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第11話 がっつり幼女じゃん

 無事元の世界に戻ってきて一段落着いたところで、まずはエミュールの店に行くことにした。


 あいつも俺のことを心配してくれたみたいだし、丁度土産もあるしな。顔だけでも見せないと。


「さて、レニー。悪いけど白部屋の中に入ってくれないか? エリオラの転移魔法で移動するからさ」


「ブルルルッ」


 んおっ!? い、いきなり舐めてくるなっ、くすぐってぇ!


「ふふ。レニーも、タナトのことが心配だったのよね」


「ぁ……そうか……レニー、ありがとな」


 ははっ、擦り寄ってきて可愛いヤツめ。


「あ、悪いミケ。馬車に忘れもんしたから持ってきてくれるか? ファントムの枝だ」


「全く。大切なもん忘れてんじゃないわよ。ちょっと待ってなさい」


《虚空の生け簀》の中に入っていくミケを目で追っていると、レニーがぼそりと口を開いた。


『全くもう、心配したんですよタナトさんっ』


「ああ、悪かったな。レニーも駆け回ってくれたんだろ? 感謝してるよ、本当に」


『全くです、プンプンです』


 とか言いながら、いいように撫でられてるレニーかわええ。


『……ん? すんすん──ムッ』


「え、何? 臭う?」


『くんかくんか、くんかくんか』


 そ、そんな嗅ぐな。なんか恥ずかしいだろ。


『タナトさん……エッチなことしたんですね?』


「ぶぼっ!?」


 い、いきなり何を!?


『この臭い……したんですね? したんですねっ?』


「えと、その……したというか、されたというか、ヤラれたというか……」


 いや、何で俺レニーに対してしどろもどろになってんだっ。浮気現場を目撃されたクズ男か俺は。


『むぅ……本当は清らかな人しか近づくことさえ許さないのですが……タナトさんや皆さんは特別です』


「あ、ありがとう……?」


 で、いいのか、これは?


 苦笑いを浮かべていると、《虚空の生け簀》からミケが戻って来た。


「タナト持って来たわよ」


「おお、サンキュー。さあレニー、中に入ってくれ」


「ヒヒンッ」


 レニーが生け簀の中に入ったのを確認して、穴を閉じる。


 準備は万端。あとはエリオラの転移魔法で移動するだけだが……。


「ええいっ、エリオラは下がっとれ! 余が、余が転移するのだ!」


「タナトに任されたのは正妻の私。ぽっと出の幼女はお呼びじゃない」


「幼女言うな! と言うか、貴様は余のぐらまーな姿を知っているだろ!」


「偽乳身長サバ読み体型のこと?」


「むきゃーーー!」


 ……さっきからこの調子でずーっとやり合ってるんだよなぁ……。


「イライザ。二人っていつもこんななのか?」


「うん。特にイヴァはお姉ちゃんにすっごい対抗心があるのだわ。お姉ちゃんも、イヴァには遠慮しないでズバズバ言うから、ある意味仲はいいのかも」


 へぇ……こんなエリオラ初めて見たから、これはこれで新鮮だな。


 ……って、見てないで止めないと。


「おい二人共。いい加減、どっちかに決めてほしいんだけど」


「私」


「余だ!」


 二人の視線が交錯する。まあ、二人共本気でいがみ合ってるって感じではないけど、譲れない所があるんだろう。


「だけど、イヴァロンは王都に行ったことないだろ? 転移魔法って、確か行ったことある場所にしか行けなかったはずだが……」


「ふふんっ。余の転移魔法は特別製だぞ。触れている相手と意識を共有し、余が行ったことがない場所でも転移出来るのだ!」


「へぇ……それが本当なら、めちゃめちゃ便利だな」


「だろ!? やっぱり余は凄いのだ!」


 目を輝かせ、ギザ歯を覗かせて満面の笑みを浮かべるイヴァロン。こんなところも幼女っぽい。


「エリオラ。今日のところはイヴァロンに任せてみようぜ」


「むぅ……仕方ない。もうイヴァロンは仲間。タナトが信じるなら、私もイヴァロンを信じる」


 エリオラは渋々と言った感じで俺の体に抱き着くと、じとっとした目でイヴァロンを睨み付けた。


「ふっふっふ、では行くのだ! イライザとミケも、タナトに掴まるのだぞ! 余は肩車なのだ! 一番高くて、余の特等席なのだ!」


 いやもう、がっつり幼女じゃん。


 俺の肩に飛び乗り、頭をしっかり抱きかかえられた。


 そして左腕にはイライザ、右腕にはミケが抱き着いてくる。


「……あの、皆さん。これ格好的にまずいんじゃ……」


「何言ってるのよ。前にエリオラちゃん、左にイライザちゃん。後ろ……と言うか上にイヴァちゃんがいたら、あとは右しかないじゃない」


 確かに状況的に見たらそうだけど、このまま転移したら俺の社会的信用というか、女の子にめっちゃ抱きつかれて街中に堂々と現れる男女の敵認定されるというか……。


「さあ行くのだ!」


「ちょ、待っ──」


 俺達を除き、周囲の景色がドロドロに歪む。


 あー、これはあれっすね。……もう手遅れだ。


 周囲の景色が、馴染みのある王都の通りへと変わる。


 うっ……人の視線が痛い……! 最初は驚いてたみたいだけど、現状を認識した後の目の鋭さが怖い!


「何あれ……?」

「女の子にめっちゃ抱きつかれてる……」

「しかも全員めっちゃ可愛い!」

「誰だあれは!?」

「ヤリチンよヤリチン……!」

「汚らわしい……」

「羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい……」

「馬に蹴られて死ねばいいのに……」


 呪詛が酷くない? ねえ酷くない??


 うぅ、居心地悪い……は、早く店に……!


 全員を引っ張るように、急いでエミュールの店に入る。


 中はそれなりに人はいるが、外の通りにいるよりマシだっ。


「いらっしゃいませー! 装備屋エミュールにようこ……そ……」


「……エミュール……」


 あぁ……コケたほほ。目の下のクマ。無理して作った笑顔。俺を見て見開かれた目に、震える口元。


 本当に、心配掛けたんだな……。


「……た、た、た……タナ、た……! かっ……!?」


 あ、気絶した。


 ミケとイライザが慌ててエミュールに近付き、周囲の客に今日は臨時休業にすると伝えると、客も速やかに店を出ていった。


「笑顔だったり固まったり、タナトを見てぶっ倒れたり……奴も忙しい奴なのだな」


「まあ、その殆どは俺のせいだから何とも言えないが……」


 まあ、とにかく……。


「……ただいま、エミュール」

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