第28話 魔法の真髄を
「イライザ……」
エリオラが、呆けた顔でイライザへ手を伸ばす。
『あ、因みにこれは映像魔石って言って、簡単に言えば魔力によって時間の場面を切り取って──中略──それで魔石の元素一つ一つに貼り付けることで──中略──今は神王暦一〇五六年だから、お姉ちゃんのいる時間軸とは違くて──中略──中略──中略──。つまり、世界でたった一つ、これだけしかないものなの! 私が作ったのよ! どう、凄い? 凄い!?』
…………まっっっったく、分からん……。
「……ミレイ、分かります?」
「……いいえ……」
「私もちんぷんかんぷんだぞ」
「レヴァイナスには期待してません」
「酷い……」
ハレイ、意外と辛辣……。
「ほほぅ。なるほど……」
『流石エリィの妹。天才は受け継がれておるのじゃ』
唯一話についていけたらしいエリオラとルーシーは、深々と頷いている。やっぱり、こいつらも凄いんだな。
『あ……話が逸れたわね。こほん。お姉ちゃん、まずは復活おめでとう。戻って来てくれて嬉しいわ』
「……うん、ありがとう」
イライザの言葉に、エリオラは返事をする。
『お姉ちゃんのことだから、もしかしたら自力で復活したのかもしれない。でも、もしかしたら、誰かがお姉ちゃんを復活させてくれたのかもしれない。後者だった場合、お姉ちゃんを復活させてくれた少年、もしくは少女。お礼を言うわ、ありがとうね』
イライザの微笑みが、まるで俺に向けられたみたいで……ちょっと、気恥しいな。
それを察知したのか、エリオラが俺の手を握って来た。こ、これはこれで、恥ずかしい……。
『ねぇ、お姉ちゃんっ。もう私の作った世界は見てくれた?』
急に満面の笑みになったイライザは、まるで褒められたい子供のように身を乗り出して話しを進める。
『まだ見てないなら、是非見て欲しいわ! 私が、私達が作った、平和で素晴らしい世界を! ふわふわ飴は食べた? 浮遊馬車には乗ったかしら? 全部、私の発明よ!』
「……うん、うん」
興奮するイライザに対して、エリオラは優しい微笑みを見せる。
褒めて欲しい妹と、それを見守る姉。
生きてる時代は違えど、その絆は確かなものを感じるな。
だが、それも束の間、イライザの顔が陰る。
『……でも、本当は……本当はね、お姉ちゃん。私がお姉ちゃんを復活させたかった……一緒に、私の作った世界を見て回りたかった。凄いねって、抱き締めて、なでなでして、褒めて欲しかった……』
「……イライザ……」
イライザの目に涙が浮かぶ。
流れそうな涙を拭き、悲しそうな、辛そうな笑みを作る。
『ねぇ、お姉ちゃん。何で私が、混沌と破壊勢から、融和勢になったか……分かる?』
「……分からない。何で?」
『それはね……お姉ちゃんのせいよ』
……エリオラの、せい?
首を傾げる俺達を置き去りに、イライザはぽつぽつと話す。
『……お姉ちゃんが封印された時、やった、これで邪魔されずに混沌と破壊を撒き散らせるって思ったわ。世界を壊して、混沌の渦に巻き込んだ後……お姉ちゃんが復活した時、どんな顔をするだろうってワクワクしたの』
…………。
『でもね、いつも思い浮かぶのは……しょうがないなって悲しそうに笑う、お姉ちゃんの姿だった』
「…………うん。多分、そうだと思う」
エリオラはそうなった時のことを考えたのか、握ってる俺の手に少し力を入れた。
『毎晩、毎晩、そんなお姉ちゃんの夢を見た。──それで、思ったの。私は、お姉ちゃんのそんな顔を見たいんじゃないんだって。お姉ちゃんには、いつも笑顔でいて欲しいんだって』
「……イライザ……」
『……だから、私やったわ。今まで誰にもなしえなかった、人間との融和を。……っ……これで私、お姉ちゃんに並べた、かな……? ……ひっく……肩を並べて、お姉ちゃんの妹ですって、自信持って言っていい、かな……?』
イライザの綺麗な瞳から、涙が、零れる。
『……ごめんね……ごめんなさい、お姉ちゃん。今までお姉ちゃんを倒そうと、超えようと、無茶ばかりして来たけど……本当は私、お姉ちゃんと仲良くしたかった……一緒に遊んで、一緒に笑って、一緒に夢を追いたかった……! それに今まで気付かなかったなんて……私、本当に馬鹿……!』
感情の制御が効かなくなったのか、イライザの本音が……本心が、止まらない。
そんなイライザを、エリオラは感情の読めない表情で見ている。
『でも……もう、遅いよね……お姉ちゃんの封印を解く方法は分からないし、私の寿命も残り僅か……でも、これを見た未来のお姉ちゃんが元気でいてくれるなら……私はそれで十分』
「…………」
「……エリオラ?」
エリオラは俺の手を離すと、俺達から少し離れた場所へ移動した。
「ルーシー、手伝って」
『うむ。任せろ』
エリオラ……何を……?
両手を前に出し、目を閉じるエリオラ。
瞬間、その体から、高密度の何かが噴き出した。
「なっ……!? と、とんでもない魔力です……!」
「これ程の魔力を隠し持っていたとは……!」
ハレイとレヴァイナスの顔が青ざめ、ミレイは泡を噴いて気絶した。
俺が気絶しないでいられるのは、多分魔力に鈍感なのと、【釣り】スキルがマックスのおかげだ。
じゃないと、こんな圧に耐えられるわけがない。
『この場にいる諸君に聞く。魔法とはなんぞや?』
ルーシーの声が、異様に大きく聞こえる。
その問いに、ハレイが答えた。
「そ、それは、超常の力です。何もないところから火を熾し、石を作り出し……」
『間違ってはおらん。じゃが、本当の魔法とはそんなものではない。今こそ見せよう。“天”の異名を授かった、エリオラの真の力を。──魔法の真髄を』
魔力が形作り、大小様々な魔法陣がエリオラを中心に描かれる。
「何ですか、この魔法陣は……!? こんなの、見たことありません……!」
「お、おい、あれを見ろ……!」
レヴァイナスが、映像を指さす。
『え……何、何、これ?』
映像の中のイライザが慌てふためく。その足元には、エリオラと同じ魔法陣が浮かび上がっていた。
エリオラ、何をするつもりなんだ……?
魔法陣が部屋いっぱいに広がり、壁、天井に展開される。
そして、エリオラはゆっくりと口を開き。
「《時間遡行》」
魔法が、発動した。
部屋を覆う一瞬の淡い光り。
その光りが徐々に集まり、形作り。
次の瞬間。
目の前に──半透明の、イライザが現れた。
「……ぇ……おね、ちゃ……?」
「成功。ぶい」
…………。
……は……。
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