第15話 任せて!
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レゼンブルク王国第一王女、シャウナ・S・ミネルヴァ様。
シャウちゃんが帰って一日が過ぎた。
装備やアイテムが好きで、私と趣味の合う女の子。
私と話しの通じる初めての同性の友達。
そんな子が、私のお店を全面的にバックアップしてくれる……とんでもないことになった。まさか一国の王女様が、私のお店を支援してくれるなんて……。
あれもこれも、全部タナトさんのお陰だ。
こんなこと、私一人じゃ絶対成し遂げられなかった。
タナトさんのスキルがあって、タナトさんがシャウちゃんと話しをしてくれたから、叶えられたこと。
本当……タナトさんにはお世話になってばかりだ。
でも……タナトさんがシャウちゃんにこんな話しをした理由が、何となく分かる。
タナトさん達は今、世界中を回っている。
つまりそれは、もうタナトさんが私のお店にいる時間は残り僅かだということだ。
タナトさんが旅立ってしまう前に……何か、恩返しがしたい。
何でもいい。タナトさんの役に立ちたい。
タナトさんが持って来てくれた商品を売って、タナトさんにお金を渡す。
そんな寂しい関係じゃなく、タナトさんに何か一つでも……。
「ぬあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!?!?!?!?」
「うぇいっ!?」
◆◆◆
「どどどどどうしたのタナトさん!?」
「あああああ……ああああああああぁ……!」
あがががががががががっ。
「お、お兄ちゃん、しっかりするのだわ!」
「タナト、混乱したり落ち込んだりしてる時は、おっぱいを揉めば復活するという伝承がある。是非私のおっぱいを──」
「エリオラちゃん、話しをややこしくしないで!」
あばばばばばばばばばはっ。
「た、タナト。本当にどうしたのよ……? あんたがそんなに冷静さを失うなんて……」
ぁ……ミケ……?
「……ミケ……ミケぇ……」
ひしっ。
「「「あーーーーー!」」」
「んえぇっ!? たたたたたたたタナトっ、だ、だ、だ、抱きついて……!?」
なぜ……なぜぇ……。
「お、お、俺の愛竿が……折れてる……」
「「「「……え?」」」」
◆◆◆
「なるほど……久々に自分の釣り竿で釣りをしようとしたら、折れてたのね……」
「うん……」
浮遊馬車のリビングで、折れた釣り竿を囲んで座る俺達。
はぁ……使ってはいなくても、毎日手入れしてたのに……こうもポッキリ折れるなんて……。
「これ、あんたが小さい頃から使ってたもんね。確かおじさんがくれたっていう……」
「ああ……大切な、形見のようなものだ……」
親父が使い続け、俺にくれた釣り竿。
どんなに巨大な魚でも釣り上げることの出来た、最高の相棒が……まさか折れるなんて……。
『ふむ……どうやら、見えない傷みが原因のようじゃな』
「ルーシー……な、直せないか、これ……?」
『造作もないが、恐らくタナトの思った通りには直せぬぞ』
「……どういうことだ……?」
『タナトがこれを使っていた時、観察させてもらった。釣り竿のしなり、投げる時のスピード、強度……その全ては、釣り竿の見えない傷みがあってこそだったのじゃ。その傷みを綺麗さっぱり直したら、この釣り竿を使っても違和感しか残らんぞ』
そ、そんな……どうしたら……。
「で、でもタナトには神器もあるじゃない。あっちじゃダメなの?」
「……あっちは金属で作られた釣り竿。これは木製の釣り竿で、やっぱり釣った時の感触が若干違うんだよ……」
それに俺、どちらかというと木製の釣り竿の方が好きなんだよな……。
ああああ……どうしよう……。
……取り敢えず、直すだけ直してもらうか……流石に、このままだと釣り竿が可哀想だもんな。
「ルーシー、直してくれないか?」
『よいのか?』
「……ああ。親父から貰った大切な釣り竿だ。このままってのは……」
『……うむ、分かった』
ルーシーが釣り竿の上に浮かぶと、暖かな光りが釣り竿を覆った。
見る見るうちに直っていく釣り竿。次の瞬間には、一見元通りの釣り竿が現れた。
『振ってみよ』
「あ、ああ」
釣り竿を手に、空中に向かって振る。
「っ……やっぱ、違うな……」
…………。
「……ありがとう、ルーシー。こいつは大切に保管するよ」
折れちまったもんは仕方ない。次の相棒が見つかるまで、神器を──。
「……あ、あの!」
「……エミュール? おわっ!?」
な、何でいきなり俺の手を握って……!
「た、タナトさん!」
「な、何……?」
「こ、こ、こ、この釣り竿の件、私に任せてもらえないでしょうか!?」
……え……任せて、て……。
「だけど、流石にこれは……」
「大丈夫! 絶対何とかしてみせるから!」
エミュールは真剣な眼差しで、俺の目を見つめる。
……何で、ここまで気合いを入れてるのか分からない。でも……エミュールなりに、何か考えがあるのかもな……。
……あんまり期待し過ぎると、返って落胆しちまうからな……あまり期待はしないが……。
「……じゃあ、エミュール。頼めるか……?」
「! ええ、任せて!」
エミュールは腰に手を当て、満面の笑みで頷いた。




