第1話 釣りこそが最高のワークライフ
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「いやぁ〜、平和だぁ……」
今日も雲ひとつない快晴。こんな日はのんびり釣りを楽しむに限るねぇ。
「まあ、毎日釣りしてるわけなんだけど……ほっ」
おっ、レインボーフィッシュだ。これ焼き魚にすると美味いんだよなぁ。じゅる。
本日、通算五〇〇匹目の魚を釣り上げると、頭上に見慣れた文字が浮かび上がった。
──Skill Level UP! Lv.953→954──
「あー、はいはい。分かりましたよっと」
俺のスキルでレベルなんか上がっても、なんも意味ないからなぁ。無視無視。
この世界の子供達は、十歳の誕生日に神様からスキルを与えられる。身体強化系スキルを貰える子もいるし、補助系スキルを貰える子もいる。
だけど、俺が与えられたスキルは身体強化系スキルでも、補助系スキルでもない。一般的には使えないスキル……外れスキルと呼ばれるものだ。
その名も【釣り】。ただ、釣るのが物凄く上手くなる。それだけのスキルだ。
でも俺は、このスキルを気に入っている。物覚えがつく前から父さんに連れられて釣りをしてたから、むしろこのスキルで嬉しかった。
村の人達も、最初は俺のスキルを馬鹿にしていたが、今では俺の釣った魚で暮らしていけていると言っても過言ではない。それ程、俺の【釣り】スキルは重宝されている。
好きなことで生きていく、なんてカッコイイことは言わない。だけど、俺は今のままで十分幸せだ。
そうして十年間。二〇歳になった今では、俺のスキルレベルはご覧の通り。九五四まで上がっている。【釣り】スキルにレベルなんて関係あるのかは分からないけど、ここまでレベルが上がっても今で何もなかったんだから、多分何もないんだろう。ちょっと寂しいけど。
釣り糸を湖に垂らして、またのんびりとした時間を過ごす。この時間が結構好きなんだよな。時間がゆったり流れるというか……。
ふあぁ……ねむ。
「おーい! タナトー!」
「ん?」
この声、まさか。
「ミケ……ミケじゃないか!」
角の生えた馬でこっちに駆けてくる、鎧を身にまとった女性。三年前、王都の騎士になり、村を出て行った幼馴染、ミケだ。
ミケは相当嬉しいのか、満面の笑みで近寄ってきた。まるで猫の耳のような赤髪のツインテールに、くりっとした緋色の猫目。同じ村で生まれたとは思えないくらいの美人だが、この三年間で完全無欠の別嬪さんになっていた。
「タナト、久しぶり! ようやく休暇が取れて帰って来れたわ!」
「ああ、本当に久しぶりだな。レニー久しぶり。あんま変わってないみたいで安心したぞ」
騎士らしい精悍な顔付きだが、朗らかに笑う姿は昔と変わらない。この三年間の空白が一気に縮まるような、そんな感覚になった。
ユニコーンのレニーの頭を撫でると、嬉しそうに目を細めて擦り寄ってきた。こいつの感情表現も変わらないな。
「むぅ、変わってないは酷いんじゃない? これでも頑張ってるのよ」
「そうむくれるな。お前の可愛さには磨きが掛かってるぞ」
「かわ……! ちちち違うわよ! いや美容にも力は入れてるけど、騎士の仕事も頑張ってるんだからね!」
「分かってる分かってる」
ミケの噂はこの村にも届いてる。
【騎乗】のスキルを使いこなし、幻獣ユニコーンに跨って戦場を駆ける槍の名手。付いた異名が《騎乗戦姫》。まさか同い年の女の子が、こんな凄くなるなんてなぁ。
「よくここだって分かったな」
「どうせあんたのことだから、ここだって思ったのよ。あんた程の釣りバカ、この世界にいないものね」
当然だ。俺は釣りを愛し、釣りに生き、釣りに死ぬとか決めたんだ。釣り以外やる気も起きない。
「おぉ……やっぱり大量ねっ。これ朝から?」
「ああ。なんなら今食ってくか?」
「いいの!?」
目をランランと輝かせて、ヨダレを垂らすミケ。
昔から、ミケは魚が大好物だった。俺が釣った魚を嬉しそうに食べてたし、そこも変わらなくて安心した。
レインボーフィッシュを木の枝に突き刺し、焚き火の側で直焼きにする。これがたまらなく美味いんだよ。
「さーかなーさーかなー♪ ターナトーのさーかなー♪」
小さい頃からの癖なのか、こうして魚を焼いてるとミケは変な歌を歌う。それがまた可愛いんだが。
自分の分の魚を焼きながら、また一匹、二匹と釣り上げていく。レベルの低い頃は一匹釣るのに時間が掛かったが、スキルを使えば一分以内に釣り上げることが出来る。【釣り】スキル様様だ。
「おお、凄いわね。タナトのスキルレベルって、今どのくらいなの?」
「さっき九五四に上がったところだ」
「きゅ……!? はぁ、やっぱり凄いわね。釣れば釣るほどレベルが上がるって」
「レベルが上がったところでいいことはないが。……ああ、でも九〇〇を超えた辺りから、武器やらアイテムを釣れるようになったぞ。あそこに山積みになってるやつ」
俺の釣りポイントから僅かに離れた場所にある、錆びた装備や瓶に入った液体。それが山のように積み重なっていた。
「えっ、【釣り】スキルって、ああいうのまで釣れるの!?」
「ごく稀にな。何故かは分からんが、モンスターを倒した時に装備が落ちる場合があるだろ? それと同じだと思う。俺には必要ないから、あそこに放置してるけど」
「ちょ、ちょっと見ていい!?」
「ああ。もし欲しいのがあったら、好きなだけ持ってけ」
「やった!」
流石に騎士なだけあって、武器やアイテムには目がないみたいだ。おもちゃを与えられた子供みたいな目をしてたぞ。
「うーん、やっぱり錆びた装備の方が多いわね……あっ、これはまだ使えそう。こっちも使えるわね。……え……?」
「んー? どうした?」
何をそんな唖然としてるんだ、こいつは。
「こっ、ここここここここれは……!? 最上級装備、天龍の破槍……!? な、何でこんなものが……!?」
「珍しいものか?」
「珍しいも何も、討伐ランクSSSの超級の化け物、天龍から数万分の一の確率でしかドロップしない、まさしく最強の槍の一本よ! あっ、こっちは天龍の小手……これは天龍の兜!? 最上級装備が三つもあるなんて……!?」
へぇ、そんなものが釣れてたのか。知らなかった。
「綺麗な装備なら、別の山に分けてあるぞ。多分余りにも多くて、そっちに紛れただけだから」
「は!? まだあるの!?」
まだと言うか、ありすぎるくらいだ。
「こ、ここここの天龍の装備、一式ちょうだい! 一生かけてでもお金払うから!」
「金なんていらないよ。俺とお前の仲だろ? むしろその辺のやつ、いらなすぎるから持っていってくれ」
「あ、あんた! これが一体どれくらいの価値があると思ってるの!?」
「知らん。俺の釣りの時間以上に価値のあるものはない」
どんなにいい装備だとしても、俺は釣り以外には興味ないし。
「……ホント、あんたって釣り以外にまーーーーっっっったく興味無いわね……」
「ありがとう、最高の褒め言葉だ」
釣りこそが最高のワークライフと言っても過言じゃない。
お、釣竿が反応してる。どれ。
「よっと。んー、またガラクタか。いらんな」
ほい、ゴミ。
「炎獅子の宝玉をガラクタ扱いしてんじゃないわよーーーーーーーー!?」
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