第3話 ただひたすらに──
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「ひゃっほう! また新種釣ったぜ!」
こいつは何だ釣り神様!
『解。当該獲物、グレープポイズンフィッシュ。第一異界に生息する珍魚。頭部に葡萄のようなコブがあるのが特徴的。超強力な毒がある。食べると痙攣と激痛、後に幻覚を見る』
ほーん、毒があるのか。まあ俺には意味ないけどね! 触れただけで自然に解毒出来ますし!
包丁を取り出し、グレープポイズンフィッシュを宙に投げて一瞬で切り刻む。
なんと、身まで紫色だ。これは何身魚なんだろう……。
「ちょーむらさきです」
「とてもぽいずんてきですな」
「食ってみるか?」
「ぼくらあまいものしょもー」
「おかしてきな」
「おかしっぽい」
「おかしらしい」
「おかし、おかし」
「お菓子はない」
「「「「しょもーん……」」」」
しょもんしても、ないもんはない。
取り敢えず一口。ぱくっ。
「……あんま美味くねーな」
解毒はしてるけど、そもそも身が不味い。硬いし。
……いや、現実逃避はよそう。
「ホント、どうするかなぁ……」
ずっと釣りを続けてたからか、感覚で今何時かが何となく分かる。多分、既に数時間は経ってるだろう。
それでも日は沈まない。と言うか、空の頂点から少しも動いてない。
元の世界とは全く違う場所だから、理屈や常識は通用しないんだろうけど……それにしても、日が沈まないとどうも調子が狂うな。
釣り竿を地面に突き刺し、砂浜の上に寝転ぶ。
はぁ……風が心地いい……。
「……思えば、こうして一人になるなんていつぶりだろうな……」
エリオラがいて、ミケがいて、イライザがいて……最近ではエミュール、シャウナと出会って……毎日がてんやわんやの大騒ぎだったもんなぁ……。
…………。
「……俺、ここで死ぬのかな……」
当然、今すぐ死ぬことはないと思う。
それでも、誰もいないこの世界でこうしていると……俺はもう、助からないんじゃないかって思いに駆られる。
多分向こうでは、エリオラ達が異変に気付いて俺を捜してくれてるだろうけど……異界にいる俺を助け出せるかは分からない。
まさか、こんなことになるなんてなぁ……。
それに俺、このままだと清らかな身のまま死ぬのか。ちょっとそれはご遠慮したい。マジで俺の人生釣りしかしないで終わったようなものじゃん。いや本望ではあるけど。
流石にそれは寂しすぎる。
俺だって人並みの欲望はある。三大欲求だってある。
ちょっとは結婚願望もあるし、なんなら子供だって欲しい。子供と一緒に釣りしたい。
…………。
「……はぁ。俺も末期だな……」
俺がこんなことを考えるなんて……あれか、死を目前にして種の保存本能でも目覚めたか。
自称世捨て人な俺だが……まだまだ捨てたもんじゃないってことだな。
なら──やることは決まった。
「絶対、ここから抜け出す」
エリオラの力を持ってしても、自力で異界から出ることは出来なかった。
でも俺なら出来る。
エリオラを異界から救い出した力……《神器釣り竿》と《虚空の釣り堀》の力があれば、絶対に出来る。
「来い、《神器釣り竿》」
俺の体から金色の光りが漏れ出る。それが手の平の上で球体となった。
それを力強く握り潰すと、細く、長い黄金の釣り竿が姿を現す。
《神器釣り竿》。俺にはこいつがある。こいつがあれば、絶対に何とかなる……!
「おー」
「きんぴかー」
「ぴかぴか」
精霊の皆も、《神器釣り竿》を興味深そうに見ている。
「これ、とてもよさげ」
「よさげです」
「よさげですゆえ」
「きょーかいこえるです」
「……境界を越える? 異界同士を越えられるってことか?」
「たぶん」
「おそらく」
「めいびー」
「そこはかとなく」
何だその自信の無さは。
……まあいい。とにかく今は、こいつの力に頼るしかない。
「頼むぞ……」
……よしっ。
釣り竿を振り上げ、虚空に向けて振るう。
虚空が水面のように波打ち、繋がる釣り糸が揺れる。
あとは待つ。ひたすら待つ。
元の世界に繋がっていなければ、何度でも振るう。虚空へ。
繋がれば、俺の気配を探知してエリオラが助けてくれる。
予感ではなく、確信。
それまで、ただひたすらに──。




