金髪ショートピアス1
ブランク・エクソシスト事務所。
最寄りの駅から徒歩五分、人通りの少なくない十六番ストリート沿い。
両隣を学習塾と駅前留学に挟まれながらもその好立地に恥ずかしくないだけの賃料を支払っては恥ずかしげもなくエクソシストなどと看板を掲げるその男。
名をブランク・コントラクト。
彼の朝は早い。
「七時か……」
眠い目をこすってはあくびを一つ。
今や仕事着でもあり寝間着でもある作業着をそのままに、洗面台の前へと立ち尽くしては鏡に映る髭面へと両手一杯の冷水を二度三度と浴びせては意識の覚醒を促していく。
「……」
特にそれで目が覚めるといった感想もないわけなのだが、幾度も繰り返された習慣からして今日も今日とて歯ブラシへと伸びる手を一々不思議に思ったりはしないのが人間というもの。
そろそろと買い替えを意識しだした元々の容量であるところの残り半分を過ぎた歯磨き粉を前にしても尚、シャカシャカと小気味よく口内をリフレッシュさせていくことには変わりはないのだ。
「あー、ぺっ」
そうして次はと伸ばされた手が向かう先。
電動の髭剃りを手にしてはこれまた反復されることによって無意識下で行えるほどに習熟した行動を再現していく。
そんなこんなで起きてからここまで、いつの間にやら一連の流れが気が付けば寝起きで乱れた身なりと人相を整え、人としての最低限と言える及第点を自身へと与えるに至っているというわけだ。
「さて」
行くか。
そう気合を入れては扉へと手をかける。
外はまぶしい。
外気は冷たい。
しかしながらこれは自身にとって、いや――エクソシストにとって必要なことなのだ――。
駅前の雑踏。
「よろしくお願いしまーす」
スルー。
「よろしくお願いしまーす。あっ、どうも、エクソシストとか必要としてない?」
ビラを受け取る学生。
「悪魔とかそういうの――あ、してない。そっか。うん。まぁ、そのほうがいいんだけどね」
先を急ぐ会社員。
「え? エクソシストに興味ある? ホンモノかどうか? はっはっはーって、え? 笑ってごまかすな? うん、もし必要になったらいつでも力になるよ」
興味本位の学生。
「精神的に参ってる?」
専門外。
「パララリジミカルドリルルラルラルル……?」
地球外。
「え? 殺せるか?」
本物――。