表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/16

五話 刺客

二人が店を出ると、辺りは薄暗くなっていた。


「とりあえず駅まで行くか。」


煉がそう言うと、凛花は背後を振り返る。


「どうした?」


「……………いえ。……煉君は先に行ってて下さい。私はちょっと本業が……」


そう言った凛花の目は既に自分達を狙う者をロックオンしており、煉の方には一瞥もくれなかった。


「…………俺も行く。」


「煉君は危険です。これはただの人同士の殺し合いではないんですから。」


凛花はいつになく強い口調で止める。


「危険なら尚更一人では行かせられねぇな。俺も行く。少なくとも足でまといにはならねぇよ。」


「煉君まで目を付けられます。」


「そこは顔隠すなり何なりするさ。」


「………………はぁ、分かりました。」


凛花は根負けしたように溜息を付くと、路地裏に誘導するように歩いた。


路地裏はいつになく不気味で不穏な空気が流れていた。


「本当に誰かに付けられているのか?」


同じ殺し屋の煉には全くその気配を感じられないのだ。


「……来ます。」


凛花が急いで鎖鎌を組立てる。


次の瞬間、鋭く太い針が二人の元に飛んできた。


凛花はそれを鋭く弾くと、何本も連続で飛んでくる針を次々鎌で弾き落としていく。


「…また厄介なのが来たものですね……」


凛花は煉を庇うようにして立つと、二人の女がいた。


一人は長い針の髪を持つ女。もう一人は一見ただの人間に見える普通の女。


「…針女…骨女…」


凛花はその容姿から相手の詳細を悟る。


二人とも先祖返りだ。針女は針の髪を持ち、その毛先は鉤になっていて、殺傷力が高い。


骨女は美しい女が生前愛していた男の元に通い、思いを通わせた、という話が有名だが、自在に骨を操る力を持つ。


骨を喰らい、骨を操る。


二人とも戦闘向きの能力の持ち主だ。


だが、本来こんな戦闘の場に出てくるような妖ではない。


(……これもまた…研究所の仕業ですかね……)


針女も骨女も組織が把握していなかった先祖返りだ。


だが、ここまで戦闘力を強化され、わかりやすい特徴を出されればマークしてなくてもわかる。


二人を観察していると、針女が髪の針を飛ばしてきた。


それに続くように、骨女はどこからとなく骨を出し、それを構えて凛花に向かってくる。


針をかわし、骨を受け止める。


「邪魔するな狐…」


骨女は透き通る声で凛花に告げる。


「邪魔しますよ。その言葉で狙いが分かってしまった以上、余計に邪魔しなければ!」


凛花は骨女の骨を断ち、蹴り飛ばすと、針女へ鎖鎌を投げる。


髪の針で鎌は弾かれるが、その間に凛花は距離を詰め、弾かれた鎌を構えて、瞬時に狐火を纏わせ、その首めがけて切りかかる。


針の髪も瞬間的に熱され、針の強度も弱まる。


だが、鎌がその首を断つ前に掠るだけで避けられる。


針女の首から血が流れるが、首を断つにはもう少し届かなかった。


後ろで武器同士のぶつかる音が聞こえる。


振り向くと煉と骨女が交戦中だった。


骨と刀のぶつかり合いであるにも関わらず金属同士がぶつかっている音かのように聞こえる。


凛花はすぐに煉の援護を兼ねて鎖鎌を投げる。


「お前!そっちは大丈夫なのか!?」


すぐに鎖鎌に気付いた煉が凛花を見る。


骨女は針女の怪我に気付き、分が悪いと判断したのか、すぐに針女を連れて引いていった。


「なんだったんだ?さっきの奴らは…」


人ならざる力を使う先祖返りを見てしまった以上、これ以上隠すのは無理がある。


「知ってるのか?」


凛花を見て問いかける。


凛花は悲しそうにはい…と頷いた。







二人は煉の部屋に居た。


何処で話すにしても都合のいい場所は無く、一度狙われた以上、また狙われるかもしれない。


そう考えると煉の部屋が1番良かった。


「で、なんなんだ?あいつらは。」


「…………彼らは…先祖返りと呼ばれる者達です。」


「先祖返り?」


「はい。先祖が妖と交わり、その妖の力を色濃く受け継いだ人間の事です。人の両親から生まれたにも関わらず、人ならざる力を使う者。それが先祖返りです。先程の二人も、針女と骨女という妖の先祖返りです。」


「そんな連中がいるのか?そもそも妖って…」


「います。いますよ。人々から忘れられても、恐れられなくなっても、妖達は生き難いこの世界で今日も隠れて生きてます。」


凛花は俯いたまま、顔をあげようとしない。


「…………なるほどな。まぁ実際、あんな力を見せられた以上、妖なんて居ないって言っても無駄だろうを。……だが何故その連中が俺を狙う?」


「…………恐らく……私と協力関係にあるからです。」


凛花の声は震えていた。


「………お前と協力関係にあると狙われるのか?」


「うちの組織は先祖返りの子どもを保護して育てています。先祖返りの知識のない人間にとって、いきなり人ならざる力を使う子供が生まれればそれは恐怖の対象にしかなりませんから、保護してほしいと申し出る親や物心着く前に捨てる親が多いんです。でも、力の弱い先祖返りもいます。その先祖返り達は私達の力では見つけられなくて、今まで人として普通に生きてきたはずなんです。それなのに、急激に力を付けてうちの組織の人間を襲ってくるんです。」


「………急激に力なんて付けられるのか?」


「普通なら無理です。ですが昔、先祖返りの力を強制的に増加させる薬の研究をしていた者がいます。その博士には元はうちの組織が資金援助していたんですが、あまりに独断専行過ぎる研究と行き過ぎた人体実験で援助を打ち切ったんです。そうしたらどこかに消えて…でも、先祖返りの力を増加させる事が出来るのは恐らくあの博士だけなんです…だからうちの組織が狙われているんです。」


「……お前の組織には先祖返りが多いのか?」


「……そう……ですね。保護された先祖返りの子どもがそのまま組織に属してる感じですし……」


「………お前も?」


「………え?…」


「お前も先祖返りなのか?」


「………どうしてそう思うんですか?」


「………いや、何となく先祖返りとの戦い方が慣れているようだったから。」


「あぁ、それなら経験ですよ。ある程度妖の知識があればなんぞ先祖返りかすぐ分かりますし、わかればそれで対応できます。」


「そうか。それでこれからもお前は狙われるのか?」


「そうですね…恐らく。今まで一定数の刺客がいたのは事実ですが、最近はその刺客が力を増しているんです。」


「そうか…まぁ俺だって正体不明の刺客に狙われる、なんてことはしばしばある。狙われるからって俺を遠ざけたりしなくて大丈夫だ。」


煉はそっと凛花の頭を撫でた。


「ありがとう……ございます……煉君…」


「礼を言うのはこっちだ。あの刺客、俺一人なら危なかった。」


「貴方の事は守ります。いつ何時とて、どんな手を使っても…」


そう微笑んだ凛花の笑顔はどこか儚げで、強い覚悟を感じ取れた。


「自分を優先しろ?そんなので怪我されたら足でまといになる。」


「分かりました。」


「それじゃあ何か作るから食べていけ。」


「本当ですか?やったぁ!ありがとうございます」









「あいつ……強い……」


「しかも全然本気出してなかったよ」


ある建物の一室で針女と骨女が一人の白衣の男に文句を言っている。


変化(へんげ)すらしてなかったもの。」


「私達じゃ敵わないじゃない!」


「そうかそうか…やはりあの子は特別だねぇ。ステージⅡの先祖返りではダメだと言うことか…」


「ステージレベルを上げるってこと?」


「あぁ。そうすればもっと強くなれる。もっと丈夫に、もっと速く、的確に殺せるようになるさ。」


白衣の男は注射を二本、取り出した。


「さぁ、もっと強くなろう」







「大地、そっちはどうだ?」


真っ暗な夜、不良の溜まり場になっている路地裏で大地の姿があった。


そこに返り血で服を赤く染めた大空の姿も。


「また誰かボコったのかよ…今はただの偵察だろ?」


「仕方ないじゃん。目障りなゴミが居たんだから。」


まるで虫けらを見るかのような目で冷たく嗤う。


「守備は?」


「大丈夫。概ね予想通りの人数だ。これなら煉なんか居なくても俺らで何とかなる数だろう。」


「まぁ念の為に煉を置いてるって感じで大丈夫か。」


「そうそう。それよりもあの凛花って子が来ないか心配だよ。」


「あいつ来んの?人殴った事も無さそうな華奢な体してたけど?」


「お前女嫌いの癖にそういう所は見てるんだな。」


「目に入ったから見たまでだ。本来なら女なんて視界にも入れたくねぇんだよ。」


大地が忌々しそうに言うと、大空はふっとわらった。


「まぁお前が毛嫌いする理由も分かるけど、どうせなら復讐すればいいのに。」


「兄貴のは質が悪い。恨んでるのはあの女で女全てじゃねぇ。それなのに兄貴は全ての女が敵って扱いだろ。完璧なエスコートとかしてる癖に腹ん中ではそんな事考えてるとかつくづく怖ぇよ。」


「そ?別に普通じゃない?余裕ぶってる女ほど、涙で傷付いたって顔させた時はいいぜ?どいつもこいつも同じに見えるけどな。」


「はぁ。いつか刺されるんじゃねぇの?」


歪んだ憎しみを抱える兄に弟はため息をつく。


「俺を刺せるなら刺しに来いよって所だ。」


「確かにそうかもな。」


「まぁ、何か裏がありそうだけどな。あの二人は。」


「調べとくか?」


「あぁ。一応な。」


二人はそんな話をしながら闇に消えていった。







任務決行は三日後の二十三時スタート

場所は例の溜まり場


翌日の朝、上条兄弟から届いたメールの内容だった。


「なるほど。二十三時ですか。」


一緒にパソコンを見ていた凛花は納得したように頷いた。


「それくらいならあまり周囲を巻き込まないと考えたんだろう。あの二人は強くて凶暴だが、周りを見れていないという自覚がある分、関係ない者を巻き込まないようにという配慮が出来ている。」


「そのようですね。楽しみです。」


「お前…当日はどこにいるつもりだ?」


「お邪魔にならないところにいますよ~」


何度聞いても凛花は邪魔にならないようにする、とか、邪魔にならないところにいる、とかしか言わない。


「怪我するなよ。」


「分かってますって。煉君も、無茶しないでくださいね。」


「あぁ、分かってる。」


そう言うと二人はまた恋人のように仲が良さそうな会話を始めた。

先祖返りの特殊能力的な力をもっとリアルにかければ良かったんですけど……

戦闘シーンは特に分かりにくくてすみません…

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ