第19話 ……殺させやしない
……こんなの、もうどうしようもないじゃないか……何だよこの大災害は……。
アクアキアから泣き叫ぶ声が、逃げ惑う声が、痛みを訴える声が聞こえる。
美しかった景観が、全て竜巻に砕かれる。
何で……何で平然とこんなことが出来る……? あそこには、まだ数万人もの人達がいるんだぞ……!?
「……っ! ロゥリエ、このまま潰されたくなければ、今すぐアレを止めるのだわ!」
「くひひひひひひっ! 無理無理! アレは一度発動したら、もう私の力でも止められませんわァ。私を殺しても止まらない。それが私の作り出した永久機関魔法! くひっ、くひひひひひひっ!」
……マジかよ……こんなの、どうすれば……。
「ふひゃひゃひゃひゃ! まだまだ終わらないですわよォォォオオオ!」
ロゥリエの目に、再び魔法陣が浮かび上がる。
今度は竜巻ではなく、至る所で爆発が発生した。
爆発により燃え盛る街。その炎を飲み込んで、竜巻は火災旋風となって街を灰にしていく。
「あひゃひゃひゃひゃ! 破壊! 破滅! 滅亡! 荒廃! 灰燼! 潰滅ですわァァァァァアアアアアア♡♡♡」
この……異常者が……!
どうしようもない超暴力の前に立ち竦んでいる俺達。
だが。
「ロゥリエ……聞きたいけど、止められない魔法を作ったくらいで私を超えられると思った?」
……エリオラ……?
「アァン? そんなの当然ですわ。私の魔法は絶対。数千年も封印されていたあなたみたいな老害に、止められるわけないじゃないですの!」
「……そう……おめでたい頭ね」
エリオラが、竜巻へ向けて手を伸ばす。
そして。
「消去」
フッ──。
……え……あの大災害が、跡形もなく……消えた……?
「……え……あ……え……?」
困惑しているロゥリエ。エリオラは、そんなロゥリエを無機質な目で見つめた。
「どんな魔法だろうと、発動後の消去は基本技能。……こんなことも出来ないで、イキがってたの?」
「いや、こんなこと出来るのお姉ちゃんぐらいなのだわ」
あのイライザも、全力で首を横に振っている。やっぱりエリオラはヤバい。改めてそう思った。
「……で、でもっ、もうアクアキアの大半は破壊し尽くしましたわっ。魔法を消されようと、その事実だけは変えられませんわよ……!」
「確かに、もうアクアキアは見る影もない」
エリオラは、儚くも崩れ去り、今だに火が燻っているアクアキアを振り返る。
確かに……あんなに綺麗だったアクアキアが、今はただの瓦礫の山だ……。
「それなら、無かったことにすればいい」
……え?
エリオラはアクアキアに向けて手を伸ばし……指を弾く。
次の瞬間──瓦礫の山となっていたアクアキアが、全て元に戻っていた。
「《再構築》」
建物も、星天アクアリウムも、アクアグランデも、空中水路も……何もかも、破壊される前のアクアキアそのものだ。
「「「「…………」」」」
俺、唖然。ミケもイライザもロゥリエも、口を開けてそれを見つめていた。
…………。
「……エリオラ、お前何をしたんだ……?」
「人も含めて、五分前のアクアキアを再構築した」
……再構築?
『エリィ、それでは伝わらんぞ……』
「むぅ……説明ムズい……」
『……まあよい、ウチが説明しよう。この魔法はエリィの作り出した一〇八の魔法の一つ。簡単に言えば、この世界の時間軸を五分だけ遡り、まだ破壊されていないアクアキアの魔力情報、元素情報、人体情報などをコピー。それを破壊された現在のアクアキアに上書きすることで、再構築したのじゃ』
…………。
うん、分からん!
「ミケ、分かった?」
「さあ……? 魔法は専門外だから、さっぱり……」
だよなぁ。
だがイライザとロゥリエは今の話が分かったらしく、開いた口が塞がらないようで。
「ま、待ってお姉ちゃん……それってまさか、現実を書き換えたの!?」
「その通り。やっぱりイライザは優秀」
「……こんなのを見せられてから褒められても、嬉しくないのだわ……」
「いつかイライザも出来るようになる。私の妹だから」
「期待が重い……」
「?」
……まあ何にせよ、崩壊したアクアキアは元に戻ったってことでいい……んだよな?
「これが、エリオラの言ってた最終手段か?」
「ん。私がいる限り死人も蘇る。……殺させやしない」
やだ何この子イケメン!
エリオラのイケメンっぷりに感動していると、ロゥリエが目を釣りあげてエリオラを睨み付ける。
「そ、そんな……そんなデタラメな魔法があってたまるか!? 全てを無かったことに!? ふざっけんな……ふざけんじゃないですわよォォォオオオ!」
「目の前で実演した、これが現実。……目を凝らして、もっと魔法の真髄を見つめなさい」
「うるせぇですわ! なら、もう一度トラップを……!」
ロゥリエの目に魔法陣が浮かび上がる。が……何も起こらない。
「何で!? 何で発動しないんですの!?」
「無駄。アクアキアを再構築する際に、異分子を排除した。あなたのトラップは全て無効化済み」
「…………」
……これは、終わった……か?
ロゥリエの魔力はこの鎖で封じられてるし、トラップも全部使えない。ロゥリエ自身も鎖で簀巻きにされている。
終わってみれば、エリオラが圧倒的だったな……。
「……嘘……嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘……私の費やしてきた時間が……!?」
「嘘じゃない」
「……しょんな……ふ、ふえ……ふえええぇぇ〜……うぅ〜……!」
……おい、こいつ泣き出したぞ。
「なあ、もういいんじゃないか? なんか可哀想になってきたぞ……」
「泣き虫ロゥリエと言えば、魔族の間では有名。自分に不利なことがあると簡単に泣く。情に絆されちゃダメ。……ロゥリエのおっぱいに未練があるなら、後で私のを揉ませてあげる」
「ちゃうわい!」
確かにこんな立派なものはそうそうお目に掛かれないけどねっ。
エリオラはロゥリエの前に立つと、その両頬に手を添える。
まるで、死を与える天使のように……。
「あなたは危険。今後二度と転生出来ないように、魂を破壊する」
「ヒイッ!? ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ! ヤダッ、それはやだあぁ! そっ、そうですのっ! 私達の目的を教えますわ! 構成人数とアジトの場所も教えます! ですから……!」
「そんなものはいらない。私がこの世にいる限り、悪意は全て排除する。……イライザの作った平和を壊したいのなら、まずは私が相手になるよ」
ロゥリエの頬を包んでいる手が淡く光る。
「深淵に眠りなさい。──《崩魂》」
「アガッ……!?」
白目を剥き、硬直するロゥリエ。
次の瞬間には顔にヒビが入っていき……まるでガラス細工のように、粉々に崩れ去った。
「おやすみ、ロゥリエ。そしてさようなら」




