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第3話 ただひたすらに──

   ◆◆◆


「ひゃっほう! また新種釣ったぜ!」


 こいつは何だ釣り神様!


『解。当該獲物、グレープポイズンフィッシュ。第一異界に生息する珍魚。頭部に葡萄のようなコブがあるのが特徴的。超強力な毒がある。食べると痙攣と激痛、後に幻覚を見る』


 ほーん、毒があるのか。まあ俺には意味ないけどね! 触れただけで自然に解毒出来ますし!


 包丁を取り出し、グレープポイズンフィッシュを宙に投げて一瞬で切り刻む。


 なんと、身まで紫色だ。これは何身魚なんだろう……。


「ちょーむらさきです」

「とてもぽいずんてきですな」


「食ってみるか?」


「ぼくらあまいものしょもー」

「おかしてきな」

「おかしっぽい」

「おかしらしい」

「おかし、おかし」


「お菓子はない」


「「「「しょもーん……」」」」


 しょもんしても、ないもんはない。


 取り敢えず一口。ぱくっ。


「……あんま美味くねーな」


 解毒はしてるけど、そもそも身が不味い。硬いし。


 ……いや、現実逃避はよそう。


「ホント、どうするかなぁ……」


 ずっと釣りを続けてたからか、感覚で今何時かが何となく分かる。多分、既に数時間は経ってるだろう。


 それでも日は沈まない。と言うか、空の頂点から少しも動いてない。


 元の世界とは全く違う場所だから、理屈や常識は通用しないんだろうけど……それにしても、日が沈まないとどうも調子が狂うな。


 釣り竿を地面に突き刺し、砂浜の上に寝転ぶ。


 はぁ……風が心地いい……。


「……思えば、こうして一人になるなんていつぶりだろうな……」


 エリオラがいて、ミケがいて、イライザがいて……最近ではエミュール、シャウナと出会って……毎日がてんやわんやの大騒ぎだったもんなぁ……。


 …………。


「……俺、ここで死ぬのかな……」


 当然、今すぐ死ぬことはないと思う。


 それでも、誰もいないこの世界でこうしていると……俺はもう、助からないんじゃないかって思いに駆られる。


 多分向こうでは、エリオラ達が異変に気付いて俺を捜してくれてるだろうけど……異界にいる俺を助け出せるかは分からない。


 まさか、こんなことになるなんてなぁ……。


 それに俺、このままだと清らかな身のまま死ぬのか。ちょっとそれはご遠慮したい。マジで俺の人生釣りしかしないで終わったようなものじゃん。いや本望ではあるけど。


 流石にそれは寂しすぎる。


 俺だって人並みの欲望はある。三大欲求だってある。


 ちょっとは結婚願望もあるし、なんなら子供だって欲しい。子供と一緒に釣りしたい。


 …………。


「……はぁ。俺も末期だな……」


 俺がこんなことを考えるなんて……あれか、死を目前にして種の保存本能でも目覚めたか。


 自称世捨て人な俺だが……まだまだ捨てたもんじゃないってことだな。


 なら──やることは決まった。




「絶対、ここから抜け出す」




 エリオラの力を持ってしても、自力で異界から出ることは出来なかった。


 でも俺なら出来る。


 エリオラを異界から救い出した力……《神器釣り竿》と《虚空の釣り堀》の力があれば、絶対に出来る。


「来い、《神器釣り竿》」


 俺の体から金色の光りが漏れ出る。それが手の平の上で球体となった。


 それを力強く握り潰すと、細く、長い黄金の釣り竿が姿を現す。


《神器釣り竿》。俺にはこいつがある。こいつがあれば、絶対に何とかなる……!


「おー」

「きんぴかー」

「ぴかぴか」


 精霊の皆も、《神器釣り竿》を興味深そうに見ている。


「これ、とてもよさげ」

「よさげです」

「よさげですゆえ」

「きょーかいこえるです」


「……境界を越える? 異界同士を越えられるってことか?」


「たぶん」

「おそらく」

「めいびー」

「そこはかとなく」


 何だその自信の無さは。


 ……まあいい。とにかく今は、こいつの力に頼るしかない。


「頼むぞ……」


 ……よしっ。


 釣り竿を振り上げ、虚空に向けて振るう。


 虚空が水面のように波打ち、繋がる釣り糸が揺れる。


 あとは待つ。ひたすら待つ。


 元の世界に繋がっていなければ、何度でも振るう。虚空へ。


 繋がれば、俺の気配を探知してエリオラが助けてくれる。


 予感ではなく、確信。


 それまで、ただひたすらに──。

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