第7話 祈る相手はここにいる
◆◆◆
エリオラちゃん達が寝てから、レニーに乗って世界中を飛び回って帰って来ると、イライザちゃんは起きたのか、一人でリビングにいた。
「イライザちゃん、ただいま」
「あっ、お帰りなのだわ!」
一人が寂しかったのか、私の姿を見て直ぐに抱きついて来た。
その頭を撫でると、気持ち良さそうに目を細める。
「……エリオラちゃんは、まだ寝てるの?」
「うん。相当疲れてたみたいで、ピクリとも動かないのだわ」
「そう……」
もうエリオラちゃんが寝てから十二時間も経つ。少し心配ね……。
「……あんな一生懸命なお姉ちゃん、初めて見るのだわ……」
「そうなの?」
「……お姉ちゃんは天才……いえ、天才の枠を超えた異才。ミケちゃんも知ってると思うのだわ」
確かに……あれは天才とは違う気がする。
絶対的な魔力量、魔法の才能、奇跡とすら呼べる未知の魔法を創り出す圧倒的センス。
タナトやイライザちゃんに比べたら付き合いは短いけど、それくらい私にでも分かる。
「今この世界で、お姉ちゃん程魔法の深淵を覗いた存在はいないのたわ。歴史上初めて、魔法を超常のものとせず、神の御業に昇華させた唯一の存在。……そんなお姉ちゃんが、これだけ必死になってる。こんなこと初めてなのだわ」
……奇跡の魔女と呼ばれたイライザちゃんをしても、ここまで言わせるなんて……エリオラちゃんの才能は底知れないわね……。
でも……イライザちゃんがここまで言うなら、エリオラちゃんなら本当にやってくれるんじゃないかしら……。
期待はすればするだけ、出来なかった時の落胆が大きい。
そんなことは分かってる。
でも、エリオラちゃんなら……と思ってしまうのは、仕方のないことよね……?
「……お願いします、神様……」
どうか……エリオラちゃんに力を……。
──ズゴシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァ!!!!
「なっ!?」
「ッ!?」
な、何よ今の音!?
咄嗟にイライザちゃんを庇うように抱き寄せて、天龍の破槍を構える。
……よく見ると、エリオラちゃんの部屋の扉が吹き飛んでいる。蹴破ったのか、中から綺麗な脚だけが覗いていた。
扉を蹴破った張本人……エリオラちゃんが、ゆったりとした足取りで出てくる。
「エリオラちゃん、起きたのねっ」
よかった……目の下のクマも、乱れた髪も戻ってる。
「ミケ。祈る相手が違う」
「……え……?」
「祈る相手は神じゃない。祈る相手はここにいる」
自分の胸に手を置き、意志の強い目で私を見つめてきた。
「……お姉ちゃん、出来たの……?」
「……正確には未完成。でも、タナトを引きずり戻すくらいなら出来る」
……まさか、本当に出来るなんて……。
「……エリオラちゃん、お願いします。……タナトを、助けて……!」
「任せて」
エリオラちゃんが両手を大きく左右に広げ、目を閉じる。
「ルーシー」
『うむ』
エリオラちゃんの周りの景色が歪み出す、けど……何、この高密度の魔力は……!?
耳鳴りにも似た、甲高い音が浮遊馬車の中に響き渡る。
「お姉ちゃんっ、これって……まさか魔力で次空を……!?」
「ん。私でも、糸一つ分しか空けられない。少し集中する」
え、何? 何が?
「い、イライザちゃん、あれ何してるの……?」
「……お姉ちゃんは、魔力を極限にまで練り高めてるのだわ。空間に、物理的に穴を空けられるように……」
「……は? 空間に穴を空ける……?」
「……お姉ちゃんの魔法は私にも理解出来ない。でも魔法式や魔力の構成を見ると……そうとしか思えないのだわ……!」
……エリオラちゃん……。
「……ルーシー、もう少し集めて」
『う、む……!』
ルーシーが苦しげな声を漏らす。あのルーシーでも、エリオラちゃんに合わせるのが精一杯なんだ……。
「今、ルーシーがお姉ちゃんの魔力を一点に集めているのだわ。そしてお姉ちゃんが、集めた魔力を練って不純物を排除している」
「不純物の排除? そうするとどうなるの?」
「お姉ちゃん程の魔力から不純物を取り除いて、更に極限まで練り高めると、爪の先の量で大陸を蒸発させられるのだわ」
こっっっっわ!? エリオラちゃんなんて綱渡りなことしてるの!? 恐ろしい子ッッッ!
エリオラちゃんの目の前に、白く輝く小さな何かが現れる。多分、魔力だろうけど……魔力がこんなに美しく輝くのを、初めて見た……。
その魔力が、少しずつ糸のような形になっていく。
長く、細く、そして白い糸。
これが、タナトを見付けてくれる手掛かり……!
エリオラちゃんが、自分用にタナトから貰った釣り竿を持ってきて、先端にその糸をくっ付けた。
「……準備完了」
『──ぶはっ! ぜぇっ、はぁっ、ぜぇっ……! き、キッついのじゃ……!』
「ルーシー、お疲れ様。あとは任せて、ゆっくり休んで」
『そ、そうさせてもらうのじゃ……』
ルーシーから光りが消える。多分、寝たのだろうか。
「よし……ほっ」
エリオラちゃんが虚空に向けて釣り竿を振るうと、虚空が水面のように揺れて糸が真っ直ぐと伸びた。
まるで、タナトの持つ神器みたいに……。
「……ぇ……神器……?」
「お、お姉ちゃん、これ……」
「ん。──擬似神器。さっき創ったからまだ未完成。でも、これを通じてタナトの気配を探ることは出来る」
……神器を……創った……!?
余りにも埒外の魔法。
いや、もはや魔法ですらない。
これは──奇跡だ。
◆◆◆
一方、その頃のタナトは──。
「こ、これはプリズムフィッシュ! 刺身にして食うと最高なんだよ!」
「タナト! 捌くのだ、食べるのだ!」
──割と異界遭難を楽しんでいた。
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