第四夜
大概ここ書くのもめんどくさくなってきた
「眠れない」
いやな気配に取り憑かれている。不明瞭で不明確なものが布団越しに俺の身体を包んでいた。ひどい寝汗に湿った布団と、少し荒い息を吐く。
「……水、飲むか」
俺は何かを確認するかのように口を動かすと、身体を起こす。
そのまま寝室を出てキッチンへ行く。水道の蛇口を捻りグラスに水を満たす。
「……ふぅー」
グラスを一気に煽り、深く息をつく。
ループしていた。
寝なくてはいけないのに、寝れない。この感情に対して、俺は既視感を覚えていた。
けれどいまこうして起きて水を呑めている以上、悪趣味にループする夢からは出れたようだ。俺は頭にこびりついた倦怠感をなんとか追い出そうとしながら、現状を考察していた。
俺は流しに手をついて再び大きく息を吐くと、辺りを見回した。
怪物はどこにもおらず、深淵はこちらを覗かず、悪魔が語り掛けても来なかった。
俺は濯いだグラスをラックに戻すと、キッチンを後にした。
その時だった。
俺はリビングのテーブルに置かれた精巧な飛行艇の模型を目にした。
大きさは両手で抱えるほどのそれは、三階建てで赤色をした大型の飛行機を模したものであり、プロペラや尾翼といった細かいところまでよく作り込まれていた。
「へぇ、よく出来てるな」
俺はそれを持ち上げると、あちらこちらからその模型をよく観察したが、窓から中を覗くと、中の方もよくできていて、椅子やテーブル、旗はテーブルの上のティーカップに至るまで丁寧に作り上げられていた。
(おかしくないか?)
なにかに違和感を感じる。
家にこんなよくできた模型なんてあったか?
と言うか、この模型こんなに細かいところまで、よく出来すぎてないか?
そしてなんで俺は、こんなに暗い部屋でそこまで細かいところまで見て取れたんだ?
疑惑が確信に変わる。
そうだ、おかしい。
そう気づいた時だった。
飛行艇のプロペラが音もなく回り出した。それとは対照的にけたたましい音を立てて玄関のドアが開く。
飛行艇は、突如発進した。
玄関に向かい猛スピードで動き始めたそれを、俺は咄嗟に手放そうとしたが、手が離れない。
声は出なかった。
飛行艇は、玄関を飛び出し、マンションの七階から、地面に向けて突進した。
精巧な飛行艇の中身も、飛行艇の角度の傾きによって、中の物ががたがたと音を立てて崩れていく様が、堕ちていく俺には走馬灯のように見えた。
上に同じくだよね