが満面の笑みで出迎えてくれていた。
「タナト様! ご無事で何よりでございます!」
「ああ、シャウナ。心配かけて悪かったな」
「いえ、私は大丈夫です。……ところで、エリオラ様は何を……?」
ええと……何て説明したらいいのやら……?
「れろれろなう」
「エリオラは黙ってろ」
「れ、れろ……?」
「……気にしないでくれ」
「は、はぁ……では、どうぞこちらへ」
浮遊馬車から降りた俺達は、シャウナに付いて王城の中へ入っていった。
「お、おおっ……?」
「……すご……」
どう説明したらいいんだろう……華やか……煌びやか……輝かしい……風光明媚……豪華絢爛……どう表現したら分からないほど、城の中は豪華な装飾で彩られていた。
円形状の玄関ホールはふかふかのレッドカーペットが敷かれ、その奥にある大階段の左右には、細やかな装飾のされている騎士の鎧が鎮座している。
斜め左右に続く弧を描く廊下。そこに並べられている絵画、壺、皿、武器、アイテムの数々。
見上げるほど高い天井には、女神を囲うようにして十人の天使がラッパを吹いている絵が描かれている。
その他にも目が眩むような絢爛な装飾がされているが……俺の語彙力では説明出来ないほど、美しく飾られている。
背中のエリオラも目を覚ましたのか、周囲を見渡して唖然としてるみたいだ。
「シャウナ……お前こんな所に住んでるのか……? すげぇな……」
「ええ。さあ、こちらですよ」
シャウナの後に俺、そのすぐ後ろにメイドさんが着いてくる。
中央の大階段を登り、左右に続く廊下を右に曲がる。
おぉ……やっぱりここも豪華な装飾だな……。
等間隔で並ぶ装備品の数々。その反対側には、同じく等間隔で並ぶ窓ガラスがあり、そこから外の様子がよく見える。
あれは……訓練場、か? 訓練着を着てる騎士達が、剣や槍を持って訓練してるな。
「シャウナ。あれって……」
「はい。魔王に少しでも対抗出来るように、一人一人が訓練に励み、スキルレベルを上げようと努力しています」
やっぱり、そうなるよな……。こりゃあイヴァロンを連れ出したなんて、口が裂けても言えねーぞ。
出来るだけ平静を努めてシャウナに着いていく。すると、一つの扉の前で立ち止まった。
「はい、こちらが客室になります。本日から十極天会合が終了するまで、この部屋はご自由にお使いください」
「ああ、分かった」
「それでは、後ほど宮廷直轄の仕立て屋様をお連れするので、ごゆっくりなさっていて下さい」
そう言うと、シャウナはお辞儀をして廊下を歩いていった。
「ではタナト様、エリオラ様。私も失礼致します。何か御用の際は、中にあるベルを鳴らしていただければ駆けつけますので」
シャウナの後に続いて歩いていくメイドさんを見送り、俺達は客室として宛てがわれた部屋に入った。
「……やっぱ、客室も豪華だな」
天蓋付きベッド。至る所にある間接照明。天井から垂れ下がるシャンデリア。小さめの暖炉。その前に置かれるソファー、テーブル。書架には退屈しないようにか、本がビッシリと並べられている。
ここを自由に使っていいのか……つっても、こんな豪華な部屋だとくつろげないんだが……。
「やっぱりシャウナ、凄いお金持ち」
「まあ、この国で一番の金持ちと言っても過言じゃないだろう。王族だし」
だけど、まさかこんなことになるなんてなぁ。
小さな村で生まれて、ボロ小屋に住みながら釣りを続けて、何やかんやあって今は王城の客室にいる、なんて……昔の俺に言っても、絶対信じないだろうな。
「……さてと、せっかく人目もないんだ。釣りでもして、のんびりさせてもらおう」
「私もする」
ソファーに座る俺の横にエリオラが座ると、《虚空の釣り堀》へと釣り糸を垂らした。
「ふぅ……落ち着く……」
「エッチもいいけど、タナトと二人っきりで釣りをするのも好き。安心する」
「そうか? なら、今は二人で釣りを楽しもうな」
「ん」
小さく笑みを浮かべるエリオラ。それに釣られて、俺もつい笑がこぼれた。
今までバタバタしてきたんだ。たまには、こう言うのんびりとした日があってもいいだろ? な?




