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金髪ショートピアス3

「なるほどね」


 机を挟んではソファに座り、金髪の依頼人、汐見咲紀(しおみさき)を目の前にしては簡単な記入用紙から目線を上げる。


「職業は学生、今は休学中、年齢が空欄なのは意図してだろうけどもしかして未成年?」


「違う」


「隠す理由は?」


「お金なら払う。それでいいでしょ」


 今は……。

 小さかったがそう最後に聞こえた気がした。

 まぁ、何度も言うようだがエクソシストなる肩書きに頼らなければならない境遇にいる以上それ以上は聞いてくれるなという何かしらの傷をどこかに負っていたとしても何ら不思議ではない。

 しかし、自身はエクソシストであってカウンセラーでもなければ医者でもないのだ。

 聞かなければならない部分は聞かなければならず、それが自身からして話したくないという内容に関係しているというのであればこちらから踏み込むのもまたエクソシストとしての自身の仕事だろう。


「分かった。紹介者はなしとのことだけど教会との関係性を聞いても?」


「……私の両親がそうだった」


「そうだった、ね」


 なるほど。

 それで用紙の空欄が意味するところの大体の辻褄とその意図、そして今回の凡その依頼内容が見えてきた。


「汐見さん、と呼べばいいのかな?」


「……」


 沈黙は肯定。

 ただし目線はこれから始まるであろう内容を察してか、背けるように下へ下へと落とされていく。


「まず初めに。汐見さん、貴女の最初の問いかけに答えておこうと思う」


 それは別に特別なことではない。

 ただ、その答えが相手に及ぼす影響を考慮してはここまで先延ばししてきたものに過ぎないのだから。


「答えはイエス。ただ、今回はノー。何故ならそれで解決するとは思えないからだ」


「……帰る」


 その短い言葉に込められているのは目に見えた失望と落胆。

 こうあってほしいという希望も含まれていたからであろうか、目線も合わせずに立ち上がる依頼人の背中にはまるで覇気というものが感じられない。

 しかし、それをまた引き留めるのも突き放したこちらの言葉に他ならないわけで……。


「殺すよりもっといい方法があると言ったら――?」


 一瞬だけ背中を向けてはピタリと立ち止まる両足。

 続けざまにその場へと留まらせるべく言葉を投げかけていく。


「消す、返す、引き離す、もしくは追い出す。このうち汐見さんが望む答えに最も近いのは最初の消すだろう。ただしそれが出来るのは教会の人間、もしくは組合の中でも高位の数人だけ。あとは自分のような限られた個人がそれに含まれる。教会と面識のある汐見さんならそれが何故だかわかるよね?」


 一拍。

 それからしばらくの沈黙を挟んではこちらの望んだ答えが返ってくる。


「……必要だからでしょ」


「そう。何も難しい話じゃなくて、狭い業界だからね。ある程度限られた需要と供給の中で他者と協力せず個人で食い扶持を創出しようと思ったらそれに比例するだけの価値というものが必然的に必要不可欠になってくる。そしてその価値というものは独創的かつ独自のものであればあるほど他者と競合しづらく需要を生みやすい。……そろそろ続きを聞く気になったかな?」


 依然としてこちらに背中を向けたままの依頼人――とはいえ何とかその場に引き留めることには成功したようだ。


「……それで?」


 立ったまま振り返っては座る気はないとしてこちらを上から見下ろす依頼人。

 そちらがその気ならとそれ以上無理強いしたりはしない。


「消すでもない、返すでもない。もちろん引き離すでも追い出すでもない。自身を個人のエクソシストたらしめる独自性。契約によって縛るという選択――」


 この日、二人の間に一つの契約が結ばれた。


 依頼人の名は汐見咲紀(しおみさき)


 請負人の名はブランク・コントラクト。


 依頼内容。


 敵討ちにおける幇助等――。


 


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