3 魔法を学びますよ!
二度目の人生が開始して、三ヶ月が経過した。
一度目の人生では知らなかったこと等を知る機会が今回は豊富に溢れていた。それはとても素晴らしいことで、知らなかった私の新たな一面を知れたりとか、とにかく私にとって有意義なことだった。
先ず、私に魔法の才能があったということ。
あの王子が訪問してきた数日後、クリアに……ああ、クリアは私がこの人生で初めて出会ったメイドさんね。彼女と魔法について色々と語り合って、試しに魔力測定みたいなことをしたことがあった。
魔力測定には、特殊な器具を使うようなんだけど、クリアがそれを持ってて驚いた。高価なものだと聞いていたから、『なんで持っているの?』って質問したら、『昔私は魔法を使った仕事に就いていたので』と、返された。
その器具に手のひらを当てて、魔力を流し込むようなイメージをすると、現在の魔力量と潜在的な魔力量が数値として表示されるらしい。数値は0~100までの間で表記されて、天才と言われる人でも精々60くらい、100なんて出せる人間はクリアの知る限りいないという。そもそもクリアが知っている中で、潜在的魔力が一番高いのは80らしい。
そのうち現在の魔力量というものは、潜在的なものよりも少ない。(一般的には潜在的な量からマイナス5くらい)
取り敢えず、魔法が使えるのは分かったので、私としては、遊び半分で適当に測ってみたのだが……。
現 魔力量72 潜 魔力量98
いや…………。
いやいやいや! それはもう、器具が壊れてるでしょ!
私がそんなに強力なの秘めてるとかあり得ない!
いや、本当に何それ……? もしかしてクリアの言っていることが間違いで、これは一般的な数値なのでは?
そう信じたかった私はクリアの方に恐る恐る目線をずらす。
いや、なんか驚きの顔をしてました…………。
駄目だ……。
そんな私が魔法に精通した力を秘めているなんて知らなかった。というか今までは知らなくて良かった。
貴族の令嬢にとって、魔法が使える、使えない等の違いは別になんら影響の無いこと。まして、お母様が魔法にからっきしなのだから、当然私にはそのような力があるはず無いって信じ込んでいた。
天性覚醒、文字通り遺伝的なものに関わらず、自身の能力が優れることを指す。
クリアによると、私はその可能性が高いという。その覚醒の確率は一万人に一人だとか、一億人に一人だとか、まあ要するに確率については解明されていないそうで、とにかく優れた才能を授かれたということだ。
嬉しいのやら、また面倒なことになったのかと思ったり、複雑な心境になる。
でも、結果的にそれは私にとって朗報で、魔法の適正があるのなら、私が前の人生で通っていた王国第一学園ではなく、魔法第二学園に通えるという選択肢が広がった。
学園が違えは私がエリーと接する機会は自ずと減ってくる。
社交界とかで出会うことはあるが、年がら年中学園で顔を合わせたりすることも無くなる。
更に更に! 王子は王国第一学園に通うことになっている。
それはもう、私は王子との距離を置くことが出来る。
学園が違って、会話する機会も減れば、王子が我が家に訪問してくる機会も減るかもしれない。
そのまますんなりと前回同様に王子の心がエリーに動いてしまえば、私は彼と婚約していないので、そこで全ての片がつく。
私も生きれて、王子も幸せになれる。
こんなに幸せな未来設計が出来た私には花丸百点満点をあげたい。
さて、魔法に関してのことは今はこれくらい。
次に分かったことと言えば、屋敷の人に関して。
クリアはおろか、この屋敷には凄い優秀な人が集まっておられる。
先ず、クリアから。
仕事として、家事全般を請け負ってくれる彼女は、魔法にも精通したスーパーメイドさん。
私に魔法を教えてくれる。
それから、最近庭に行ったら芝刈りしてた、庭師のトユさん。
長い人生経験から、とっても物知り。
メイド見習いのコルトちゃんは、私と年齢も近くて、良く話し相手になってくれる。彼女も魔法学園に入学するらしいので、一緒に行こうって話をしたりする。
きっと以前の私は、彼女と話したりはしなかった。社交界で人との交流に疲れていたあの頃は、家では極力会話をしたくなかったからだ。
しかし、話し相手が居てくれるのは精神的に落ち着くものがある。ドライな性格だったあの頃から脱して、今度は色々と目を向けながら、何処でも社交的な令嬢になりたい。
こんな風に様々な人が屋敷に仕えてくれている。
周りに目を向ければ、こんな風にいい人でばかりで、もっと屋敷の人たちに相談とかしていれば良かったと思う。
もう既に、一度死んでいるので後の祭という訳だが……今回は彼等に頼らせてもらおう。
まぁ、今現在も、クリアに頼っているところなのだが、それがもう有り難くて、有り難くて……。
ええ、本当に有り難い…………。
但し、
「つ、辛い!!」
「お嬢様、頑張って! 今から頑張れば魔力の向上がより促進されますよ。幼い頃の方が体への吸収とか、理解速度が良いのですから」
魔法の勉強と称して、クリアのスパルタな授業にひいひい言っている私。
明らかに辞書みたいに分厚い本に書かれている魔法についての数々は、貴族学校に通っていた私にとっては全くのちんぷんかんぷん。理解しがたい文字列がずらりと並んでいた。
「あっ、お嬢様。そこの呪文の配列は上段の文と下段の文が逆ですよ」
「ひゃぁぁっ、書き直し?」
「うーん、まぁ、今回はまだ始めて一週間経っていないですしね。免除しましょうか」
所々で甘いのがクリアの良いところで、その言葉を聞くたびに私は何回安堵したことか。書き直しとか言われた時には、頭に内蔵されたメモリーカードがショートしそうになった。
「……ねぇクリア。クリアも魔法に関しての勉強とか大変だった?」
「うーん、そうですねぇ。私の場合は学園に通ったりしてないですし、教えを乞いてくれる人も居なかったので、独学で勉強しました……けど、やっぱり、お嬢様くらいの年頃はかなり難しかったですかね」
……やっぱり、そうなのか。
一応一般常識くらいは会得している私でさえも難しいのだから、子供にとってこの勉強は正に地獄。
精神的に大人の私でも地獄だ。
というか独学で勉強とかクリアはかなり優秀な頭をお持ちのようだ。
「でも、お嬢様は物覚えか良くって、たったこれだけの期間で、その本を二十ページも進めたのは誇るべきことですよ」
「そう? それは良かったわ」
クリアが微笑みながら褒めてくれる。しかし、これには人生二回目というドーピング的なずるが含まれている。
素直に喜べない……。
「もうこんな時間……。今日の授業は終わりにしましょうか」
時計の針が正午の一時間前を指して、クリアも使用人としての仕事に戻らなければならないため、今日の魔法の授業は終わりになった。
手短に私に手を振ると、小走りで台所の方向に行ってしまったクリア。
この魔法の勉強にクリアは自ら協力してくれると申し出てくれて、更にお母様には内緒なので、ちゃんと仕事もこなしている。それは結構無理がありそうなので、
『止めといた方が良いのでは?』
みたいに伝えたものの、
『お気遣いありがとうございます。ですが、お嬢様が魔法の才能に溢れた天才って分かったからには、それを伸ばしたいのです!』
という感じに、熱意のこもったことを言われてしまった。
これもうお母様に魔法のこと話してクリアを専属の先生にしても良いのかもと感じている。
それはもう、お母様に魔法が優れているとか教えたら腰を抜かしたりするかもしれないが、クリアは教え方も上手いし、こんなに良くしてもらっているのに、それで過労し過ぎて倒れたとかあったら可哀想だ。
よし、これはもう隠しても知られてても特に相違無いし、むしろ知っていて貰った方が魔法第二学園に入るのがすんなり行きそうなので、今日の夕食の席で話しましょうか!
王子と同じ学園に行かないで済むのであれば、それに越したことは無いしね。
という訳で、夕食の席で、私はごく普通の会話の中に、魔法が使えるとかを織り混ぜて、それはそれはお父様とお母様は大層驚いていた。
お父様の方は凄いなと感心している感じで、お母様の方はもうどうしようもなく号泣。クリアもキョロキョロと私の顔を何度も見合わせて、とっても慌ただしい夕食になってしまった。
次の日から私専属の魔法の先生として、クリアがめでたく任命されたのは、私きっての両親に対するお願いが嬉嬉と受理されたからだ。