第10話 病気なのだわ……!?
◆◆◆
お姉ちゃんとお兄ちゃんが、ジェットウォーターコースターに抱き合って乗ってる……。
幸せそうに微笑むお姉ちゃん。
スピードの恐怖で歪みながらも、恥ずかしそうな顔をするお兄ちゃん。
それを見た時、私は……。
お姉ちゃんに、嫉妬した。
私はお姉ちゃんが好きだ。
だからこの状況では、お姉ちゃんと抱き合ってるお兄ちゃんに嫉妬すると思ってた。実際、今もそう思ってる。
それでも、私は……あの二人を見て、お姉ちゃんに嫉妬した。
その気持ちは分からない。
なんで、お兄ちゃんじゃなくてお姉ちゃんなのか……。
そんなモヤモヤした感情を抱いてると、二人がジェットウォーターコースターから降りて来た。
「なるほど、正面前座位も中々素晴らしい」
「くっ……エリオラちゃん、やるわね……!」
「ふふん。正妻は全てに勝る」
……まだだ。まだ私は、お姉ちゃんに嫉妬してる。
この気持ちの正体は……分からない。
「……あっ。イーラたん、次私と乗るんでしょ? 行こ?」
「ぁ……えと……」
乗りたい……お姉ちゃんと乗りたい……。
でも……。
私は自分の意思に反して、お兄ちゃんに近付くと、服を摘んだ。
「……お、お兄ちゃんっ、一緒に乗って欲しいのだわ!」
この気持ちの正体は分からないけど、お兄ちゃんと一緒に乗ったら分かるかもしれない。
そんな漠然とした気持ちで、私はお兄ちゃんの腕に抱きついて引っ張っていった。
◆◆◆
「…………」
「違うんです……ホント、違うんです……」
そんな死んだ魚のような目で見ないで下さい、マジで……。
イライザが緊張したようにチケットをスタッフに渡す。
「……カップルシート……」
いや、ほんと、違う。違うの……本当はエリオラが一緒にこの子と乗る予定だったの。
それなのに、なんで俺、イライザと一緒に乗ることになってるの……?
しかも三回目……もうかなりキツイんだけど……。
「さ、さあお兄ちゃん、乗るのだわっ」
「……おぅ……」
はは……もういいさ、なるようになれだ。
カップルシートに乗り込む。今はこの感覚すら憎らしい。
後からイライザが乗り込んでくると、膝を抱えて俺の膝の上に座ってきた。
「……あの、座りづらくない? ほら、股の間の方が……」
「……ここでいいのだわ。さあ」
「え、いや、さあって……」
エリオラより少し大きいが、俺より全然小さいイライザが、俺に寄りかかる。
「ちゃっちゃと抱き締めてくださーい」
わーっとるわい! 黙っとれスタッフ!
あーもう、仕方ない……!
イライザに腕を回して、しっかりと抱き締める。
「っ…………」
「苦しくないか?」
「……ええ。大丈夫……大丈夫なのだわ……」
……? さっきからこいつ、どうしたんだ?
「緊張してるか? 怖かったら言えよ」
「……ん……」
……やっぱり怪しいな。一回降りた方が──。
「はいっ、それでは空の旅、スタートです。行ってらっしゃーい」
あっ、ちょっ……!
くそっ、もう出発しやがった!?
「だ、大丈夫だ、イライザ。俺はこれには何回も乗ってる。安心しろ」
「……ん……」
こくり、と小さく頷くイライザ。
そうだ、これに関しては俺が先輩だ。だから大丈夫、大丈夫、だい……。
「やっぱ大丈夫じゃなあああああああああああああ!?」
ふ、ふ、振り回されるるるるるるぅ!
離れないように、ぎゅっとイライザを抱き締める。
「イライザぁ! 大丈夫かイライザぁ!」
「だ、大丈夫なのだわっ。だから落ち着い──」
「俺が死んでもっ、お前だけは守ってやるからなあああああああああああ!」
「────ぇ……」
あっ! でも俺よりイライザの方が強いじゃん!? でももう頭回らなああああああああああああぁぁぁ!!!!
「うおおおおおおおあああああああああ!?!?!?」
◆◆◆
「…………」
も……無理……ぽ……。
「タナト、お疲れ様。よく三回乗って吐かなかったわね」
「は……は……俺も……やれば、出来る男よ……」
あ、やばっ、吐きそ……。
「タナト、今は回復させる。《キュア》」
……お、おお……? す、すげぇっ! 気持ち悪さどころか、疲労までぶっ飛んだんだけど!
回復魔法ってやつか。本当、魔法って便利だな……。
「タナト、回復した?」
「ああ、ありがとうエリオラ」
ふぅ……やっと、落ち着けるな……。
「……ん? イーラ、そんな離れた場所にいてどうしたんだよ?」
声を掛けると、イライザは一瞬で顔を赤くして大仰に首を横に振った。
「な、何でもないのだわっ。私、飲み物買ってくるのだわー!」
「あっ、待ってイーラちゃん! タナト、エリオラちゃん、ここにいてねっ」
……何だったんだ、あいつ?
首を傾げていると、エリオラが俺の隣に座った。
「なあ、エリオラ。イーラのあの変わりよう、分かるか?」
「……分かる。と思う……」
……と思う? 随分と曖昧な答えだな……。
『タナトよ、少し、あの子のことは待っていて欲しい。あの子は今不安定。……危ういのじゃ』
不安定。危うい。
それがどんな意味を持つのか、分からない。
だけど、あのルーシーが言うなら……少し、様子を見るか。
◆◆◆
「ま、待って、待ってよイーラちゃんっ。どこまで行くのよ!」
いきなりタナトと乗りたいって言い出したし、乗ったあとは元気ないし……まさかタナトが何かやったのかしら?
て言うかこの子、めちゃくちゃ速いわね……! 私でもついて行くのに精一杯……!
「まっ、ちっ、なっ、さーーーい!!!!」
「っ!」
あっ、ようやく止まった……。
「ぜぇっ、はぁっ、ぜぇっ……ど、どうしたのよイーラちゃん……」
「……ねえ、ミケちゃん」
「ん? どうし……」
振り返ったイライザちゃんの顔を見て、私は絶句した。
涙目になり、目尻を下げ、口はあわあわし、顔どころか耳や首まで真っ赤なイライザちゃん。
こ、これは……。
「……何なの、これ……」
「……え……?」
イライザちゃんは、自分の胸に手を当てる。
「感情のコントロールが出来ない……心臓の鼓動をコントロール出来ないのだわ……」
「え、えぇ……?」
ま、まさか……。
「わ、わた、私……病気なのだわ……!?」
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