第16話 ワーーーー!
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翌日。店は早速シャウナの方に任せ、俺達は王都を出て森の中を歩いていた。
「それでエミュールちゃん。何かいい案があるの?」
「ええ。一つだけ思い当たる木があるわ。それさえ手に入れられたら……」
……思い当たる木? 何だ、それ?
「ルーシーも言ってたけど、俺の釣り竿は長年使ってたからこそ自分にフィットしたものだったんだ。普通の木じゃどうにもならないだろ」
「私が考えてるのはただの木じゃないわ」
……木は木だろ? まあ、シャウナの奴が神樹ユグドラシルがどうとか言ってたから、多分木にも格があるんだろうけど。
「──幻想樹ファントム。名前だけなら、聞いたことあるでしょ?」
げ、幻想樹ファントム……!?
…………。
何それ知らない。
「えっ……幻想樹ファントムですって!? 人前には姿を現さないと言われる、あの!?」
『……まさか、実在しておるのか……?』
「びっくり……」
「私も見たことないのだわ」
四者四様。だがみんな知ってるみたいだ。有名なの?
「ミケ、何だよそのファントムってのは」
「……まあ、タナトならそう言うと思ったわ」
さーせん。
「……幻想樹ファントム。人前には姿を現さない、幻の樹。珍しさで言えば、神器相当の樹木よ」
「ほぅ……なら対して珍しくないんだな」
俺いっぱい持ってるし。
「それはあんたが釣りまくるからでしょ! ……いい? 神器は神から与えられた至上の武器。一国に一つあれば、他国へ睨みを利かせられる程の力を持つの」
へぇ、あのガラクタがそんな力を持ってるのか……興味ないから別にいいんだけど。
「本来神器は数百年……いえ、下手すると数千年も見つかることはないわ。つまり幻想樹ファントムも、それ程見付けることが出来ないの」
げっ、そんなに!? それじゃあ探しても意味ないじゃん!
「──いえ、私は知ってるのよ。ファントムの場所を」
……え……? エミュール、今なんて……?
「……エミュールちゃん、遂にイカれたのだわ」
「よしよし。エミュール、いい子だから正気に戻って」
「誰も狂ってないわよ!?」
いや、そんなこと言われてもとち狂ったようにしか聞こえないぞ。
「全くもう……! ……まあ、私もまだ見たことはないけど、本当に場所は知ってるのっ」
……ここまで力強く断言するってことは……本当に、知ってるのか……?
「向かうのは、王都から西へ行った場所よ。さあ、キビキビ行くわよ!」
◆◆◆
「ハアァッ!」
ミケが武装し、襲いかかって来る狼型の魔物を串刺しにする。
「ふぅ……エミュールちゃん、まだ付かないの? そろそろ日が暮れるわよ」
「確かにな。もう森の中も暗くなってるぞ」
浮遊馬車に乗って、森の中を歩くこと数時間。エリオラが光の玉を作って照らしてくれてるけど、そろそろ周りが見づらくなる時間帯だ。
「もう少し先に進んだ所だけど……多分、ここでも大丈夫ね」
……ここでも大丈夫? どういうことだ?
エミュールは自分の鞄を漁ると、中から一つの瓶を取り出した。かなりデカい瓶の中には、黄金色の粘度の高い液体が入っている。
「くんくん、くんくん。甘くていい匂い」
「芳醇でフルーティーな香り……蜂蜜たのだわ!」
「正解。どこにでも売ってる市販の蜂蜜よ」
……何でそんなものを……?
エミュールは馬車を降りると、蓋を開けた瓶を地面に置く。
「……何してんの?」
「まあ見てなさい」
見てなさいって……。
「……お姉ちゃん、この気配……」
「ん。沢山いる」
エリオラとイライザは何か感じ取ってるみたいだけど……俺とミケ、置いてけぼりでござる。
そのまま待つこと数分。
「……来るわ」
え、何。何なの……?
エミュールが暗闇を注視する。と──。
「「「「「ワーーーー!」」」」」
……え、何これ……ちっさい人間!?
色とりどりの髪の毛を生やした、二頭身の小さい人間。
俺の手の平に乗りそうなほどの小人が、暗闇の中から無数に現れた。
「にんげんさん、こんばんはです」
「またおかしですー」
「しあわせいっぱい、ありがとです」
「あまあまー」
「いーにおいですぅ」
な……え……な……何ぞ、これ……?
小人が蜂蜜の瓶に群がり、丁寧に手で掬って舐めている。
「ほわわぁ〜……」
「のうがふるえる、です」
「のうじるどばどば」
「でんじゃらす」
……可愛い……。
じゃなくてっ!
「え、エリオラ。これ何?」
「……死人の魂を黄泉の世界へ導くとされる、伝説の種族。本来人前に姿を見せないほど臆病。甘いものと面白いものが好きな、珍種。私も初めて見る」
エリオラでさえ初めて見る、だって……?
「え……エリオラちゃん、まさかこれって……!」
ミケが驚いたように目を見開く。
「ん、間違いない。──精霊族」




