金髪ショートピアス2
見た目は子供。
頭脳はどうかは分からない。
その名は――まぁお金を払ってくれるのであればなんでもでもいいか。
場所は街頭から歩いて移動することものの数分。
事務所という体裁を保つのに必要なもの、その最低限だけを詰め込んではそれらしく仕上げたその一室。
それまで素直について来ていたと思えば何やら気が変わったのかはたまた何かしら思うところでもあるのか。
扉をくぐってからというものの。
ソファへと座るよう促すこちらをそのままに、客人はその場から一歩たりとも動こうとはしない。
「コーヒー? 紅茶? 緑茶? それともほうじ茶かな?」
やかんを火にかけ、戸棚から客人用にとあらかじめ用意していたそれらを手に取ってはパッケージを読み上げていく。
「あぁレモンティーもあるね。それから生姜湯に柚子湯に牛乳はー……」
そういえばと冷蔵庫を開けては日にちを確認する。
「まだ大丈夫か。これでミルクココアも作れるね」
「……まだ答えを聞いていない」
「うん? あぁ、そっか」
それで未だに目の前の客人からの問いかけに対してその答えを明確にしていなかったことを思い出す。
ただ、目の前の客人が求める、問いに対する答えというものをこちらが持ち合わせているのかと言えば正直なところ微妙なところだ。
というのもこれはただの問いかけではない。
勿論、殺せるか、という問いに対して首を縦に振る回答を返すことは簡単なことだ。
しかし、目の前の客人が求める答えが例えそれだったとしても、現時点においてそう返すというのはあまりにも無思慮が過ぎるというもの。
仮に分かった上でそうしてみてもいいが、結果としてその行為が意味するのは何の根拠もないままにただ戯言を並べ立てる自分という何とも惨めな現実だけだ。
つまるところ、言ってしまえば目の前の客人からしてイエスという回答はこの問いかけからしてまず大前提であり、尚且つ知りたいのは所謂その先であるところの裏付け。
その言葉が意味するところの根拠を証明して見せろと言っているわけなのである。
「うーん、そうだね。エクソシストについてはどの程度?」
「あいつらの専門家だろ」
あいつら……あいつらか。
「うん。そうだね。ただ一つ間違ってほしくないのはあくまでも専門家と呼べるのは、というより呼んでいいのは教会所属の連中だけ。自分でいうのも何だけど、所謂個人で活動しているエクソシストはエクソシストじゃなくてその行為自体を肩書きにしてるってだけなんだよね」
「教会は……当てにならない」
「ふん?」
少しばかり辛辣な物言いだが個人へと行きつく前に踏む手順としては当然の流れだろう。
「ならここへは教会の紹介で?」
「違う。ついでに組合でもない」
「うん? 組合に依頼は?」
「してない。あんなやつらに頼むまでもない」
「ははっ。それは言えてるかもね」
組合。
教会の実質的な下請けだが、教会所属者以外の者からすれば最後の砦とも言える仕組みであり構造。
元々がエクソシストなる世間一般的には信憑性の低い者たちを頼らなければならないほどの状況に陥っているからこそ辿り着く場所であるからにして。
数の少ない個人を探せるだけの時間と余裕があれば少なくとも依頼する相手だけは選べるのだが、その辺りに関しても組合に所属する者たちは当然分かっているからこそ争いというか諍いというか。
何ともまぁ組合という場所には色々あるのだ。
「それで? 光栄にも自分が選ばれた理由をお聞きしても?」
ヒューヒューと音を鳴らし湯気を噴き出すやかん。
火を止めては勝手ながらも賞味期限が近いという理由からしてココアを二つばかり用意する。
「……結局答える気はないのかよ」
「ココアを飲んで、それから名前を名乗った上で依頼内容を話してくれたらいつでも?」
「……コーヒー」
「生憎ココアしかなくてね」
近づいては二つの内の一つを客人へと向けて差し出す。
「……バカじゃないの」
「よくわかってるじゃないか。自分の名前はブランク・コントラクト。エクソシストだ」
「はいはい」
ココアを受け取り、それまで被っていたパーカーを外しては露になるショートカットの金髪とその表情。
呆れ顔なのが何ともそれまで受けていた印象と少しだけ違って面白い。
「……」
少しだけ睨まれた。
が、まぁ、何はともあれ事情を話してもいいと思ってくれたのであれば何よりだと言えるだろう。
エクソシストとしての最初の仕事、こちらを疑う相手との信頼関係の構築。意外とこれが一番難しかったりするのは内緒だ。