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未完結作品  作者: しつマ
──第二章── 森の患者 上
9/51

勘違い

 前回の更新予定日は試しにpcで書いてみようときてみれば、遅れてしまいました。余裕がある時に試してみるべきでした。遅れてすみません。


 今回も宜しくお願い致します

 戦争が落ち着いたこの時代にしては珍しいライフル弾が、鬱蒼と生い茂った森の中に火薬と共に打ち出され、人が放つ矢とは比較にならない速度で影へと向かう。


 確かな手ごたえ


 シャルが感知している魔力の反応がわずかに揺らぐ。とても敏感な感覚が、エルフによく似た反応に異常があったことを察知した。レジストされていない状態でのシャルの魔力の察知能力、それは現代の軍用レーダーに等しい。魔力のある生き物なら、例えその地をどこまでも眺める目が届かなくとも、魔力だけで姿を追うことができる。シャルの種族が世界最強と言われた理由の一つ。


 そして違うことは差別を生む


 シャルが高額な傭兵の中に入ってる理由も大まかに言えばそういうこと。エンシェントルートの全盛期から時が過ぎて時代からはじき出されようとも、単純な力の差では他の種族の追従を許さない。エンシェントルートの強さは度重なる戦場のレジストなどで地に落ちようとも、単騎の力の差、そこで多種族に負けるはずがなかった。


「さすが、と言うべきですか?」

「勝手に言えば良い……」

「ではそうさせてもらいますよ」


 シャルは興味なさそうに馬車を盾にしている商人を振り返る。


 傭兵として捨て駒とするにはこの商人がやってきた場所は一人一人が高い。そして今回はシャルに対する指名依頼。商人の護衛において傭兵とは敵が現れた時に置き餌として使われることが多い。そこでわざわざ高価な龍種を雇う必要性はない。

 シャルが疑問に思っているのはそのような理由だった。エルフの里に向かうだけの道中の商人の護衛だけで高価な傭兵を雇う必要性はない。そのおかげでこちらは目的のハーフエルフに会うことができ、商人は危険から脱出することができた。結果からしてみれば良かったとも言える。しかしここまでの戦力が必要かと問われれば首を傾げざるを得ない。


「敵は殺したのか?」

「……」


 シャルは無言で構えていたライフルを背中に付けると、腰につけた小刀を抜く。商人を守っていた黒い鎧を着た者も腰から長剣を抜く。無言で行われた二人の流れるような一連の動作に商人は引き攣った笑みを浮かべた。

 街と街を行き来する普段商人が見慣れた、粗悪な装備で固めた盗賊を相手にする時の傭兵の姿ではない、実際の戦場の中にいるような雰囲気。そんなことを感じたことがない商人は完全に完全に飲み込まれていた。

 普段、戦争のことなど話でしか聞くことのない。話だけ、文章だけの中でしか知らない人が戦争の雰囲気の中に閉じ込められて戸惑わない人はいない。


「黒騎士……」

「ああ、まだだ」

「ど、どうしたんだ!? い、一体な……」


 商人の声は遮られる。頭上から段々と大きくなる影によって。


「~~!」


 声にならない叫び声を上げてシャル達がいる馬の間に飛び込んでくるのは小さな影。シャルがその影に向けて小刀を向け、黒い鎧を着た黒騎士が商人を守るように長剣を影に向ける。


「あなたは牙を持ってる……?」

「キエエエアアアアッ!


 返ってきたのは先ほどと同じ意味をなさない叫び声。シャルはその様子にほんの少し演技のような(・・・・・・)寂しそうな顔をした。


「こんなことをしても何も変わらないと知っているくせに……」


 何も変わらないとしても、何が変わると信じてやって行くしかないのだろうか。それでなければ人は生きていくことはできないのかもしれない。でももうそんなことは。


 諦めた人にはわからない


 金属の刃を掠るようにしてナイフと小刀が交差する。シャルがハーフエルフの急襲に避ける暇すらなかったとでも言いたいのだろうか、余裕を得たように笑い、突然現れた人影に馬が逃げて作られた場所にハーフエルフは着地する。


「え、子ども?」

「子供だからと油断するな」


 商人の声は人とは違う長い耳には届かない。ただハーフエルフは何が面白いのかにやにやと笑みを浮かべる。シャルと黒騎士は滅多に見ることのないエルフに関係する種族の姿をもの珍しそうに眺める。今回の目的はこの子の確保。五体満足(・・・・)であれば怪我などは問題にすることはない。人攫いに近いが、守る者のいない幼い子の身など一切権利を持っていないようなもの。何をしたところで、何処からも何も言われる筋合いはない。そんな暗黙のルールが当たり前に存在している。

 非人道的だと思うが、実際世界からしてみればそんな扱い。暗黙のルールを行われた者が再びルールを行う仕事に戻るのだから、悪循環が止まることはない。子どもを救おうとする孤児院は数が足りず、戦災孤児の数は減る傾向にはない。


 シャルを狙って走り出すハーフエルフ。さも今から相手を殺す、その愉快な、愉快な、出来事自体を楽しんでる狂った笑みを浮かべて。距離は近い。依頼もあるので逃げることは行動の選択の中には存在しない。

 そんな中、敵が近づいてきているというのにシャルは手に持った小刀を鞘に納刀し、体を捻ると背中のライフルを抜き取り足に照準を合わせる。銃、なんて最近開発された物を見たことがないハーフエルフは、さっきの現象から、持っているものが音が出て爆発する物だとは理解していたが、特性は理解していなかった。


 再び銃声


 しゃがみ、転がりながらハーフエルフの足を狙ってライフルを撃つ。ナイフはシャルを掠ることもなく虚空を切る。幼い子は急激に熱を持った足から崩れ落ちた。シャルに向かわせることでずらした軌道はハーフエルフを馬車に衝突させることなく、踏みしめられた獣道の様な所に体を投げ出させる。


 ハーフエルフは地面に崩れ落ちる寸前に矢筒から数本矢を掴むと、まとめて弓で引く。日々の習慣のようなもので行った行為だが、結果としてそれが分かれ目となった。弦を引いてさあ撃とうと心を落ち着かせるために瞬いた。次の瞬間。


 左手にライフル、右手に小刀を持ち、弓を構えたハーフエルフの前へ飛び移るシャルの姿があった。咄嗟に放たれた四本の矢を身を翻して避けると浅く腕、足、と切りつける。純粋に急所のみを狙った傷はハーフエルフの戦闘力を奪うのには十分で、ハーフエルフは驚きと苦しみで弓矢を手放す。シャルはハーフエルフを切りつけたそのままの勢いのまま、小刀の柄で頭を叩き意識を失わせた。

 倒れたハーフエルフ。噂となるにしては実力が少々足りない気もした。シャルの依頼額と釣り合うには実力的には足りないため、シャルに来た本来の依頼は実力が欲しいといったそういった用件ではなく、また別の理由か、それともシャルがこれだけのレベルだと思われたか。


「し、死んだのか?」


 少し枯れたような震えた声で、そういえば商人の護衛としてここへ来たことを思い出す。


「殺す必要が……?」


 血の付いた小刀の腹で、小さな首を動かして商人に顔をよく見える様にする。薄く刃が入ったのか一筋小さな血の水滴が落ちた、


「気絶して貰っただけ……」

「そ、そうか」

「何故そこまで怯える……?」

「まだ子供じゃないか。別に殺すまでのこともこともないだろ」


 シャルは首を傾げる。子供だからと殺さない理由を見つけることはできない。この世界においても当たり前のように少年兵は存在している。黒騎士もまた護衛の立場からか口を開いた。


「子供だから何……?」

「戦士に年齢は関係ないだろう」


 商人は黙る。商人とシャル達はとても話の通じる人とは思えなかった。商人は言葉で、話で生きている。価値観の違う人と無用な議論を交わす気にはならなかった。


「それで、どうするんだ?」

「何を……?」

「倒れているその子のことだ。まさかここに置き去りにはしないよな?」

「連れて行けば……?」


 何も知らない者に本当の目的を言うわけにもいかないため、自主的に行かせようとする。この男は案外情に深いようだ。うまく行けばエルフの里まで限定だが運んでくれるかもしれなかった。ここでハーフエルフを商人の馬車に乗せて貰えないとなれば、黒騎士が何処かまで持って行かなければならないため時間がかかる。無駄なことをしたくなかった。


「あなたが置き去りにしたくないのないのなら……連れて行けば良いだけ……」

「……」

「当然僕は持って行かない……そもそも僕はこの馬車に乗っていた……」

「ああ、もう乗せて行けばいいんだろ!」


 やけになった。高級傭兵を雇い、馬を何頭か失い、荷物も増えることによって足も遅くなって行く。今回の旅路では何一つとして商人に得することが無い。ここまで悪条件が揃えば頭も抱えたくなるだろう。


「犯罪者でも、こんな女の子(・・・)、放っておけるか」


 自分にはない思考に、とても扱いやすい、と思ってしまったのは仕方がない。ハーフエルフを同行させることが意外とすんなり行けたことにシャルは喜んだ。


「行く……」

「分かってるって」


 シャルは商人に出発することを促すと、黒騎士はハーフエルフを肩に担いで荷台に登る。


 御者台に乗った商人は数頭減った馬に鞭を軽く振るって馬車を発進させる。ゴトゴトと未舗装の道を木に鉄を挟んだだけの車輪が踏みしめていく。シャルは荷台の床に寝かせたハーフエルフの傷に取り敢えず止血用の布を巻くと、襲撃前と同じくぼんやりと過ぎて行く景色を眺めていた。

 今回受けた依頼もどちらも終わりに差し掛かっている。金が欲しいとは思わないが、探しているものの手がかりの一つにでもいいなと思い続けていた。───待つだけの受け身でしかないが。


「そいつはまだ目が覚めないのかい?」


 しばらく時間が経つと、商人魂からか先ほど失った物のの大きさなど一切感じさせない口調で商人が聞いてきた。


「いや……」

「ふん、追いついた顔をしてるな」


 未だに開かれることのない襲撃時とは打って変わった大人しそうな目を見て答える。


「そうか。俺は信じられたないが、そいつが最近噂になっているやつだとしたらどうするんだ?」

「どうする……?」

「エルフに出すのかどうかだ。そいつはエルフだから、エルフに突き出すのは当然だろう。だけどな、もし出すとしたら俺はこいつを引き取ろうと思っている」

「それは何故……?」

「子どもに罪はあると思うか? 俺はないと思う。その子がこうなったのは大人の責任だ。俺がその子を引き取って育ててみようと思うんだ」

「得にならんものを得てどうするんだ?」


 黒騎士が冷たい声を出す。


「いやいやそんなわけではない。俺が気に入ったんだ。姿が露出していない犯罪者をもらった所で、そう大きな問題にはならないだろう」

「お前の考えは甘すぎるな。何処から情報が漏れるとも限らんぞ」

「そうか? イラさんと、鎧の方が黙ってくれれば案外気にされないかもしれないよ」

「僕達に黙る理由があるの……?」

「……」


 商人はこの後にこの高級傭兵が言おうとしていることが予測できてしまった。


「なら口止め料としての追加報酬……」

「わかった、わかったから。どれだけ俺から金を奪えば気が済まんだ!?」

「あなたが勝手に増やしているだけ……」


 お前が増やしているんだろ、との言葉を商人は飲み込む。これも授業料の一つとして諦めることにした。


「くそ、もう高級傭兵なんぞ頼むものか。せっかく金がまとめて入ったから高望みをしようと思って雇ったのに、相当な赤字だ」

「当然……高級傭兵は先に戦争に行くような人達……あなた達が雇う傭兵よりも高くなるのは当然……」


 高級傭兵は戦争となれば真っ先に最前線へと飛ばされる。性質上いつ死んでもおかしくなく、生き死にに関わるため報酬も高め。

 商人が雇う一般的な傭兵は戦争に呼ばれることはない。その分、当たり外れが激しく、戦闘力は落ちるので基本的に報酬が浮くことになっている。一攫千金を狙って戦争に行くか、護衛などで安定を望むかは傭兵達の自由。


 そしてどちらも無線労働を良しとはしない。


「くそっ。でも時間は経つもんだな──そろそろ着くぞ、イラさん。黒い鎧の方。珍しいエルフの里、ストゥルフだ」


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