第12話 私、釣りがしたいんですの!
エリオラを起こして水域から白部屋に戻ると、レニーに餌をあげていたミケが俺達に気付いた。
「タナト、また釣りしてたの?」
「ああ。一日一時間以上釣りをしないと生きていけない体になってるからな」
「……あんた、それもう病気よ?」
何を言う。健全な趣味じゃないか。
また釣り上げた装備の仕分けをルーシーに頼み、レニーの頭を撫でる。
「ああそうだ。ミケ、今日の予定は決まってるのか?」
「今日は何も決めてないわ。星天アクアリウムとアクアグランデは行ったし、今日一日は自由行動。ゆっくり休んでもいいし、行きたい場所に行ってもいいわよ。二日後か三日後にはアクアキアを出発予定だから」
なんと、自由行動か。
なら、向かうべき場所は一つ。
「じゃあ、俺は出掛けてくる」
「釣り堀でしょ? 行ってらっしゃい」
「……ミケ、お前は予言者か……?」
「何年あんたのこと見てきたと思ってるのよ……」
違いない。
「ミケの言う通り、俺はこれから釣り堀に行く。ミケは?」
「私は今日はのんびりしてるわ。最近働き詰めだったから」
……そういや、ミケはエリオラとイライザの護衛でここにいるんだったな。確かに働き詰めだ。
「エリオラは?」
「ん……ついて、く……しゅぴぃ……」
……こいつ、立ったまま寝だしたぞ……。
まあ無理もないか。こっちに来てずっと遊んでたし、昨日なんて布団で寝てないもんな。
しゃーない……。
エリオラを起こさないようにお姫様抱っこし、エリオラのベッドに寝かせた。
「じゃあミケ、ここは頼んだぞ」
「分かったわ。気を付けて行ってくるのよ?」
「ああ」
流石に一般の釣り堀に神器を持っていくのは気が引けるから、マイ釣り竿持って行こう。マイ釣り竿で釣りするの久々だな。
準備を済ませた俺は、《虚空の生け簀》からアクアキアの郊外へと出た。
アクアキアの釣り堀の場所は全部把握済み。その中でもこの近くは、余り人もいないし静かに釣りが出来ることで、知られざる名所らしい。
「えっと……あ。あったあった」
釣り堀フレッシュフィッシュ。ちょっと寂れた見た目だが、こういう場所の方が俺は好きだ。
釣り堀のおばちゃんオーナーに金を渡して、正方形の桟橋へとやって来た。
お客は俺以外に四人。三人は中年のおじさんばかりだが、異様に目を引く人が一人。
若く、綺麗な女性が一人で釣りをしている。服装もラフな感じではなく、深窓の令嬢を思わせる白いワンピースだ。
鮮やかな翠色の髪に、タレ目が特徴的な若菜色の瞳。
ミケ、エリオラ、イライザと遜色がないほど整った容姿。胸元が大きく開いており、スイカと見間違う胸がなんとも……。
他の客もその女性に目が行き、集中出来てそうにない。
「ぬぬぬ……釣れぬですわ……!」
近くを通った時にちらっとバケツを見るが……どうやらボウズらしい。そんな難しい顔してちゃ魚も逃げるって。
……関わるのも面倒だし、離れた場所で釣りしよ。
おじさんズは女性に惹かれて近くで釣りをしてるし、反対側はガラ空きだ。アホだな、この人達も。
この釣り堀は投げ釣りは禁止だから、隅っこの方に座って釣り糸を垂らす。
ふむ……へぇ、結構魚がいるんだな。人もいないから、釣り放題じゃないか。
「よっ」
はい、一匹目。
「んっ、ほっ、はっ、よっと」
二、三、四、五……うんうん。いい感じだぞ。魚の状態もいいし、こりゃあ大漁に釣りまくれるぜ。
「……凄い……凄いですわ!」
「え?」
見ると、女性が自分の釣り竿や餌を持って、足早に俺に近付いてきた。
な、何? 何だ?
「もし、よろしいですか!?」
「は、はぁ……?」
女性は俺の隣に座ると、キラキラ眩しい目で俺の手を握ってきた。
「私に釣りを教えて頂けないでしょうか!?」
「……は? 釣りを?」
何を言ってるんだこの人……?
「私、平和な今を少しでも楽しみたく、色々なことに挑戦していますの。でも釣りだけは上手くいかず……ですが今の釣り捌きを見て、確信致しました! あなた様は名人! いえ達人級ですと! お願い致します。私、釣りがしたいんですの!」
「近い近い近い近いっ……!」
ぐ、グイグイ来るなこの人!
「釣りなら、あっちの人達に教えてもらえばいいだろっ」
「あの人達はダメです。私をイヤらしい目で見て来ますので」
「「「「ギクッ」」」」
おい、今あのおっさん達ギクッつったぞ。
「ねっ、お願い致しますわ! 平和を楽しむのは今だけなのですわ!」
ゾワッ──。
……な、何だよ……この人の目……?
真っ直ぐ俺を見ているようで、どこか別の場所を見てるような……不安と不満を掻き立てる、破滅的な目。
こんなに優しそうで平和を唄う人なのに……何で、こんな目が出来るんだ……?
「わ、分かった、分かったから離れろっ」
「本当ですの!? やったーですわー!」
俺から離れて嬉しそうに跳ねる女性。
何なんだよ、この人は……。
「えっと……自己紹介でもしようか。俺はタナト。職業釣り人だ」
「あっ、そうですわねっ」
女性はワンピースの裾を持ち上げ、優雅にお辞儀をする。
「お初にお目にかかります。私はロゥリエ。ロゥリエ・ウンターガング。よろしくお願い致しますわ、タナト様」
にこりと笑うロゥリエさん。
だが俺は、その笑顔にも……得も言えぬ漠然とした恐怖を感じていた。
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