光と剣
どうも、しつマです。この話はかなりの長編になる予定です。
誤字脱字、矛盾点、よくわからないから必要な説明がありましたら気軽に教えて下さい。筆者の文章力の範囲で何とか解決します。
その場には誰も居ない……いや、皆燃えてしまって居なくなった焼け野原、ぽっかりと空いて荒野のようになった森の中心で……一人の華奢な少年と男がそれぞれ己の獲物を持って静かに対峙していた。
片方は一切の反りもなく、飾り気も少ないが遠くにいても感じられるかくらいの強い魔力を持った長剣を。
それとは反対に、もう片方は反りの入った、その背に対しては少し大きめな感じのする刃の真っ白な剣、太刀を。
「ほ、本当……?」
「あぁ、本当だよ。人は嘘をすぐにつく生き物だけど、今のは本当だよ」
深く赤いフードを被った少年の方からは鈴の鳴くような静かで、でもどこか神秘的にも聞き取れる声。所々豪華な金色の装飾の為された鎧に全身を包んだ男の方からは凛とした響く声が荒地となった辺りに響きわたる。
「……だから、僕を殺してごらん」
「そ、そんなこと……出来ないよ」
少年は悲痛な声を上げた。オーバーなアクションから揺れ動いたフードからは、見る者を虜にさせるような端正な顔立ちと、宝石のように深く、輝いた真っ赤な瞳が覗く。
「できるか出来ないか、じゃ無いんだなぁ、これが。君だって分かるだろ?何の見返りも無しに人について来させないことぐらい」
「だ、だけど……」
「ここにくる前に、それこそ僕はいくらでも君を殺せたんだよ。なのになぜ君を殺さなかったんだと思う?」
男の続く言葉に、少年は今にも向ける太刀をを下ろしそうになっていた。決して太刀を向ける予定もなかった相手、自分の技術が到底叶うとも思っていない相手。そんな人に向かうことがどれだけ無謀なことかは分かっていた。
しかしその人に向けた太刀を地面に下げることは決して許されない。
そう……これが最初で最期のチャンスなのだ。今まで、どんなに苦しい時でも一緒にいてくれた恩人に報いることのできる。
それは少年の頭の中でははっきりと分かってた。だからと言って中々行動に移すことができるはずもなかった。
この時、少年は周りに人がいないとじんわりと涙を浮かべる寂しがり屋で、思いやり深い、どこの国でもいるような大人しい少年だった。
「ひとえにこのためさぁ。ほら、この聖剣と呼ぶのも腹の立つ剣の力も弱って来ている。君の実力で勇者の僕を倒すには今しかないんだわ」
「だ、だけど……」
男は瞳を鋭くする。その気迫に思わず少年が一歩後ずさった。
「それとも何だい?君はこの勝負から逃げるのかい」
「……」
「今君が逃げた所で君も、僕も、何も変わりはしないよ」
少年は……男の言葉に返事が出来なかった。男の気迫に負けたと言ってもだ良いだろう。しかし、だからと言って、勇者と自ら名乗った男から少年はその場を立ち去ろうとは決してしなかった。
「もういい?行くよ」
勇者は足に力を込める。
「ま、待って……」
「何だい、もう……」
少年が修行中、なんども聞いた、言わせた呆れた声で勇者は言う。少年は一つの提案をした。
「もう一度、あの宣言を聞かせて」
「しょうがない奴だな、君も」
勇者はその少年の言葉を聞いて、瞳から薄っすらと一筋の涙を落とした。
それが何が原因で流れたのか、勇者に正面から対峙していたその少年にはわからない。ただただ、そのぼんやりとした意識を戦闘へと持ってくことぐらいしか出来なかった。少年は恩人の為にようやく、薄っすらとだが決意をすることが出来たのだった。
「勇者、アルバ!いざ参る」
「アルバ……さん」
勇者が足を踏み出すと同時に焼け野原になった辺りに駆け巡った閃光は、昼で明るかったその場を、太陽が照らす下よりも、さらに明るくして行き、周りにいる全ての目を眩ませる。その眩しいばかりの光の勇者に向かって少年は、太刀を構えて足を踏み込んだーーーー
「うっ……」
全世界の、人類の希望。等と、今まで言われていた本人は自分には大袈裟すぎる言葉だと思って受け取っていた。
自分は希望である光の勇者、そう人々から呼ばれるまでの器ではない。自分一人の明日の生活のことしか考えられず、国が国民に対して勇者のことを伝えた内容とは違う。国が言う通りに守るべき他人の事など一切考えることのない不器用な人間だと。
それでも、誰に何と言われようと自分がそのことをわかっていた勇者は、国から言い渡されていたその任務をきちんと果たした。だが同時にそれは勇者に迷いも産んだ。そこで勇者に産まれたその疑問、それは果たされることはないただ……
この少年に受け継がれた
勇者の血をふんだんに吸った太刀一本を、杖のようにして地面に突き刺して立っている少年に。傷のついた鎧で倒れる勇者は青い空をコントラストに最後の風景になるであろうその様子を見ていた。
凄まじい戦闘がそこにあったかのように少年の端正な顔の端には決して浅くはない傷がついており、顔を隠す為に着ていたフード付きの外套も新品の姿の予想がつかないくらいにボロボロになっている。
その満身創痍な二人の様子から目を離してあたりを見回してみれば、いくつもの深いクレーターや割れ目が、始まる前から荒地になっていたその場所に新しく刻まれていた。
誰も見届けることのない"最高の剣士"による決闘はこうして終わりを告げる。
「アルバ……さん、痛いですよね、苦しいですよね」
少年は血塗れになって地に横たわる勇者を見て表情の感じられない、いや、よく聞き取れば恐怖で僅かに震えた声でそう語りかけた。
「アルバさんはこんな汚い僕が斬ってはいけない人なんです。僕よりも、もっと生きるべき人なんですあなたは……」
「ま、そん…………な卑屈になる……な」
口を開いた途端、勇者の口元から飛び出る血。内臓が死んでいるのか、それともただ単に舌を切っただけなのか。そのどちらの可能性を考慮しても、体の出血量から簡単に見積もれるくらいに生き残る可能性は大変低い。
「後……君………………に褒美をやらんと……な」
勇者は震える手で己の首元から何か金属製のプレートを外す。
血塗れになったプレート。勇者の横に崩れ落ちた少年は、掲げられたそれを見て大きく目を見開いく。
「え、そ、そんな!?」
「まぁ………………受け取れ。おまえが……今日からの剣神だ……」
少年は……その端正な顔を涙で汚く汚した。血と汗に混じり合った涙が地面に滴り落ちて染みを作る。
剣神であり、勇者であったその人本人が少年に剣神の称号を譲る。それはその人が己の敗北を語っているのと同じ価値のもの。
汚い僕が貰ってはならない物
「別に……今つけろとは言わないよ」
勇者は笑顔を作る。死にかけの笑顔はあまりにも強引すぎて口の端がふるふると震えていた。
「自ら……剣神と名乗れるようなった時……付ければいい……」
「……」
「おっと、お迎えだ……さらばだね……」
そこまで言って、いきなり勇者の瞳は閉じられた。
「ア、アルバ……さん?」
少年は勇者の体を揺する。頭を打った人を動かしてはならないと聞いていても、思わずそうせざるを得なかった。
今まで決してそんなことをしなかった少年がそれを行った理由、それはもう頭の中ではとっくに理解しているからであろう。
「アルバ……さん……」
美しい少年の消えかけの声は、青い空が広がる森の中へと消えて言った。