4 王子が優しさが理解できない
日々の魔法の鍛練は、貴族の女の子にとってはかなり厳しいことで、鋼の心を持ち合わせている私でさえも、泣き言を言いたくなるような感じだった。
しかし、その厳しい特訓とかその他諸々を乗り越えた私は、魔法適性がある人なら誰でも使える無属性魔法だけでなく、なんと属性魔法まで使いこなせるようになったのだ!
とは言うものの、かなり初歩的な魔法だが、それでも属性魔法を使えるのは、その属性に適性値があるということ。
私が使うことの出来た属性は、火属性、水属性、風属性、土属性。
光属性も使えたが、これの適性は、他のに比べてやや弱いらしい。それから、闇属性はこれから調べる予定である。
おのれ、私が悪役とでも言いたげな光属性適性値の低評価。
それでも、無属性含める、六属性を使いこなせる私は凄いらしく、クリアにそれはもうべた褒めされた。
うん、まぁそれならいい気分だわ。闇属性の適性に関してもあって欲しい。クリアにもっと褒められたい。
こんな感じにのらりくらりと魔法についての腕を上げていった私なのだが、それ以前に、初歩的な課題が全く終わっていない。
「アリシア、今日は何をしているの?」
「……マクロ王子、今日は何をしに?」
「私用で近くを通り掛かったから寄っちゃった」
……そう、マクロ王子との関係が全く断ち切れない。
というか距離が近い。
「ふーん、王子は暇なんですか?」
「そんなことないよ。…………ふっ、君くらいだよ。僕にそんな物言いする人なんて」
「別に悪意を持ったつもりでは……」
なんだろうか、あまり王子と話したことの無かった私だから、逆にこうやって会話をされるとどう反応すれば良いのか分からなくなる。
「いや、別に気に障ったりしてる訳じゃないから。単に今まで僕の周りに居なかったような人だなぁって、思うだけ」
「え?」
「いや、だって僕って王子だし、優しくしてきたりとか、そういう人とかは沢山居るんだよね」
へー、そうでございますか。
て言うか、その優しいエリーさんに絡み捕られたのは誰かなー。まぁ、いいや。
「それで?」
「君みたいに僕に対して無関心な人は初めてだなってね。勿論、家族は別だけど、でもだからかなぁ? 結構気になってるのかも」
王子の『気になる』は、とんでもなく迷惑なのだが……まぁ、その意識がいずれすり替わるのも時間の問題か。
どうせ私の十二の誕生日の日にエリーに出会って鼻の下伸ばすのだから、それまで我慢!
頑張れ私!
「王子、私の他に気になる人は居ないのですか?」
「居ないんだな、これが」
そう言いながら、私の手元を覗き込んでくる。
現在は、闇魔法の行使のために、魔力を黒い魔石に注ぎ込んでいる。
地味だから王子も何をやっているのか分からないようだった。
「この石はアリシアの宝物?」
「いいえ、ただの教材。王子も魔石って聞いたことあるでしょ?」
「ああ、魔法の特訓ってことか、へぇー。アリシアって魔法が使えるんだね」
「……嗜む程度には」
王子から我が身を護身するためにこうやって魔法を磨いているのだが、そんなことを言うつもりもない。
私は魔力を注ぎ込み終わったので、試しに魔石から魔力を放出させてみる。これで適性が無かったら、不発に終わるのだが……。
『しゅ~~~』
うわ、なんか禍々しい色をした煙みたいのが出てきたよ。
火属性は炎が、水属性は大量の水が、風属性は暴風が、土属性からは砂ぼこりが、光属性からは弱々しい光が出てきた。
いや、闇属性って物体として捉えることが出来ないから、こんな未確定な形の煙が出てきたのかもしれない。
そして、その煙は直ぐに空気中に掻き消えた。
「うわっ! なにこれ、凄い。これが魔法なのかい?」
相当驚いた様子の王子は、目を大きく見開きながら、此方に目を向けてきた。
「ええ、取り敢えず、闇属性の適性も確認できたわ。これで適性検査も終了だわ」
「ん? 『闇属性の適性も』と言うことは、他の属性も使えたりするのかい?」
「光属性の適性は若干低いけど、まぁ、全て使えるわね」
別に光属性の適性に関しては、気にしてないから。本当だから!
私の光属性への適性に関しては、特に王子は気にしておらず、逆に全ての属性が使えることに驚愕の顔色を見せていた。
「凄い! 僕、全属性の魔法が使える人初めて見たよ。今王城に仕えている宮廷魔術師の中でも最大で四属性が最大。七属性なら、直ぐにでも宮廷魔術師にスカウトしたいくらいだよ」
いやいや、別に宮廷魔術師になりたいとか、そういうの無いし、貴族なのだから、別にお金には困らないし。
「宮廷魔術師には興味無いわ」
「ならなんで魔法を勉強してるの?」
「……自衛のためよ」
王子がそんな私の言葉を聞いて、度肝を抜かれていたのは、明らかだった。
「……自衛で全属性の魔法覚える必要ある?」
「多く覚えて損は無いものよ。それに私の場合は偶々全属性使えるってなってるだけで、他意は無いもの」
王子は首を傾げたままだったが、漸く納得したようで、顔色を何時もの澄まし顔に戻していた。
「じゃ、そろそろ行かなきゃだから、また今度ね」
付き人が耳打ちをして、時間を確認した王子がそう告げてきた。
その、『また今度ね』が、いらない。
なんでそうまでしてのこのこと遣ってくるのかが理解できないし、不気味すぎる。
もう来なくても良いよと目線で伝えると、苦笑いを浮かべながら手を振って帰って行った。
……無礼だからと予定より早くに殺されたりしないかしら?
最近の振る舞いを振り返って、染々とそう感じる私であった。