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随分前に途中まで書いていたものです。
今日は多くの貴族が参加する国王主催の舞踏会。
私を含め令嬢の気合とやる気は十分である。
みな心の中で思うことはただ一つ!
いい旦那を手に入れてみせる!!!
我々令嬢にとって嫁ぎ先はまさしくこの先の人生そのものと言っても良いだろう。
とは言うものの、人それぞれ理想とする男性は違う。
私的には女癖が悪い男や極度に口うるさい男と結婚してしまっては踏んだり蹴ったりな生活しか待っていないように思う。
女癖が悪ければ後継問題も面倒だが、愛人がデカイ顔してくるのも腹がたつ。口うるさければとりあえず顔を見るたびに腹がたつこと間違いなしだ。
あと、皆んなに人気がある王太子殿下をはじめとした方々も私には魅力的には感じられない。彼らは皆顔がものすんごく整っている。さらにさらに将来も有望という事で、世の女性の憧れである。
大体、人気がある男は結婚した後もどうせ人気者である。そんなキラキラした人種と一般的な一般人代表な私があろうことか結婚なんてしてみなさい。針のむしろですからね?
もう、嫉妬のブリザードのど真ん中へ待った無しだから…
いやはや、女の嫉妬は恐ろしいなぁ〜
そんなわけで私の理想とする男性は心穏やかな平凡な凡人で、ある程度お金を持っている人だ。あと愛情深い人が良いよね〜
仲睦まじいおしどり夫婦に憧れちゃうよね!
ちなみに私にはしっかり者の弟がいるので、家を継がなくて済む。うちも歴史が長い伯爵家だからねぇ〜
女伯爵とか、かっこいいけど苦労も多いだろうし…弟がいてくれてよかったよかった。
そんなわけで私の理想な男性を仕留め…いやいや見つけようと会場の隅々まで目を通していく。ついでにこちらを見ている怪しい人物がいないかも要チェックだ。
実は最近、私は誰かに見られている気がするのだ。いや、気がするのではなく確実に見られている。
街に出かけていても常に視線は感じるし、振り返ってみると怪しい人影があるように感じる。
所謂ストーカー被害にあっている。
裏路地、塀の上、etc…を駆使して撒こうとしたものの気がつけばまた見られているのだ。
ほんと、怖すぎる。
私もどんな奴がそんなことをしているのかと思って後ろを振り返って確認してはいるのだけど、まるでスパイかのように全くその姿を見せようとしない。
父や母に相談する前に騎士団に所属する従兄弟に相談してみたけれど「あー。俺がなんとかしておくから」といわれ、さらに「伯爵と叔母様には言わない方がいいと思うぞ。心配してお前外出禁止にさせられるからな」と言っていた。たしかに…過保護な両親に知られたら自宅待機を命じられることは確実だな…それは困る!
あと、弟に知られても面倒である。だいたい私が街に行くだけでも「俺も付いていく!」と言って聞かないのだ。
しょうがないからバレないように家をこっそり抜け出している。
令嬢ってのも楽じゃ無いよ、まったく。
それに確かに今のところ危害を加えられたとかも無いしね…
こう見えて私はなかなか強い。物理的に強い。騎士団に所属しているチャラ従兄弟と良い勝負である。騎士団長の伯父に「男の子だったら騎士団に入れて俺の後継にしたかった」とまで言わしめた。だから相手が誰であれ自分の身は自分で守れる自信がある。
とりあえずもう少し様子を見て見ることにした。
従兄弟に相談して見て、1週間ほどは視線がなくなったものの気がついたらまた見られていることに気がついた。
どうやら別にストーカーをやめた訳ではなくさらに気配を上手く消していたようだ。
従兄弟はなんの役にも立たないどころか結果的にストーカー野郎のストーカー技術を向上させたに過ぎなかった。
まぁ、あと私のストーカー察知能力も向上させたね…
あのチャラ男(従兄弟)め!何が「俺がなんとかしてやるから」だよ!害無いどころか害しかないよ!!
今まで散々弄ばれてきた女性たちのためにも私が奴のあのチャラチャラした長い銀髪を引き抜いてやるんだから!次会ったら覚悟するんだな!
ちなみにこの従兄弟も多くの女性から人気のある令息の1人である。この従兄弟が女を取っ替え引っ替えしてきたのを見たからかな、やっぱり私は平凡な人と結婚したいな。
「ごめんごめん!許して〜」とウィンク付きで謝罪されても世の女性が許そうとも私は絶対許さんからな!
だが、私も振り返り技術を向上させた結果、奴は男で黒髪であると言うことがわかった。
これを掴んだとき、ストーカー行為が始まってから2ヶ月ほどが経過していた。
本当にスパイ、もしくは暗殺者にでも狙われてるのか?と思った事もあったがどうやらそうでは無かったようだ。
さらに従兄弟に相談した翌日、我が家に一通の手紙が届いた。
拝啓リリアンヌ様。
花の蕾も膨らんで春の陽気を感じられるようになった今日この頃ですが、どんな花の蕾よりも貴女の微笑みは可憐で美しく、その笑顔は大輪の花を咲かせることでしょう。
貴女を一目見た時から私の心は貴女に奪われてしまった。好きです。愛してます。
ずっと貴女を観ていたい。
貴女はとても素敵な人だ。淑女の鑑だ。
直接伝えられない私を情けないとお思いでしょう。しかし私は女神のような貴女の視界に入るのは畏れ多くてとてもできないのです。
こんな私をどうか許してください。
愛しています。
などなどを便箋3枚に渡ってびっしりと綴ってあった。差出人の名前はなかった。
正直、ドン引きである。というか相当気持ち悪い。さらにさらにツッコミどころが満載すぎる。
可憐で美しい?淑女の鑑?何を言っているんだこいつは??
え、こいつ私のストーカーだよね??
私がこいつを撒くために塀に登ったり猫が通るような壁に空いた穴をすり抜けたりしてるの見てるよね??
その上でこの言葉が出るってどういう色眼鏡で見てるわけ??
いや、色眼鏡っていうか目の前真っ黒なアイマスクでもつけてるんじゃない?幻想でも見てるんじゃないか??
宛名違いかと思ったけれど、しっかりとリリアンヌ様へ、と書かれている。私の名は確かにリリアンヌだ。
一周回ってこいつのことが心配になってきたよね。
それからというもの毎日のようにこの愛の告白(笑) が届いた。
もはや笑いのネタである。毎日たいそう笑わせていただいてる。
が、しかし、いい加減こっちも迷惑だ。
危害は無いって言っても見られるのって嫌だ。不快でしか無い。
と言うわけで今日の舞踏会では旦那探しとストーカー野郎を探すと言う2つの目的のために私は闘志を燃やしているのだ。
なぜストーカー野郎がここに来ていると分かるのか。それは、奴からの愛の手紙(笑)に「今度開かれる舞踏会に参加する貴女のドレス姿はさぞかし美しいのでしょう。今から楽しみで楽しみで夜も眠れません」と書いてあったからである。
奴から届く手紙もいい紙を使ってあるし、おそらくどこぞのボンボンであろう。願わくばこいつがその家の跡取りであらんことを!
だってこいつが継いだらその家潰れそうじゃ無い??
私が淑女の鑑に見えるとか人を見る目無さすぎだもんね〜
まぁ、あとは旦那探しだけど、ここにいるって事は貴族なり商人なりある程度の地位と財産を持っているってわけですから、あとは性格の良さそうな人を探すのみだ。
父、母、弟とともに一通り挨拶回りをしたけれど、あれはなかなか緊張する。王様を始めとした上級貴族たちに愛想よく行儀よく挨拶していくのだ。まぁ、私も18歳だしだいぶ慣れて来たけどね。
王様に挨拶をすると
「おお!よくきたな。
リリアンヌ嬢も一段と美しさが増したのではないのか?そうは思わんか、クリストファー」
と歓迎してくださった。王様は気さくな方なのだ。しかも笑顔がとっても暖かい。なかなかの男前で、若い頃はさぞかしモテていたのだろうな〜と思う。まぁ、王様は王妃様にベタ惚れしてて今でもラブラブだと評判だけどね。
ちなみにうちの国は恋愛結婚する人が貴族でも多いため私に婚約者はいない。うちの両親も国王夫妻も恋愛結婚だ。
しかし、それに対し王太子殿下は
「えぇ…まぁ…そうですね」
無表情でそう言ったのみである。しかもこっちちゃんと見てないだろ。おい、そっちは壁だぞ!私はいないぞ!ま、いつものことだけどね笑。
王太子殿下のクリストファー様は金髪青目でとてもかっこよくて頭も良く、おまけに将来の国王となればそれはそれはモテている。年も確かこの間20歳を迎えられたばかりで結婚適齢期でもある。しかし、いかんせん無愛想すぎると思うんだよね、私は。
そんなんで外交とか出来るの??極度の人見知りなんじゃないの??ってくらい人見知りだ。
今までも目が合ったと思った次の瞬間即そらされるからね…愛想笑いとかする暇すら与えられないからね。
他の令嬢が「クリストファー様の微笑みはこの国の宝ですわ」とかなんとか話してたけど、あの人微笑んだりするの??
私の観察技術が足りないから本当はクリストファー様が微笑んでいても全て無表情に見えてるとか??
もしかして目が節穴なのは私の方?もっと人の表情を観察しようかね〜
その後、チャラ従兄弟とも遭遇した。
「やぁリリアンヌ!今日もとっても綺麗だね。
まるで花の妖精みたいだ」
相変わらずチャラチャラしてる。
「そりゃどーも。そっちは相変わらず大変おモテのようで。そのうち刺されないように夜道には気をつけた方がいいわよ」
ほんと、いい加減女遊びやめたらいいのに。顔面の無駄遣いだよね。いや、ある意味有効活用してるのか??騎士ってもっとお固い感じだと思ってた。乙女の夢を壊すなよ!!
「いや〜だって女の子はみんな魅力的だから」
とかなんとか言っている。もう勝手に刺されるがいいよ。
「ねぇ、それより全然ストーカーなんとかなってないんだけど。むしろ毎日手紙が届いてくるようになったし悪化したんだけど!」
この前なんとかするって言ってたよね?
「え!?手紙!?しかも毎日か。
なにそれ気になるんだけど」
「毎日毎日届くこっちの身にもなってよね!
いつになったら終わるの…
私早く結婚したいのに…」
「うーん。
もういっそ結婚しちゃえば!」
軽くそういうチャラ従兄弟。もっと真剣に考えてよ!と言おうと思ったけど
「それいいね!」
よく考えるとそれっていい考えじゃないか?
ストーカー野郎も私が既婚者になれば諦めもつくんじゃないだろうか?
「なかなかいいアイデアだね!私も早く結婚したいって思ってたし!」
「ほんと!?そういう気になってくれて俺としては嬉しいけど…
本当にいいの?」
「うん。よーし、早速私と結婚してくれそうな人見つけるぞー!」
そういうと私は従兄弟と別れてダンスフロアへと向かった。
後ろで従兄弟が何やら言っている。恐らく頑張れと応援してくれているのだろう。ありがとう、その銀髪引抜こうかと思ってたけど勘弁してあげてもいいよ。
ダンスフロアに行くと、そこではたくさんの人がワルツを踊っていた。
すると
「お嬢さん、僕と踊っていただけませんか?」
と声をかけられた。相手を見てみると、黒髪青目で背はまあまあ高く筋肉もそれなりについているので体も鍛えているのだろう顔面偏差値は55くらいの青年であった。社交界で何度かお話ししたこともあった気がする。私が結婚相手に求める条件に当てはまっているように思う。
一曲踊ったあと「ちょっと向こうでお話ししませんか?」と言われたので言われるがままについていった。
着いた先は休憩につかう個室だ。
若い男女が個室に2人っきりというこの状況。
まぁ、普通はそんなとこに行きはしませんよね。
でも私は狙いがあってここに来たのだ。
そう、この男が恐らく十中八九ストーカー野郎だからである。
初めは何も気にしてなかったのだけれど、ダンスをしながら考えてみると、黒髪で男でストーカー野郎と特徴が似ていると思ったのだ。と言っても、黒髪は別に珍しくもないためそれだけでこの人がストーカーかどうかは分からない。
しかしこの男がダンス中に
「貴女はやはりとてもお美しい。毎日見ていても、この距離で感じる貴女はより一層良いですね」
と言ったのだ。
この発言めちゃくちゃ気持ち悪く無いですか??
びっくりしてバランス崩しそうになったよ。すってんころりんするところだったよ。なんとか耐えたけど。
毎日見ているということは、つまりこいつがストーカーである可能性がとても高くなったのだ。いや、おそらくこいつで間違い無いであろう。
この際きっちり成敗しなければと思い、男の誘いにのり個室までやって来たわけである。
だが皆さん、安心してほしい。
こいつはそれなりに体を鍛えているようだけれど、騎士ほどでは無い。つまりこいつが私に何かしようとしても、私がこいつに負けることはほぼ無いと思っていいだろう。
さらにさらに、ストーカー野郎が今日の舞踏会に来ることはわかっていたので私も丸腰で来たわけでは無い。
今私が履いているこの靴。これのつま先には鉛が埋め込んであり、これで男の急所を人蹴りすれば私の勝利は確実だ。この靴結構重くてダンスするの難しかったんだよね〜
でも使う機会があったなら良かった良かった。
つまり、万全の体制でこの場に臨んでいるわけである。
「それで、わざわざ個室まで来てなんのお話ですか?」
なぜここに来たのかわからない艇を装ってそう尋ねてみた。
「なぜって…貴女は分かっているのでしょう?」
そう笑顔でいう男。こいつの発言の一つ一つにイラつく。
「いえ…私にはさっぱり分からないのです」
わからないフリを続ける。我ながらなかなかの演技力ではないか?
「ふふっまぁわからないフリをする貴女も可愛らしいので良いのですけどね。
私は貴女を愛しています。結婚していただけませんか?」
…。
はい。唐突にプロポーズされたましたー。
え、いきなり結婚なの?お付き合いとかその前段階は全てすっ飛ばして結婚ですか??
さすがストーカー。考えることが普通の人とは違うのね。
「いえ、その前に確認したいことがあるのですが。貴方が最近私の後をつけている人ですか?」
一応確認しとかなきゃね。
「え?あぁ…そういう言い方も出来ますね。
私としては貴女の姿をこの目に焼き付けたいだけなのですけどね」
はい。完璧にこいつがストーカーで決定!
「そうなんですか…
私、貴方とは結婚できません」
そういうと、さっきまでにこやかに微笑んでいた奴の表情が凍りついた。
「…。なんで…
なんでなんですか!!!」
そしてキレたーーー!!!
「なんで…私は貴女をこんなにも愛していると言うのになぜ受け入れてくださらないのですか…
なぜ…どうして…」
いや、寧ろなんで受け入れてもらえると思ってたんだ?こっちが聞きたいんだけど!
「仕方ないですね…本当はこんなことしたくなかったのですが、貴女が照れて素直にならないのが悪いんですよ」
そう言って奴はジリジリと私に近づいてきた。
おいおい、ちょ、その顔かなりやばいぞ。完璧にやばい奴の顔してるぞ。鏡見て来いや!
奴が私に手を伸ばしてきたその時
「ごちゃごちゃうるさい!このストーカー野郎!」
ドカッ
「ギャーーーーー!!!」
私は思いっきり奴の股間を蹴り上げた。
奴はすごい叫び声をあげてその場にうずくま
ってしまった。
ふっ。私に襲いかかろうなんざ100億年早いんだよ!おととい来やがれ!!
こうして私はストーカー野郎を見事撃退することに成功したのであった。