第4話 落ち込まないで?
あれから浮遊馬車に揺られに揺られ、のんびりと旅を楽しむこと一週間。
「三人共ー、見えて来たわよー」
お? もう着いたのか?
釣りを中断して、三人で御者席から覗き込む。
「お……おおっ! すっげぇ……!」
俺達のいる、小高い丘の上から見える巨大都市。
都市のあらゆる場所に水路が張り巡らされ、それに加えて上から下に流れる滝は勿論、下から上に登る滝まである。どういった原理なんだ、あれは……。
これが、水の都アクアキア……確かにみんなが勧めるだけあって、綺麗な都市だ。
「おぉ……エモーショナル……!」
「千年前からほとんど変わらないのだわ!」
エリオラは目を輝かせ、イライザも満足そうに笑っている。よかった、二人も楽しそうだ。
「あ、そうだ。レニーはどうしようかしら? 一応陸路もあるけど、アクアキアは水路移動がメインなんだけど……」
「なら、生け簀の中に入っててもらえばいいんじゃないか? この中なら、どこでも一緒にいられるぞ」
「なら、お願いしていいかしら」
「おう」
流石にレニーだけ仲間外れってのも可哀想だしな。
そのまま進んでいくこと暫し。俺達は観光用入り口の少し手前で馬車を降りると、レニーと浮遊馬車を《虚空の生け簀》の中に入れた。
「あ、そういや、イライザの身分証はどうなるんだ? エリオラは村にいた時に作ったが、イライザは作れてないぞ?」
「安心して。騎士団長から、イライザちゃん用の身分証を預かってるわ。当然偽名で、名前はイーラよ」
ミケが鞄から、一枚の金属プレートを取り出した。これだこの国で身分を証明するものになり、王国の中の都市であれば、これがあればどこでも行ける便利なものだ。
「えー。私、イライザって名前気に入ってるのに……」
「イーラってら名前も可愛いと思うが……な、エリオラ」
「イラたん、かわゆす」
「よく聞くと可愛い名前ね! 気に入ったわ!」
ここ数日で、イライザの扱い方が分かってきたぞ。まあ、ほぼエリオラから褒めたら、何でも言うこと聞くんだけどな。
門番に身分証を見せ、全員無事に門の中へ入る。
門の先に現れたのは、ありえないくらい繊細で緻密に彫られている、美しいアーチだった。
「おぉっ……何だこれ……」
「イラたんの魔力で彫られた形跡がある。前科のある犯罪者を入れない魔法陣」
なるほど。人の確認と魔法の確認で、犯罪者を入れないようにしてるのか。セキュリティ面は万全だな……。
魔法陣の刻まれているアーチを五つ潜る。と……。
「う……わ……! なんっっっじゃこりゃ……!」
水の管が……空中に浮かんでる!?
「どう、どう? これが私の開発した、空中水路よ! 反重力魔法と空間固定魔法を使って空中に浮かばせて、永久持続魔法陣を動力にして水の流れを作って──中略──更に浄化魔法で──中略──雨が降っても大丈夫なように──中略──中略──っていう、素晴らしいものよ!」
「イラたん凄い。天才……!」
『発想力は見習うべきものがあるのじゃ……!』
魔法談議はエリオラに任せるとして……こりゃとんでもないな……。
背の低い建物より高層の建物の方が多く、空中水路を使えば上の方にも簡単に行けそうだ。
「じゃ、三人共。まずはどこ行きましょうか?」
ミケが、鞄からアクアキアの地図を取り出す。
「星天アクアリウムなのだわ!」
「美味しいご飯……!」
「釣り堀」
「見事にバラバラ!?」
水の都アクアキアに来たんだ。釣り堀の一つや二つあってもおかしくはないだろ。
「じゃ、じゃあまずはご飯に行きましょうか。もうお昼時だし。その後、星天アクアリウムね」
「楽しみっ」
「楽しみ!」
「おい、釣り堀は?」
「行かない」
そんな……!?
俺はこれから、何を楽しみにしていればいいんだ……。
「タナト、落ち込まないで? おっぱい揉む? 子作りする?」
「エリオラちゃん、公共の場で脱ごうとしないで!」
「お姉ちゃんが犠牲になることはないわ! 私に任せて!」
「イーラちゃんもやめなさい!」
しょぼんぬ。
◆◆◆
俺達は門の近くにあったウォーターホース貸出所で、一匹のウォーターホースと中型の船を借りた。
陸路でも問題ないが、どうせなら空中水路も試してみたかったからな。金も、請求すれば教団が払ってくれるし。
ミケが御者席に座り、慣れた手つきでウォーターホースを操る。何度かアクアキアに来た時に、練習したそうだ。流石の腕前だな。
「アクアキアはレストランも綺麗だけど、やっぱり食べ歩きがメインよ。空中で景色を眺めながらご飯を食べる。最高の贅沢よね」
「確かにな……水もありえないくらい透き通ってるし、本当に飛んでるみたいだ」
船から手を水につける。ひんやりとして気持ちいいし、透明度が高すぎて地上がよく見える。ちょっと怖いが、エリオラとイライザは楽しそうに水遊びをしていた。
「アクアキアは、食い物だと何が有名なんだ?」
「色々あるけど、私が食べた中でオススメは水水ミートや、ジュエルかき氷、イーラちゃんを模したイライザパンっていうのもあるわ」
イライザパン? そんなものまで作られてるのか……。
「タナト。イライザパン食べたい」
「私も食べたいわ! 私の許しもなく私の名前を使うってことは、相当の自信を伺えるもの。私が評価してあげないとっ」
二人も食べる気満々だし……それでいいか。
「ミケ、イライザパンの売ってる店まで頼む」
「オーケー」
ミケがウォーターホースを操って空中水路を走ると、直ぐに芳ばしい匂いが鼻をくすぐった。
どうやら空中水路に面してる店みたいで、降りなくても直ぐに買える店らしい。
「よっと、おじさーん」
「お? おお、ミケちゃん。今日は仕事かい?」
「そんな感じよ。イライザパン四つに、あと全部一種類ずつちょうだい」
「はいよ、待ってな!」
ははん。さてはこいつ、常連だな。
「ぜ、全部頼んだのっ? 大丈夫? 食べられる?」
「安心しろイーラ。ミケの腹はブラックホールだ」
「……凄いのだわ……」
ミケが特殊なんだ。良い子は真似しないように。
しばらく待ってると、イライザパンの入った紙袋が四つと、十数個の長方形の箱が来た。こう見ると、やっぱすげー量を食うな、こいつは。
紙袋を開けて、イライザパンを取り出す。
鮮やかな紫色の生地と白色の記事が螺旋状になっている、細長いパンだ。中にはイライザのイメージカラーである、紫色のクリームがぎっしり詰まっていて、かなりの重みがある。
「いただきまーす。はむっ。んーっ、おいひいわ!」
ミケが美味そうに食うのを見て、俺達もイライザパンに齧り付いた。
「おっ……! これマジで美味いな……!」
この紫色のクリーム、毒々しい見た目だがまろやかでしっかりとした甘みがある。それに意外と後味が残らないから、スッキリと食べられるな。
「あむあむ。イラたんパンうまうま♪」
「……お姉ちゃんに食べられてる……私の棒が……うへへへへへ……」
棒言うな、頭のおかしい魔女っ子め。
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