第7話 嫌われたくない
◆◆◆
「釣り竿はこうしてゆっくりと……」
「な、なるほどっ」
私の手を取り、釣り竿をゆっくりと動かすタナトさん。
意外と大きな手の大きさにドキドキしながらも、真剣に釣りを学んでいく。
でも……私は今、自分でも分からない感情に囚われている。
この感情の正体は分からない。
だけど、タナトさんの隣にいるとホワホワした感じになる。
昨日タナトさんに促されて睡眠を取った時、夢か現実か分からないけどタナトさんの声が聞こえた。
『分かるんだよ。好きなものの為に必死になって頑張ったり、身を粉にして向き合う気持ちが』
『俺とエミュールは似てるんだ。……だからこそ放ってはおけない』
妙に現実感のあるあの言葉……。
それが、私にはとても嬉しかった。
子供の頃から装備やアイテムを扱ってると、両親にも友達にも馬鹿にされてきた。
若い女の子がのめり込むようなものじゃない、と。
そんなことやるくらいならオシャレをしなさい、と。
さっさといい人を見つけて孫を見せなさい、と。
うるせーこちとら必死でやってんだよ、ぶっ飛ばすぞ!
私の周りには、私の好きなものを理解してくれる人はいなかった。
もっと言うなら、理解しようとしてくれる人はいなかった。
それが寂しくて、悲しくて、苦しくて……。
でもそんな中に現れた、私の好きなものを理解してくれる人。
それがタナトさん。
タナトさんも、寝ずに釣りをするほどの釣り好きらしい。
その気持ち、痛い位分かる。
私も時間を忘れて装備を眺めたり、メンテナンスしたり、愛でたり出来る。
そう、私とタナトさんは似ている。いや、もはや同族と言ってもいい。
さっきも、タナトさんは私のことを仲間だと言ってくれた。
……嬉しい。
凄く……すっっっごく嬉しい……!
今まで一人ぼっちだった。
見返してやろうとどんなに必死にやっても成果は出ず、そのせいか自分でも分かるほど空回りしていた。
それが……もう一人じゃないと知った。
それが心の余裕になり、狭かった視野が広がったようにも感じる。
でも……もう一人じゃないと知ったからこそ……。
この人にだけは、嫌われたくない。
◆◆◆
「た、タナトさん、こう……?」
「そうそう、そんな感じ。後はもうちょっと緩急を付けて」
「うんっ」
……さっきからこいつ、俺の顔をチラチラ見てくるが……何なんだ、一体?
「なあエミュール、俺の顔に何か付いてるか?」
「ふぇっ!? な、何も?」
……こうまで露骨に目を逸らされると、ちょっと傷付くんだが……まあいいや。
自分の釣り竿を握り締め、心を荒立てないように集中する。
……うん、やっぱりいいな、これ……この空気、この時間。全てが整う感じだ……。
湖のさざ波の音や、木々の擦れる音。暖かな日差しに、頬を撫でる風。
あぁ、気持ちいいなぁ……。
「……タナトさんの気持ち、よく分かる……いいね、このゆったりと流れる時間……」
「お、分かるか?」
「うん。私も装備をメンテナンスしてる時、こんな気持ちになるから……」
横目でエミュールを見ると、今この瞬間を全身で受け入れてるような朗らかな顔になっていた。
「……エミュールは、本当に装備が好きなんだな」
「勿論。装備が私の人生。装備なくして私はありえないわ」
俺にとっての釣りが、エミュールにとっての装備か……本当、俺達って似た者同士だな。
妙な親近感を抱いてると、エリオラとイライザが無理やり俺の膝の上に座って来た。
「ど、どうしたお前ら?」
「どうしたもこうしたもないっ」
「むーっ!」
ええ……何怒ってるの君達……。
困惑してると、二人が俺の服を掴んでエミュールを睨み付けた。
「私達の方がタナトを理解してるもんっ」
「私達の方がお兄ちゃんのこと好きなのだわ!」
……あ、嫉妬か。
確かに最近忙しくて、二人に構ってる余裕無かったな……。けど、エミュールに釣りを教えるって言っちゃったし……。
どうするか迷ってると、エミュールが笑みを浮かべて口を開いた。
「……二人は、タナトさんのことが好きなんでしょ?」
「ちょー好き」
「大大大好きなのだわ」
何でこの人達、こんな恥ずかしげもなく言えるの……?
「ふふ。それなら皆で釣りをしましょうよ。タナトさんの好きなものを皆でやるなんて、素敵だと思うけど」
「するっ、やるっ、ヤリまくる」
「私もお兄ちゃんに手取り足取り教えて欲しいのだわ」
「……ま、釣りをすることには変わりないか……そんじゃ、俺の言う通りにやるんだぞ?」
「「あーいっ♪」」
全く、わがまま娘共め。
……まあ、こうしてわがままに振り回されるのも、たまには悪くない……か。




