第20話 無償の愛
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「ふぅ……何だか疲れたわねぇ」
「だなぁ……」
ロゥリエを倒した翌日。俺達はアクアキアを出る前に、最後ということで釣り堀に来ていた。
俺の隣に並んで座るミケも、珍しく釣りを楽しんでいる。
まあ、あんなぶっ飛んだことが起きたんだ。現実逃避もしたくなるよなぁ……。
「お姉ちゃん、分かってるわね?」
「もち。大きいの釣った方が、タナトの童貞貰える」
「負けないのだわっ!」
「ふふふ。掛かってくるがいい」
そのぶっ飛んだ二人は、何か平和的な勝負をしてるし……てか童貞ちゃうわっ(童貞の言い訳)。
「二人共元気ねぇ。私なんてロゥリエの攻撃を防いだり、ちょっと反撃しただけで気疲れしてるのに……」
「あいつ、やっぱり強かったのか?」
「強いってもんじゃないわよ。タナトや二人がいたから気丈に振る舞えたけど、あれと一対一は無謀ね。流石、大昔に混沌と破壊を振り撒いていただけのことはあるわ……」
マジか……《ドラゴン・ランス》だっけ? あれをロゥリエが避けたから、思いの外余裕なのかと思ってたけど……。
あれもこれも、エリオラのイライザがいてくれたから何とかなったんだなぁ……改めて感謝しないと。
横目で二人を見ると、二人揃って立派な魚を釣っていた。
「釣れた! 十五センチなのだわ!」
「私も釣れた。タナトのナニ級」
「はわわわわっ……!? お兄ちゃんこわ……」
「はいそこ! 見たこともないのに印象操作するな!」
そいつ三〇センチ級じゃねーか!? そんなデカくねーわ!
「それにしても、イライザちゃんはホント変わったわよね……何でいきなりタナトのことを……?」
『それはウチが答えよう』
わっ、ルーシーいつの間に……。
『昨日も言ったが、二人には親がいない。戦乱の世界を二人で生き抜いて来たのじゃ』
戦乱……まだ人間と魔族が融和を結んでない、数千年前のことか……。
『その中で、強大すぎる力を持ったエリィは、その力を使って人間との融和を目指した。対して、強いがエリィほどの力を持っていないイライザは、エリィに対抗するかのように混沌と破壊の道へと堕ちて行ったのじゃ』
……確かに、その気持ちは分からないでもない。もし俺にそんな兄弟姉妹がいたら、反骨精神で別の道に行くのは想像出来る。
『そこが運命の分かれ道じゃった。イライザは一人で闇の世界を渡り歩き、信用出来る者もいないまま生き抜いた』
「……つまりイライザちゃんは……」
『うむ……イライザは欲していたのじゃ。心から信用出来る者。自分を守ると言ってくれる者からの……無償の愛を』
……愛、か……。
正直俺は、そこまでイライザを想って言った訳ではない。
家族として迎え入れたエリオラ。その妹であるイライザ。その“家族”という括りで、俺はイライザを守ると言った。
それが分相応だとは分かってる。でも……その言葉でイライザが救われたのなら……それで良かったのかもな。
「……ん? じゃあルーシー、お前は一体何なんだ? ただのアクセサリーじゃないよな?」
『……それはまた別の時に話そう。ウチとエリィの壮絶な出会いをな』
ルーシーは話しを切り上げるかのようにエリオラの元に飛んで行った。
その二人の方を見ると、まだ釣り上げた魚の大きさで競っていた。
「来たのだわ! 来たのだわ! 五〇センチ級!」
「むっ。負けぬ……!」
いや、釣り素人で五〇センチ級はかなり凄いんだが……。
「まだやってるのね、あの子達は……」
「ミケは張り合わないのか?」
「何? 張り合って欲しいの? それなら私の一人勝ちね」
「何で?」
「まあ見てなさい」
ミケは自分の竿じゃなくて、俺の竿を見る。え、何?
「……来たっ」
「え? あ、引いてる」
「タナト、その釣り竿貸して!」
「お、おいっ?」
ミケは俺の釣り竿を握ると、まるで俺のように竿を操る。
ミケ、いつの間にこんなに上手く……。
「……今っ!」
思いっきり釣り竿を引く。と……お、おおっ!? これ、あの時と同じ一メートル級のブルーフィッシュじゃん!
「へへんっ、どんなもんよ」
「やるなミケ! 流石幼馴染み!」
「まあ、私が一番タナトを見て来たからね♪」
いやぁ、それにしても今のは本当に俺っぽかった! ただ隣で飯食ってるだけじゃなかったんだなぁ……感動したっ。
「ぐ……ぐぬぬ……仕方ない、お兄ちゃんの童貞はミケちゃんのものなのだわ……」
「悔しいが認めざるを得ない……」
「えっ、いや、私はそんなつもりじゃ……」
……おいミケ、頬を赤らめてチラチラこっちを見るんじゃない。
「えっと……その……こ、今夜、とか……?」
「落ち着けバカタレ! これあれだから、二人の悪ふざけだからな!?」
「「ふざけてないよ?」」
ふざけとけよ!
「そっ、そうよねっ。ダメよ二人共、悪ノリが過ぎるわっ」
「ミケちゃんがいらないのなら、私が貰うのだわっ」
と、イライザが急に俺の胸に飛び込んで来た。
「い、イライザちゃんっ!?」
「イライザ、正妻は私……!」
「妾でもいいけど、お兄ちゃんの子を一番に孕むのは私なのだわっ」
ちょっ、俺に抱きつきながらそれを言うなっ……!
「むふぅー。お兄ちゃんっ」
「な……何だよ……?」
「大好きなのだわ♡」
──第二章 完──




