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未完結作品  作者: しつマ
──第一章── 商売
7/51

豪華な褒美

「取り敢えず現状の説明でもする……?」


 空の中を落ちる、それだけのことなのに気体の摩擦で相応の騒音を撒き散らす風に負けないように大きな声で、雇い主は周りの年少兵達に聞こえるように叫んだ。


 雇い主達の頭上に見えるのは、さっきまで商人として堂々と乗船していた輸送用の飛空挺。当然ながら大海原を渡る海洋船ではない飛空挺は、大海原を泳ぐためのスクリューや帆代わりにプロペラやエンジンを使って空を飛ぶ。

 故に一歩だけでも間違ってそこから落ちれば、その先にあるのは少なくない衝撃を与えながらもしっかりと支えてくれる真っ青な海ではなく、接触した途端に自分をミンチにする可能性だけを持った硬い地面だけだ。


 そんな中、翼を持っている魔族の一部や有翼族でもない人族、翼を持たない年少兵達は真っ直ぐに下へ下へ、地面へと落ちていっていた。

 殺傷の場にて血肉を直視して今にも吐きそうな顔をしていた年少兵達は、今の現状を理解するなり打って変わって必死の形相になり、手足をジタバタさせてどうにかして空中に留まろうとしている。

 だが、誰から見ても、その行動が全くもって何の意味もなしていないことは明白。本人達もそんなこと考えてはいない。


 なら、そんな場所で何で雇い主が現状の説明をしようとしたかといえば、今後雇い主が彼らと共にいるわけにはならない、と言うことだった。

 年少兵達が果たしてこの状況で生活を成り立たせられるのかどうかは判断し難いな、彼らが新しい生活を始めるように、雇い主にも彼らと出会う前の今までの生活がある。

 年少兵の世話役兼、商人としての立場は今日、ハワードを殺害した今終わりを告げたのだ。

 商人としての立場を捨てて残っているのは、ただのそこら辺にいるような一傭兵。とてもではないけど、商人としての人脈が何もない中で、今の時代信頼がすべての商人なんてやっていけない。船から商品(年少兵)を捨てて降りた以上、信頼は地に落ちたことだろう。


「ーー、ーー!」


 落ちていく年少兵の内、雇い主の声が聞こえた一人が雇い主に向かって何かを叫んだ気がしたが、雇い主には何も聞こえなかった。人間が強風の中で普通に叫んだところで、下から立ち上る強風によって声は遮られている。

 だからこの説明は、雇い主から年少兵達への一方通行。年少兵達からの質問も、雇い主が喋ったことを聞き返すことも認めない。雇い主による自己満足だしね。


 しかし聞こえないところもあるかもしれないから音で左右される声ではなく、念話で伝えることぐらいはしてあげようかと考えていた。


〈あなた達も知っている通り……僕はあなた達に一切の責任も持たないし……持とうとも思わない。それは分かっている……?〉


 辺りを見回すと既に年少兵達は手足を動かすことをやめていて、突然頭の中に聞こえた声に年少兵の中の何人かだけは過剰に反応していた。

 反応していない他の人?相変わらず震えていふだけだった。ひょっとしたらあまりの高所と衝撃に気を失っている人もいるかもしれない。


〈だから……僕があなた達を助けるのもこれが最後……現実的にはあなた達に年少兵の商人の保護はなくなる……〉


 念話は、魔力をモールス信号みたいに途切れさせるように変異させながら、人が喋っているかのように当人達の脳裏に再現させる魔法。

 魔道士が訓練をすれば誰でも扱える下位魔法であることから、精神魔法に入るか、入らないかの境界線にある。

 信号となった念話が伝わった生物の脳が、勝手に相手が喋っていると判断しているだけなので視覚的には、今の場合年少兵達が雇い主を見れば雇い主は口を動かしていないし、声も出してもいないことに気づくだろう。


〈これは知っているはず……何を意味するかも……〉


 さっきの話で、商人からの保護がなくなることの意味がわからないのなら相当頭の回転が遅いか、ただの馬鹿。雇い主は年少兵達が馬鹿ではないことを祈っている。


〈最後の温情として……世界情勢でも話す……〉

「!!」


 初めから話そうと決めていたことだった。話す必要もないかと思ったけど、結局話すことにした。


〈その前に……時間遅らせる〉


 雇い主は体の中心部から膨大な魔力を放出し、球体状に周りとの時間列を遅らせる結界を張った。アルセとの離反に泣き腫らしたメクは少し何か感じたような表情を見せたけど、皆結界を張ったことに対して何も感じていなかったようだ。


〈この世界の東西分離について……年少兵という立場上わかると思うけれど……西にはあなた達のような人族……東にはあなた達の戦争の相手である魔族や亜人がいる。

 面白い。別に同じ格好をしていなくとも……同じぐらいの知能と思考を持っているというのに……両国は対話をすることもなく……殺しあう関係……〉


 本当に奇妙なこと。話し合う余地もあるのかも知れないけれど、西にいる人族と草原と砦を挟んで東に魔族はどうしようもなく仲が悪い。


 人族達の総本山【セイラ聖国】に【エーレンベルク王国】そして独立国家【ケスビール帝国】


 魔族の総本山【クラルル王国】に龍が作った国【アルテナ】その他まばらに種族集落。


 一つの人族にとって純粋に敵の魔族の国に対して人族の国は三つ。一つにまとまるべき集団が二つに分かれている時点で、人族達の団結力は疑われている。

 さらに言えば、外海に閉ざされているケスビール帝国は完全的に何処からの交易を断っており、現在鎖国状態。

 人族の軍隊は、さっきまで見て来たハワードの例に及ばず前線以外での上層部の腐敗が進んでおり、襲撃直後にまるで襲撃なんてなかったかのように振る舞う始末。


 魔族の方も魔族の方で、少ないながらも人族がいるクラルル王国は、本来は多種族国家なのだけれど上層部に固まっている魔族達は周りにいる種族達をやたら統率したがる癖があり、必ずと言っていいほどの他の種族に対する上から目線の言動もあって大概嫌われている。

 龍の国アルテナは統率すべき皇がいなくなり、荒れていたが、最近は皇に変わるものを見つけたとの情報が耳に入ってきている。

 国として独立しているアルテナは、皇の居なくなった混乱を抑えて、再び龍とそれに準ずる者達が一丸となろうとしている。噂では宗教が絡んでいるとか……


〈こんな腐った世界だけど死にたくないのなら武器を持て……知識を持て……〉


 雇い主の語った事柄は、この世界で光なんか浴びることも許されずに、底辺の塵として生きるために必要なこと。今の情勢だと、年少兵達が再び光の中に戻ることはとても難しい。


〈今更、普通の生活なんてできないのだから……〉


 だけど、それでも戻れる人がいるのなら、とても興味深い。医師から余命を宣言されて、それを覆して生き続けることと同じだから。


〈精々死なないように……今から死ぬかもしれないけど……〉


 最後の念話を閉じると同時に、雇い主の勝手な話のために遅めていた時間も元の速さに戻した。

 再び元の落下に戻った年少兵達。だけどみんな雇い主の言葉を聞いてわからないことが多々あったのか顔に疑問を浮かべたように雇い主を見ていた。それでも答えない雇い主に見せる瞳は、批判するような純粋な目。


「……」


 出来るの?違う運命を迎えるの?

 こんな塵の中からでも、世界の光の中に戻れる人がもしかしているのなら……


 僕も戻れますか?


 世界が軋みを上げた(・・・・・・・・・)。厳密に言えば、世界を形成する内の一つ、空間だが。

その中で雇い主は、向かってすぐにある薄汚れた金髪の体を掴む。雇い主も小柄だが、それを踏まえてもメクの体は小さい。


「特別特典……」

「………………はい?」


 地上に差し迫り死が見える中、雇い主がメクの耳元で囁いた声。果たしてメク本人に聞こえたかどうかはわからないけれど、聞こえようが聞こえまいがどちらでもいい。


 メクが、一緒に落ちて居たはずの他の年少兵達とは違う位置に移動していることに気づいた時には既に遅い。

 緑色の絵の具を塗りたくったかのような草原が目の前に迫って来て、メクは思わず青色の瞳を閉じた。


 雇い主の腕の中にある小さな体がガクンと揺れる。意外と……重い。


「え、ええ、え?」


 強引に振り返ったメクが、今の雇い主の姿を見て思うことは、なんだろうね。


「て、天使……?」

「天使は居ない……」


 天使……か。神と同じでいるのか居ないのかわからないが、雇い主はその目で見たことはなければ、世界を守る天使か居たらこんなことにはなって居ないので、居ないと答えた。メクは不思議そうに首をかしげるだけだ。

 植物生える地面に乱雑にメクを投げる。雇い主は腰のベルトに仮止めで付けた太刀を外して左手に持った。


『変換……霊着』


 判別のための短絡詠唱は、雇い主が体の内や周辺に纏う魔力を制御する。もっともこの魔法は倉庫としている異空間と空間を操作して服装を変えるだけ。

 薄汚れた上に血糊のついた茶色の外套の服装から、装飾の施された白の膝の下まであるインパネスコートに着替える。白いコートに黒いケープ。


「神もいない……だけどあなたは信じる……」


 座り込んで呆然とこちらを見つめるメクに.雇い主は船の中で兵士から奪い取って取って、空間移動の際に投げ出された長剣を投げた。折りたたみナイフに長剣と二本与えるのは贅沢かもしれない。


 メクが座る地面、そのすぐそばに剣は刺さった。


「自分の力だけ……」

「ま、待ってください!」


 果たしてメクは何を感じて雇い主を引き止めようとしたのかはわからなかった。止まる義理もない雇い主は目の前にいるメクから森の方へと歩いて行った。


 生きれれば良いね

ここまで一気投稿です。次からは記載の更新ペースになります

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