に
私のことを話そう。
私はリリス・ミネバ
21歳。
皇太子殿下の側近をしている。
異例の出世の背景には在学中であるにもかかわらず受けてみた国家公務員試験にトップで受かってしまったことが原因だった。
普通なら庭でおしゃべりをしていたような良いところのお嬢さんたちが側近やらをやるんだろうけれど、殿下は出来る人間が好きだから出身と側近は別に重きを置いているらしい。
私が何故こんなにも出世を頑張っていたか、というのには訳がある。
私は所謂モテナい女らしいからだ。
誰に言われたわけではない。
ド田舎から出てきた私は気がついた。自分自身の野暮ったさに。
祖父からもらった大事な瓶底眼鏡。
手入れの行き届いていない引っ詰め髪。
同じく手入れの行き届いていない肌。
そもそも何が美しい基準なのかが私にはわからなかった。それほど学校の私以外の女の子たちはそれぞれ素晴らしく輝いて見えたのだ。
入学早々私は玉の輿を諦めた。
村の人たちはジュドは出世を、私には良い縁談が見つかるようにと送り出してくれた部分が少なからずあった。
しかし、私は持ち前の頭脳で悟ってしまった。
この素晴らしく輝いている女の子たちの後に回ってくるかもわからない縁談を待つより、ジュドのように出世を目指し自分で稼ぐ方が早い、ということに。
(とりあえず稼いでみんなに何か返そう)
私はぼんやりと教科書に向き直るのであった。
それからうん年が経った。
一つだけ見た目に関して神様が見捨てなかったのだなと思う部分が私にもできた。
首から下である。
まぁ、年中寒い気候で分厚めのパンツスーツにコートかローブかポンチョを羽織っている私にはお披露目の機会が中々ないけれど、胸の豊かさや、それに比べて細い腰。適度な運動で培った良い感じの太もも。
未だメイクというものがよくわからない私だが、体つきには自信があった。
そう。だが、重ねて言おう、
お披露目の機会はない。
だって脱がないから。
終わった、と思わざるをえない。
神が与えてくださったものをどうやら私には活用できなさそうだ。
そうして私はさらに仕事に慢心するのであった。
「仕事熱心で助かるよ。」
「殿下がそう言ってくだされば幸いです。」
「リリスが良ければ縁談も用意する、と言いたいけれど君には僕の側にいて欲しいからね。ダメだね。」
穏やかに笑う殿下。
嗚呼、なんて良い上司だろう。
これでサボリ魔じゃなければ最高なのに。
まぁこのサボリ魔をなんとかできるから私は重宝されてる部分もある。
クリーム色の柔らかな髪が風に揺れている。
寒いのに殿下は窓を開けるのが好きだ。
庭からの花の香りや女の子たちの楽しそうな声を聞きたいらしい。
殿下は滅多に表舞台に出ないがその人柄やお顔立ちはジュド並みに人気がある。
「殿下はもうすぐご結婚ですね。」
「婚約が先だけどね、まぁ同じことか。」
隣国のお姫様。
美しいと有名だが、各国自分の子供は美しいとかカッコ良いとか同じことを言うから本当に美しい姫なのかはわからない。
それでもこの殿下は事が上手く運び、両国がより親密になることに対し「良かった」と微笑まれる。
健気で真っ直ぐな殿下だ。
私はこの方に一生を捧げたいと思っている。
「結婚しても、子供ができても、僕の側近は君だからね。よろしくリリス。」
「当たり前です。私は殿下に忠誠を誓ってますから。一生独身でも構いません。」
「…一生独身でもいいの?」
「殿下の側でお仕事させていただけるなら。」
「ふふ、そっかありがとうね。」
嬉しそうに、殿下はいつだって柔らかく笑う。相手に安心感を与えてくださる天才だ。
どうせ私は仕事と家の往復。たまにジュドの女避けで酒場に行くくらいの生活。
しかし私にはこれでいい。
でもそうだな、少しくらいは独身貴族を楽しめたらいいかな。
なんて思ってました。