セブンカラーの伝説
「ウィッグ」からの発想です
「よぉ、そこのカーボーイハットのキミとロングのデルモちゃん。俺たちとあそば。カラオケどーお?」
「はい?」
男子高生たちは、シカトされようがなんだろうが、5人で囲んで連れ去るつもりだった。楽しく遊べればいいのだ。この場合、楽しいのは自分ら。相手のことは片隅にもない。声をかけたカーボーイハットの少女は、意外だったが、後ろを向いた。
「え……?」
意外だったのはそれだけじゃない。顔立ちは非常に整っており、アニメフェイスというか、ちょっと現実離れした、2次元的な美しさを放っていた。だが、そんなことさえ、問題にならないチャームポイントがあった。
帽子に隠れ、後ろからじゃ分からなかったが、正対したショートカットの少女の髪の色は、単色ではなかった。
輝く真紅、目のくらむような黄金、深海に呑み込まれそうなブルー、幼女ほっこりなピンク、ブリザード凍てつきそうな白、そのすべてを捉え逃がさないブラック。ヘアーは、カラフルにも7種類だったのだ。ひとつひとつは、ありふれたヘアマニキュアが7だ。異色の雰囲気を醸し出していた。
「あ。え、せ、せ」
言葉に詰まる高校生たち。呼び止めたのはいいが、これは……。空気の凍る時間のなか、一人が恐怖の呼び声をあげる。
「セブンカラー!!!」
この街の人は噂する。七色髪の少女の少女は死神であると。関わった人間には、もれなく死がやってくるという。
「さーせんっ!!」
「殺されるぞ、逃げろ」
金曜日の昼間。人気のないアーケード街に悲鳴が響いた。バラバラな制服の高校生たちが、カバンを放り出し、大慌てで、這う這うの体で、逃げていく。
「あーあ。また、ふられちゃったわね菜七子」
「ったくね。誰がウワサ流したんだか。取って食いやしないっつーの」
「あの噂……。死神はないわよね。あの人たち、カバンは、どうするのかしらね。警察に届ける? それとも放置?」
路上には学生カバンやらスポーツバッグ点在していた。よほど慌てたのだろう。
「まさか。届けるよ、もちろん」
「そういうと思ったわ」
「強盗あつかいはたまんないし。悪い人に盗まれるのもかわいそ。手渡しでもってく」
「ええ手渡し? あっ。菜七子は、それ、できるんだったわね」
菜七子は言いながら、散乱するそれらの真ん中あたりに位置をとる。
荷物を拾うのかと思いきや。
「物は、どんなんでも持ち主を語れるから」
緩やかに吹いた風が菜七子をまとう。身体を青白い光が覆った。光は複数の細長い線の糸となり、互いに絡まり紡がれていった。たちまち一本の青いロープが出来上がる。意志を持つ触手となったロープが男たちの荷物に触れた。
荷物は一瞬、青い霧に包まれ、かと思うと、ぶるぶると震えた。そしてくるりと、宙で一回転するとちいさな手足が生え、顔ができていた。荷物たちは、めいめい勝手に動き始めた。ぐりぐり柔軟体操、あーあー発声練習、いまどき珍しい帯を巻いた柔道着は、肩こりをつるかのようにコキコキと頭部の関節?を鳴らしてる。
「あなたのその能力。はじめてみたときは驚いたわ。いま見ても信じられないけど」
感嘆する友人にシシシと微笑んだ菜七子は、しゃがんで、たったいま命を吹き込んだ荷物たちに声をかける。
「あんたたち。自分の住んでるとこわかる?」
『自分の住処くらいわからないでどうするよ。バカにしてんのか』
「ごめんごめん。なら私を家そこまで連れてって」
『いいぜ。ねーちゃんは命をくれた恩人だからな』
カバンは勝気に了承するが、柔道着が別のことを言い出す。
『ケンゴのヤツ、俺様をぶんなげやがった』
「たいへんだったねー。んじゃ、そのケンゴのとこに行こうか。ほかの君たちも順番に」
ガニマタ歩きで荷物たちがヨチヨチ集まってきた。日頃から、たまっていたのだろう。柔道着に同調するとそこから、うっぷんの言い合いが始まった。
『おまえも? おれんとこの雄太郎もやな奴だぜ。いつも地べたのケツに敷きやがるんだ。椅子じゃねーっての』
『あたしもあたしも。雨の日にね、傘の代りにされたんだ』
『おまえら、まだいいぞ。佐平治はな河原にいくとオレを投げるんだぜ。向こう岸まで届けーって。フリスビーじゃねーって』
会議は白熱する。虐げられてきた自分たちという共通認識。盛り上がるネタとしてはこれ以上のものはない。生まれたてとは思えない雄弁ぶりだ。
『あー……みんな主人にゃ、くろーさせらてんだな』
『はぁ――』
息をしない者たちだが、互いの主人運の悪さに、大きなため息をつく。
「私、家で映画みたいんだけど。帰っても?」
「菜七子がいないでどうするのよ。責任もって解決しなさいな」
菜七子もため息をつく。
朝、寝起きでチェックしたスマホの映画”イップマンが”が思いのほか面白く、続きを見るつもりでいたのだ。どこでも見られるが、自宅はギガを消費しないWi-Fiだし、なによりコンテンツに集中できる。自分が招いたこととは別の話だ。
「ほら行くよ。案内して」
なかなか終わりそうにないカバンたちを、つい急がせてしまった。
『よし行くか!』
『ねーちゃんありがとう!行くぜぃ! そして復讐だ!』
「そう復讐だ! って、え?」
聞き間違いと思ったが違った。菜七子の口から間抜けな声がもれる。動けるようになったカバンたちは、その命を意外な使い道見出す。激高のうなりがおこった。
『復讐だ!』
『俺たちは、俺たちの人権と尊厳を取り戻す』
『自由を勝ち取りましょう』
『たたかえーーー!』
『おおおおおお!!!!!!』
お礼参りに、盛り上がる。
「ちょっとまって、あんたたち」
行動をいさめようと、人ならば頭か肩にあたる部分をつかもうとしたが、かばんは素早くかわす。またかと空を仰いだのは友人。顔に手をやり、あきれてることを強調。
アーケードの人気の少ない道の真ん中を、ずんずんと、カバンの隊列が進軍する。徒党を組んだ小型の集団は速度をあげると、あっという間にみえなくなった。立ちすくむ少女たちをその場に残して。
その日の午後、大けがをした高校生らが、市内の数カ所で発見された。病院で治療を受けたのち、事件を捜査する警官が、現場に落ちていた荷物を、本人に返納。少年らは一様に悲鳴を上げげ逃げ、がたがた震えたのだという。
この街には21の都市伝説がある。その一つがセブンカラー。七色髪のJKから逃げた人間には、死にそうな目に遭遇するのだという。