六
今日はまだ食堂をやっていたにも関わらずマスターの炭火焼チキンとからあげの丼が食べたくてきてしまった。
マスターはバーなのに体育会系なの?ってくらいのボリュームメニューを用意してくれるから好きだ。
あの炭火焼チキンとからしマヨの絶妙なハーモニーにガッツリいきたい時に欲しいからあげが一緒だなんて素晴らしいの一言だ。
後からニールも来て結局今日は飲む気のなかったお酒を飲んでほろ酔いよろしく帰宅しようとしたらもう遅い時間だから、とニールが私の宿舎、(といってもほぼただの少し豪華なアパートメントだけれど)そこまで送ってくれることに。
それまでは良かった。
送ってくれるのも初めてじゃないしね。
ええ、それまでは。
「あれ〜?ジュドさんのお姉さんだ!」
聞き覚えたばかりの声に私は振り向き、遅れてニールも振り返った。
「こんばんは!よっ、と!へへ、ちょうど良かったぁ〜!困ってたんです!」
振り向いた先には先ほどあったばかりの年下君、とその子に肩を担がれている…恐らく意識のないジュドの姿があった。
「ジュドのお姉さん…?」
「いや、諸事情でそれ嘘だから…」
「なるほど…」
面倒くさいと顔に書いてあるのが伝わったのか、小声でニールとやり取りをするも彼はすんなり理解してくれた。ありがたい…。
「えー、と貴方はお名前は?」
「あ、名乗ってないですよね、ごめんなさい。僕はパウロと言います。ジュドさんの後輩なんですけど見ての通りジュドさんが潰れて気絶しちゃって〜」
「ジュドはお酒好きだけどそんなには量飲めないから…それでも潰れるなんて珍しいわね…」
「僕もお酒で潰れるジュドさんは初めて見ました!というかまぁ、実は水とお酒間違って飲んでたみたいなんで、逆にすごいんですけどね。」
「…?」
どうしたというのか。
いつものジュドならそんな天然ちゃんみたいな間違いは犯さないのに…。
「ところで何を困ってたんだい?」
ニールが問うとパウロは「そうそう!」と私の顔をじっと見た。
「実はジュドさん昇格して隊の宿舎から引っ越したんですけど、僕新しい住所なんて知らなくて!お姉さんなら知ってるかなって」
引っ越し、ああそう言えばジュドは先日引っ越してきたな。
私も手伝わされたからよく覚えている。いや覚える所の話じゃない。
「うちの三軒隣よ。」
隊の新人が増えたために隊の宿舎を追い出されたと言っていたがなるほど、昇進も含めて追い出しだったらしい。
飲みに行くのに便利だからとわざわざ同じ宿舎を選び、そして空いていたのが同じフロアの三軒隣。まぁ隣とかじゃないだけマシだがこれじゃ村にいた時のことを思い出す。
ジュドの実家はちょうど私の実家の三軒隣だったから。
「同じ宿舎よ、たまたまね。」
「私も彼女を送るところだったしみんなで行こうか。」
「えー!良かった!案内お願いします!」
ずるずると引きずられるジュド。
さすがに少しは歩けと思い頬をペシンペシンする。パウロが急に先輩の頬を叩く私に焦ったのか若干顔を青ざめさせながら小さく「すみません、ありがとうございます」と言った。
「ぅ、ん…ん?」
ジュドがうっすら目を開ける。
「起きた?パウロ君が支えてくれるから、ちゃんと自分で歩きなさい。」
「その男、誰だ…」
「話聞いてる?ちゃんと歩き、」
「誰だ…」
担がれた姿勢のまま顔を上げたジュド。
私の後ろのニールを見つけるやジトリと見ている。
「ニールはほら飲み友達がいるって言ってたでしょ?今たまたまパウロ君とあんたに会って家まで案内するところよ。」
「じゃあ、…そいつは何故いる。」
「ニールが送ってくれるところだったの!面倒くさい!ほら行くわよ!」
まだ気になるのか言い足りなそうなジュドを無視してパウロとジュドの先を歩きだす。
背中に視線を感じるが気にしない。
(なによジュドのやつ、お酒に潰れたくせに保護者ぶっちゃって!)
それが保護者ぶった視線じゃなかったことに気づいてないのはお互いさま。