第16話 買って買って買って買ってーーー!
翌日。朝食を済ませた俺達は、並んで王都メラプレスの中央通りを歩いていた。
観光地でもある中央通りは、俺達の他にも他方から観光に来てると思われる人達が沢山いる。ここだけで、村の人口の数十倍の人間がいそうだ。
「人、いっぱい……!」
『人間もだが、魔族も混じっているのじゃ! すごい光景じゃのぉ……!』
俺の手を握り、あっちをキョロキョロ、こっちをキョロキョロとするエリオラとルーシー。はしゃいでるなぁ。
「じゃ、服を買いに行くか。気に入ったものがあったら、何でも買ってやるよ」
「流石タナトっ。太っ腹」
はっはっは、褒め讃えよ。
「行こうか」
「うい」
俺からはぐれないよう、手を握って腕に抱きついてくるエリオラ。
ふにっと、むにゅっと……いや、そんなに抱きついてもらえると、男冥利に尽きるんだが……。
「あの、エリオラさん? ちょっと近くないです?」
「問題ない」
「いや、そうじゃなくて、その……立派なお胸が当たってますよ?」
「問題ない」
問題あるわ! 主に俺の精神衛生上!
自分の体の発育具合を認識させようと口を開こうとすると、エリオラは上目遣いで微笑んできた。
「タナトなら、問題ない。子作り、いつでもばっちこい」
「……公共の場でその発言はやめろ」
俺とお前の見た目年齢を考えろ。俺、捕まっちゃうよマジで。
……ちょっとドキッとしたのは内緒だ。
エリオラは腕に抱きついたまま離れない。……はぁ、仕方ない。このまま行くか。
諦めてそのまま、中央通りを歩く。
思いの外カップルが多く、同じように腕を組んでたり手を繋いでるカップルが多い。そのおかげで、俺達も目立たずに済んでいた。
中央通りに面している店で、メインとなっているのはやはり飲食店だ。
その他にも服屋、アクセサリーショップ、土産屋もあるが、雑貨店や武器屋も多数並んでいる。俺達の目的は服屋だが、ちょっと色んな場所に行ってみてもいいかもな。
「エリオラ、どこか気になる店はあるか?」
「ご飯」
「……太るぞ」
「うっ……なら、タナトに任せる。タナトが見たいもの、私も見たい」
ええ、そう言われるとな……。
「……なら、装備屋に寄ってもいいか?」
「装備? タナト、いっぱい持ってるよ?」
「いや、釣った装備の相場を知りたくてな。もしかしたら将来的に売るかもしれないし」
「なるほど。じゃあ行く」
エリオラと並んで、一番近くの装備屋に入っていった。
装備屋エミュールか。見た感じそれなりの品揃え。意外と俺達の他にも客がいるし、男女で来てる人もチラホラ見える。でも、観光客っぽいのに何で装備屋に……?
そんな疑問も、直ぐに晴れた。壁に貼ってあるチラシが原因か。
「今流行りのペアルック装備。カップルのお客様にオススメ、同じ装備で絆も深まります……んな馬鹿な」
今の世間ではこんなものが流行ってるのか……装備屋の商業戦略も、ここまで来たら見上げたもんだな。
「おぉ……! タナトっ」
「やらないぞ」
「ぶぅ……」
そんなむくれても、やらないもんはやらない。
店の中を見渡す。一階にはシリーズ装備が並んでいて、二階には単品装備が売られているみたいだ。俺の釣ったことのある装備も展示されている。
『お、タナトよ。流美シリーズじゃ。昔から女子に人気のシリーズじゃぞ』
「確か俺も、男女一式釣ったな。何セットあるっけ?」
『確か女が八つ、男が六つじゃ』
そんなにか。どれどれ?
「一、十、百、千、万……一〇〇万ゴールド!?」
っと、思わず大声出しちまった……。
俺達を見ている他のお客にお辞儀をして、再度流美シリーズを見る。
一〇〇万ゴールド……俺達が村のみんなから貰った金は、全部で七〇万ゴールド。これ一つでそれを超える額、だと……!?
これが俺の手元に十四個……全部売れたとして、一四〇〇万ゴールド……やべぇ、一気に宝の山に見えてきた。
俺の持ってる装備を全部売った額を想像していると、店の奥から金髪ポニーテールの女の店員さんが近付いてきた。
「まあまあお客様! こちらのシリーズに目を付けるなんて、何という審美眼! 何というセンスの塊! こちら、今この王都に二つとない一品でして、女性へのプレゼントにピッッッッッタリですよ! 勿論男性装備もあります! ただいまセール中でして、男女セットで買うとなんと一五〇万ゴールド! 安い! 我ながら安すぎる! これを逃すと手に入らないですよ!? どうです!? 因みに私ならこの値段なら間違いなく買いますよ!?」
お、おぅ……何か目を付けられた……。
「あー、いや、持ってるんで結構です」
「……は? 持ってる? ははっ、またまたご冗談を」
「いや、本当に」
「…………」
空気が、固まった。何この空気。
店員さんががっくしと肩を落とす。……何か、悪いことしたな……。
「…………ふひっ……」
…………え、ふひ?
「ふひ……ふひひひひ……」
え、何。何なの……?
「……ふひっ……この私に嘘が通じると思わないことですね……分かってるんです。この店のお客さんは、みんな同じことを言って帰っていくんです。私のお店は、珍しいものや高級品を取り扱ってるから値段が高くて、売れないのなんの……でもしょうがないじゃないですか。こっちだって色々なコネとか危険な仕事を請け負って必死にやってるんですよ。これでも頑張ってるんですよ……」
ぶつぶつぶつぶつ……えぇ……何この人怖い……。
「タナト、この人病気?」
「ある意味……」
これは、直ぐに店を出た方がいいな……。
「じゃ、じゃあこれで……」
「待っでええええええええ!!!!」
うおっ、号泣!? てか涙と鼻水を服にくっつけるな、汚ぇ!
「お願いよっ、買ってよ! 買ってくれないとマジでお店やっていけないの! このままじゃ飢え死にしちゃうの! あなたに人の心があるなら、せめて流美シリーズの一つや二つ買ってよぉ!」
「は、離せっ! 一〇〇万ゴールドもするもんをそんなホイホイ買えるかボケェ!」
「買って買って買って買ってーーー!」
客に装備を買ってもらうよう駄々をこねるって、どんな接客方法だ!?
強引に店員を引き剥がそうとする、が……こ、こいつ、パワー強い……!
「買ってくれるまで死んでも離さいないんだからぁ!」
「訴えるぞ!?」
どこに訴えればいいのこの人! 誰か教えて!
どうしたもんかとマジで悩んでいると、エリオラが店員の袖を引っ張った。
「ねぇ、高いから買ってくれないなら、安くすればいいんじゃないの?」
「ぐすっ……そ、それは考えましたよ。でも、希少なものだからそう簡単に安く出来ないの……」
「なるほど。タナト、耳貸して?」
今度は俺がエリオラに服を引っ張られ、エリオラに耳を貸す。
「ごにょごにょごにょ……」
「え……いや、いいのか、それ? 流石にまずいんじゃ……」
「問題ない」
……まあ、エリオラが言うなら、やってみる価値はあるか。
「なあ、あんた。えーっと……」
「エミュールです。エミュール・ハーフナー」
「エミュールだな。一ヶ月後にまた来る。買いはしないが、俺とあんたに利益のある話しを持ってくる。いいな?」
「えっ。はぁ……?」
「よし。じゃっ」
エリオラを脇に抱えてダッシュ!
「あ! ま、待て逃げるなーーー……!」
ダッシュ! ダッシュ! とにかく遠くまでダッシュ!
数分後、ようやくエミュールの店から離れたところに噴水広場を見つけ、そこのベンチに腰掛けた。
「ぜぇ、はぁ、ぜぇ……何なんだ、あいつ……」
「変な人」
『ウチも久々にあんな変な奴みたのじゃ』
あぁ……何か疲れた……。
「悪いエリオラ、ちょっと休憩してから、服屋に行こうな」
「異議なし」
エリオラも少し疲れたのか、俺の肩に頭を預けて目を閉じる。こんな姿も、絵になるな、こいつは……。
エミュール・ハーフナー……不思議な奴に出会ったな……。
読んでいただきありがとうございます。
ブクマ、評価のほどよろしくお願いします。




